E13 歩幅を合わせて
ライデンはしばし言葉を失った。父がなにを言っているのか、理解するには相応の時間が必要だった。
やがて、ライデンは守原が眠っているのを確認し、ボソッと呟く。
「あの通話で決めたのか。クソッ、父ちゃんも強引な手段使いやがる」
父のメッセージを見つめながら、ライデンは状況を整理しようとした。昨日、父と電話で話した。その後、魔導書を読み始めて──そこから記憶が飛んでいる。
なので、魔導書の所為で気絶したと考えるのが妥当だ。そこに父の魔法が混じって、余計に起きられなくなった、と。
「いや、魔導書の読みすぎで倒れていたのかもしれん。なんの魔法が得られたのか知らねぇけど──」
言いかけた瞬間、隣で寝ていた守原美夢がモゾッと動いた。そのため、ライデンは一旦押し黙って、彼女に合わせた態度に戻る。
「おはようございます、美夢さん」
「おはよん。ライナちゃん」
「あの、きのうなにがあったんですか? 私、途中で意識が絶えちゃって分からないんです。私のスマホで、美夢さんが誰かと話していたのは覚えているんですが──」
「それよりも、まずご飯を食べましょう。デリバル使って」
守原は柔軟な笑みを浮かべた。聞き取りしたいところであるが、ここは彼女の歩幅に合わせよう。
「分かりました。美夢さんが決めちゃって良いですよ。私、あんまり好き嫌いないから」
「分かったわ。なら……」守原はスマホを眺める。「ゴーヤーチャンプルーとかどうかしら? お酒にも合うのよね。子どもの舌には合わなそうかもだけど、どう?」
「良いですよ。苦いものも好きです」
「なら注文しておくわね。んー、届くのに20分くらい。ちょっと一服してくるわ」
そう言って、ベランダへと出ていった。焼酎のパックは持たずに。
(多分だけど、父ちゃんと美夢さんの間で話し合って、おれを美夢さんに預けようとしているな。でも、美夢さん。父ちゃんの術式に嵌まっているのは、間違いないと思うぞ?)
そう思いながらも、ライデンはコップで水道水を飲む。父の思惑は今ひとつ分からないが、事実として、ライデンに〝いっしょに暮らせ〟という旨のメッセージを送ってきたのだから、それはもう決定事項なのだろう。
(でも父ちゃん、守原さんがピースメーカーに属しているとは思えんぞ? あの〝ウィザードリー〟のプロジェクトリーダーなんだろ? そんな御大層な立場にいるヒトが、危険極まりない上に、給料が特別良いわけでもない魔術犯罪に立ち向かうか?)
〝ウィザードリー〟の給料とピースメーカーのそれを比較したとき、このふたつの職種には、正直天と地ほどの差がある。わざわざ守原が給料も下がる、リスキーな現場仕事に転職する理由がない。
とか思慮を巡らせていれば、
守原がタバコを吸い終えて帰ってきた。
「さて、ご飯が来る前だけど説明しましょうか」守原はライデンが頷いたのを確認し、話し始める。「きのう、ライナちゃんのお父さんと話したの。そして、君のお父さんとお母さんは忙しすぎるから、君に向き合えないと言ってきた。そんな酷い話、正直私は許せなかった。だから、もしライナちゃんが嫌じゃなかったら、私といっしょに暮らそう、って話ね」
(まぁ推測どおりだな)
「そうだったんですか……。父がそんなことを」
少し涙目になってみる。この姿になってから、いやもともとの気質なのか知らないが、演技がとてもうまくなった気がする。
「泣かないで。泣いてるライナちゃんを見たくないわ」
守原はライナことライデンを抱き寄せる。
「はい……、美夢さん」
タバコ臭いが、それを言ったら雰囲気が台無しだ。ライデンは守原の胸に、子どもらしく顔を埋めたのだった。
そんな折、ふと思う。




