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旅路が俺を嫌っている  作者: 葛来 奈都
初っ端から時間旅行

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49/54

青い雨、茶色の大地と、灰の空 ④

ヴァルヴェルンが突っ込んできたと同時に、アッシュは体を屈めた。

目の前には牙を向けたヴァルヴェルンが爪を彼に向けてしっかりと立てていた。



上手く避けなければ、自分が死ぬ。

迫り来るヴァルヴェルンに彼の胸が震える。

だが、次の瞬間アッシュは息を呑んだ。

彼の目の前でフワリとグレーの布が浮いたからだ。



その布はヴァルヴェルンの顔面に落ち、奴の視界を塞いだ。

それがシエナが着ていたローブだと気づいた時、アッシュは無意識に体を転がしてその一撃をかわしていた。

視界を奪われたヴァルヴェルンはアッシュを捉えることもできず、そのまま塀に向かって爪を立てた。



振りかぶったヴァルヴェルンの会心の一撃はアッシュから大きくはずれ、勢い落ちずに塀をぶち壊した。

ぐるぐると地面に転がるアッシュは穴が開いた塀を見てさらに腰を抜かしそうになった。

あんなのに巻き込まれていたら一溜まりもない。

自分で言った作戦の無謀さに思わず苦笑する。



「おい、生きてるか?」

駆け寄るシエナはアッシュに手を差し伸べ、彼を立たせる。

ヴァルヴェルンはというと、未だにシエナがかぶせたローブが取れなくてもがいていた。



「ありがとよ。お陰で先に死なずに済んだ」

九死に一生を得たアッシュはシエナに礼を言いながら、両腕をヴァルヴェルンのほうに突き出した。

その奥はヴァルヴェルンが開けた穴がくっきりと見えている。



「最大火力で頼んだぞ、ウンディーネ!」

その合図でアッシュの手のひらから太い水柱が噴出された。



バズーカ砲のように飛んでいくその水はヴァルヴェルンに命中し、穴の開いた塀に押し込められていく。

塀の先は処刑場。

まだアッシュを磔ていた木材が佇んでいる。



吹き飛ばされた激しさでヴァルヴェルンがかぶっていたローブは風で飛ばされた。

視界が戻ったヴァルヴェルンは変わった地形にぐるりと見渡す。

が、ターゲットであるシエナとアッシュを見つけると再び牙を向く。



「おい、シエナ」

ヴァルヴェルンに警戒しながらアッシュは彼に言う。

「とにかくゼファとシルフが戻るまで時間稼ぐぞ。そうしたら、勝ち筋が見える」

「本当か?」

正直まだ勝算が見えていなかったのでシエナはつい驚いた声をあげた。

それでもアッシュは真剣な表情でコクリと頷く。



ただ、降りしきる雨の中、二人とも体温がどんどん下がって行くのを感じていた。

震える足。悴む手。

長期戦は避けたいが、それも上手くいかなさそうだ。

鈍くなる動きに懸念しながら、シエナは剣を強く握りしめた。



緊張していたのはアッシュも同じだった。

手札が一枚増えた中、どう決定打にするか。

殺風景な大地にぬかるむヴァルヴェルンの足を見ながら、冷静に作戦を組み立てていた。



その時だ。

気配を察知したアッシュはハッと息を止めた。

風向きが、変わったのだ。



ヴァルヴェルンと二人の間につむじ風が生じる。

異変を感じ取ったヴァルヴェルンは距離を置き、突然現れた風に警戒する。

しかし、アッシュもシエナもこれの正体に気づいていた。



風が、強くなる。



「来た来た」

どんどん大きくなるつむじ風を見てアッシュは口角を上げた。

つむじ風の中心から見えた人影は、持ち前の青い髪を靡かせ、装備していた剣を構えた。



「――待たせた」

その言葉と同時につむじ風はパタリと消え、代わりにゼファが振り向いてにっと微笑んだ。



「ゼファ!」

強張っていたシエナの顔が喜色満面に溢れ、アッシュの表情もフッと緩んだ。

ただ、ヴァルヴェルンはいきなり出てきたゼファに警戒し、咄嗟に三人と距離を取る。

しかし、闘志はまだ消えておらず、ゼファにも唸り声を上げて牙を向けた。



この状態にアッシュは不意に笑みをこぼした。

広い土地、自分の持つ精霊と二人の剣士……

カードは、揃った。

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