3層目⑧:夢の中の誰か
目覚めは最悪だった。
夢から覚めても、まだ温室の中にいるような不快感が残っている。
足元にひしめく蔦の感触と、肌を刺す日差しが、現実に戻っても離れない。
加えて、昨夜は気づかなかったが、部屋が非常に埃っぽい。
外から差し込む光の中で、空気中の埃がキラキラと舞っているのが見える。
そんな中で一夜を過ごしたからか、のどの不快感に軽く咳が出る。
重たく感じる体を起こし、ヒカルは部屋を出てリビングに向かった。
リビングまでのわずかな距離が、やけに長く感じる。
昨夜の気まずい空気が感覚を狂わせる。
リビングに入ると、テーブルに頬杖をついためぐると目が合った。
お互いに何と声をかけたものか探り合う、昨夜の張り詰めた空気とは違う、ぎこちない沈黙が漂う。
先に声をかけたのはヒカルの方だった。
「おはよう。……その、遅くなって悪い。」
めぐるから目を逸らし、バツが悪そうに頭を掻きながらの挨拶。
ヒカルらしい、不器用な歩み寄りを感じ取ったのか、めぐるはふっと笑いながら挨拶を返す。
「おはよう。よく眠れた?」
「一応は。なんか、妙な夢を見たせいか、あまり休めた気はしないけど。」
「どんな夢だったの?」
「あんまりよくは覚えてないけど、妙に現実味があってさ。昨日一日を、めぐるじゃない誰か過ごす夢だった。温室とか、エレベーターとか……。」
頬杖をつくのをやめ、めぐるはスッと背筋を伸ばす。
その瞬間、表情から柔らかさが消えた。
「私じゃない誰かって――どんな人?」
そして、尋ねる声は、いつもより真面目なトーンだった。
しかし、ヒカルは、思い出すようにやや上に視線を移していたため、それに気が付かなかった。
「銀髪で、黒?藍色?のコート着てたかな……。変だよな。俺、めぐるの他に誰にも会ってないはずなのに。」
「………。」
めぐるは一瞬だけ視線を落とし、何か言いかけて―やめた。
「そう、だね。不思議な夢だね。それより、今日はどうする?また公園行く?」
「まだ遊び足りなかったのかよ。」
空中を漂っていた視線を、座ったままのめぐるに移しながら、ヒカルは呆れたように言う。
「そうだなぁ。今日は……。昨日見た看板に、医療区画っぽい文字があった気がするから、そっちを目指してみようと思う。それから、余裕があれば別の区画も。何か残ってるかもしれない。」
「そっか……。すぐに出る?それとも、何か食べてから出る?昨夜見つけた食料、キッチンにまだ少し残ってるよ。」
めぐるは、テーブルから視線を上げ、ヒカルに尋ねた。
「あぁ。どのくらい距離があるか分からないし、食べられるうちに食べとこう。」
「取ってこようか?」
「そのくらい自分でやるさ。」
答えると、ヒカルはリビングを後にし、キッチンへ向かった。
いつもの困ったような微笑みと共に、めぐるはその背中を見つめる。
その微笑みの奥には、拭いきれない何かが滲んでいた。
10年連れ添ったパソコンが死にました。
騙し騙しやってきましたがついに旅立ったようです。
新端末の手配とリカバリのため、4月8日以降の更新になります。
申し訳ありませんが何卒よろしくお願いします。
1-3話あたりも地味に手直し入れてたので、良ければ読み直してみてください。




