E14 このふざけた世界にも
(……考えてみれば、いつぶりだ? ヒトの身体に抱きつくなんて)
社会人になってからというもの、ライデンはすっかり疲れ果てていた。もともと根暗で彼女もできたことがないし、友だちともいつしか離れ離れになって、心の中にある空虚な気持ちが埋められないまま、28歳まで進んでしまった。
だけど、いくらこの金髪褐色幼女の身体が偽りだとしても、それでもライデンはヒトの温もりに触れた。スケベなことを考えることもなく、ただその温かさに身体をしばし委ねる。
「ライナちゃん、泣きたいときは泣いても良いのよ」
打算で出していたはずの涙が、いつの間にか本物へと変わっていた。ただ今は、涙が止まらない。似合わないと言われても、この姿で守原を欺いていると言われようとも、止まらないものはとどまらない。
「はい……」
大人になって、甘えられる相手も限られてきた。そして気がついたときには、誰にも甘えられず、むしろ自分が誰かを甘やかす立場にならざるを得なくなる。
けど、大人だって人間だ。目一杯泣きたいときもあるし、誰かに抱き寄せられたいときもあるのだろう。
「ねぇ、ライナちゃん。君は大人のように振る舞うけれど、私たちなんて格好良い存在じゃないのよ。みんな自分が大好きで、愛して止まない自分のためだったら、平気で幼児みたいなダダをこねるヒトもいる。もちろんそんなヒトばかりじゃないけれど、中にはそういう連中もいるわ」
「……、」
「それでも……このふざけた世界にも、まだ生きてることを喜びに変えられる力があるとも思うのよ」
「そうかも、しれないですね……」
「だから顔を上げて、良い1日を過ごしましょう。いつか、こんな日もあったけど生きてて良かった、と思えるはず」
ライデンは演技とはかけ離れた涙目のまま、顔を上げた。
守原は満面の笑みを浮かべて、ライデンへ言う。
「さぁ、ご飯を食べてきのう浴びなかったシャワーとお風呂、そのあと考えましょう」
すでにデリバリーは届いていたらしく、守原は置き配されているそれを取りに行く。
(……生きていても良いと思いたいから、仕事を必死にやってきた。だけど、仕事にのめり込めばのめり込むほど、生きている意味を見いだせなくなった。挙げ句にはクビになって、幼女にもなってしまった。でも……そうだよな。こんなふざけた世界でも、生きていることが喜びに変わるときが来るかもしれねぇ)
涙を拭き、ライデンは守原を待つ。
守原が戻ってくると、デリバリーの食事が届いていた。沖縄料理特有の香りが部屋に広がる。
「さぁ、食べましょう」
ゴーヤーチャンプルーの苦みは、意外とライデンの口に合った。幼い身体になっても、味覚だけは大人のままのようだ。
「美味しいですね」
「だよね~。夏バテ防止にもなるとかならないとか」守原は一旦箸を置いて言う。「ねぇ、ライナちゃん。君はピースキーパーを目指してるの?」
「え?」思わず声が上ずった。「そんな話、しましたっけ」
「君のお父さんが言ってたわよ。娘はピースキーパーを目指してるって」
父はいったい、どこまで話を進めているのだろう。ライデンは目を丸くする。
「ピースキーパーを目指すのなら〝ウィザードリー〟の関連学校へ入っちゃうのが、一番手っ取り早いわね」
「そうなんですか?」
「えぇ。なんて言えば良いのかしら。えーと、大学みたいな感じ、って小学生の子に言っても分からないわよね。小学校には通ってると思うけど、試験で合格すれば小学生から大学生まで通える場所よ。将来のピースメーカー候補生を集める……まぁ、防衛大学校みたいな場所かしら」
「なるほど。お給料も出るんですか?」




