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旅路が俺を嫌っている  作者: 葛来 奈都
初っ端から時間旅行

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柔らかい琥珀 ④

* * *


その世界の眩しさに、シエナは思わず目を凝らした。

辺りからは賑やかな声と雑踏が聞こえる。

先程とは違う世界に来た。

それはシエナも薄々気づいている。

それでも、たった数日前のはずなのに、この光に飛ばされる感覚は随分と懐かしく思えた。



恐る恐る目を開ける。

だが、飛び込んだ景色は知らない場所で、シエナの心音は高まった。

土の上だった処刑場の広場にいたのに、足元には緑力とした草花が広がっている。

広場なのには変わりないが、辺りには出店なんか開いており、どこからでも明るい声が聞こえていた。



「ねえ、お兄ちゃん」

そんなシエナを不思議そうにしながら幼い少女が話しかけてきた。

「お兄ちゃんはどうしてそんなにずぶ濡れなの?」



その言葉にシエナはハッとしながら自分の体を見た。

彼の体は先ほどまで打たれた雨でびしょ濡れだ。

しかし、こんな晴れ渡った空の中でここまで濡れている彼はとても浮いている。



このデジャヴにシエナは思わずから笑いした。

「……水に落ちたから」

そう返すと少女は目をパチクリされながら、「変な人」と笑った。



少女の笑い声を聞きながらシエナはこの広場を眺めた。

ふと振り返って上を見ると、この広場を見下ろすように王宮が建てられていることに気づいた。

勿論、広場の入り口には当たり前のように石段が続いている。

この景色は、前にも見たことがあった。



「なあ、この街の名前、なんて言うんだ?」

少女に尋ねると、彼女はニコッとシエナに微笑んでこう答えた。

「ここはアクバール。召喚師の伝説と琥珀の街だよ」

その答えに、シエナは心の底から安堵し、力が抜けてその場で座り込んだ。



「よかった……」

蹲りながらそう呟くシエナに、少女は驚く。

「お兄ちゃん、大丈夫?」

心配しながら顔を覗き込む少女に、シエナはそっと彼女に手をかざす。

「驚かせて悪かった……もう大丈夫だ」



穏やかな声で少女に告げると、シエナは徐に広場の入り口まで歩き、長く続く石段から街を見下ろした。

麓には噴水が見え、建っている住宅はあの時代と何も変わらないように見えた。



そんな彼についてきた少女が述べる

「昔の王様がね、『未来にいる友達がこの国にすぐ気づくように』って、百年以上も同じ街並みにしてるんだって。未来にお友達がいるなんて、不思議だよね」

そう笑いながら言う少女に、シエナはくしゃっと顔を歪めた。



「本当……変な奴だな」

少女に答えながらも、シエナは涙を堪えるのに必死だった。



ーーなんであいつはそこまで真面目なんだよ。



ふと、青くて長い髪を靡かせたゼファの姿がシエナの脳裏に過った。

たとえ何十年時は流れても、ここがアクバールだとわかる自信がシエナにはあった。

だが、その「万が一」の懸念を取り除いたのが、ゼファらしくてシエナは笑えてきた。



ただ、あの時と変わらない街並みなのに、住民の顔は明るく、穏やかであった。

ここは、もう彼が見た貧しく、絶望していたアクバールではない。



「……そういえば、さっき琥珀って言っていたよな?」

ふと思い出したシエナは再び少女に尋ねる。

すると少女は持っていた籠をスッとシエナに渡した。

そこには綺麗に加工されたオレンジ色に輝く琥珀が入っていた。



「この街の特産なの。ブレスレットやペンダントもあるんだよ。お兄ちゃんもおひとついかが?」

少女はニコリと笑いながら強請る。

そのデジャヴに、シエナは思わず笑みをこぼした。

「ありがとう……でも、もう持ってるんだ」

そう言いながら、シエナは自分の鞄から一つの琥珀を取り出した。



その琥珀を見て少女は目を丸くする。

「その琥珀、あまり加工されてないよ? お父さんに加工してもらおうか?」

そう気遣ってくれる少女だが、シエナはゆっくり首を振った。

「大丈夫。これでいいんだ」

その言い草に少女もキョトンとした。

それでもシエナは、その琥珀を大事そうにぎゅっと握りしめた。



「ほら、仕事に戻らなくていいのか?」

自分とたむろする少女にシエナはそっと諭すと、少女は思い出したように「あ!」と声をあげた。

「もう行かなきゃ! じゃーね、お兄ちゃん」



籠を抱えながら去る少女に向け手を振りながら、シエナは改めて広場を見渡した。

昔、この場所が処刑場だったなんて、誰が知っているだろうか。

咲き乱れる花々が風に揺れるのを見ながら、シエナはそう思った。



改めて辺りを見ると、賑わう広場の中心に見慣れない銅像があることに気がついた。

その銅像に惹かれるように近づく。

銅像は自分よりも遥かに背が高く、シエナはそれを見上げた。

若い青年の銅像だ。

しかし、称えられる程の偉人のはずなのに、青年はどう見ても気だるそうで、髪の毛も整えておらずボサボサである。



既視感のある人物にシエナは息を呑んだ。

飛びつくようにシエナは銅像に備え付けられたプレートを見た。

そして書かれた一文にシエナは目を丸くする。



『この国の永劫の繁栄を、英雄アッシュ・グライスと未来に生きる友に誓う。

十五代目国王 ゼファ・フィルン・セレスト』



一読した途端、シエナの胸が熱くなり、涙が込み上げて来た。

そして、陽の光に向けるように持っていた琥珀をかざし、静かに笑う。

「……ほらな、未来はあっただろ?」

一筋の涙が頬を伝ったが、シエナはそれを拭かなかった。



シエナはこの国がいつまでも平和であることを心から祈った。

共に時代を超えた琥珀は優しく、柔らかい光を放っていた。



一章 完

ここまでご覧いただき、誠にありがとうございました。

二章はまた違う冒険になりますが、一旦別の話を挟んで落ち着いたら書かせていただけたらと思ってます。

その際は、またどうぞよろしくお願い致します。


2020.02.16 葛来奈都

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