潜入、魔王城 ②
潜入した三人により、城内は大パニックだった。
アッシュの見立て通り、城の警備は薄かった。
中にいたのは兵士より使用人のほうが多い。
だが、城内でも兵士がゼロという訳ではない。
そんな兵士たちでも、彼らは容赦しない。
ゼファは切り札のアッシュを守るように剣を振り回し、兵士の動きを押さえ込む。
その隣ではシエナが剣を振ったり足蹴にしたりと力任せに兵士を吹っ飛ばして行く。
最早、兵士は彼らに近づこうとすら思わなかった。
鬼気迫る三人に怯え腰を引く者もいた。
そうして暴れ狂う彼らは奥へ奥へと進み、ウィスタリアの元へと急ぐのだった。
長い廊下を、走る。走る。
この国を守るため、そして国王、いや、身内の誤ちを止めるため。
そしてついに、一際立派な扉がついた部屋へとたどり着いた。
これこそがウィスタリアの自室である。
「ウィスタリア!」
ゼファは怒鳴るように扉の先にいるはずの彼の名前を叫び、彼の部屋のドアを蹴破った。
だが、ゼファの勢いはそこで止まった。
彼だけでない。
アッシュもシエナも、息を止めて目を見開いた。
飛び込んできた光景を疑った。
ウィスタリアの部屋には彼しかいないと思っていた。
けれども、事態は彼らが思っていたより最悪だった。
ウィスタリアの足元には大きな魔法陣と鉱石が転がっていた。
そして、魔法陣の真上には大きなクリスタルの中に入った大きな獣が入っていた。
その獣は毛の長い虎のように見えたが、虎よりも爪が長く、何より体格が違っていた。
四肢も太く、逆立った紫色の毛は針のように尖がり、生えた八重歯は人間なら簡単に嚙みついてしまいそうなほど鋭利だ。
この獣こそが――
「……ヴァルヴェルン」
悔しそうに歯を食いしばったアッシュがそう呟くと、ウィスタリアはにやりとほくそ笑んだ。
「来たか、ゼファ」
ウィスタリアは長い薄紫色の髪を手で搔き上げながら、徐に振り向いた。
しかし、そこにいたのはゼファだけではない。
死んだと聞かされていたアッシュと、見知らぬシエナがいる。
彼らがいることはウィスタリアも想定外だったようで一瞬眉をひそめたが、すぐにニッと口角を上げた。
これから全てを破壊しようとしている彼にとって、殺す相手が一人増えようが二人増えようが最早関係がないのである。
この事態を一番受け入れられなかったのは他でもなくシエナだった。
ヴァルヴェルンが召喚されるまでまだ日にちが残されていたはずだ。
しかし彼は致命的な計算間違いをしていた。
ヴァルヴェルンの復活の日は、アッシュとゼファを助けた時点で未来が狂い始めていたのだ。
『ゼファ様とアッシュが死んだ。』
アイビーの日記には確かにそんな一文があった。
ただし、あそこには彼らが「いつ」死んだかは書かれていなかった。
第二王位継承者であるゼファの死は、国にとっては大打撃で、国民に隠し通せるはずがなかった。
だから、国王軍は死因だけ隠蔽した。
だが、その隠蔽に日にちを費やしていたら?
ゼファが生き延びた未来に、その分のロスはなくなっているのは当然だ。
そのことをシエナは一切視野に入れていなかったのだ。
ヴァルヴェルンの存在に愕然をする彼らを見て、ウィスタリアは堪らず高笑いをした。
「見ろよゼファ! これが本来国王が望んだことだ! これさえあればこの国は負けない。俺たちの親父が成し遂げることができなかったことを、この俺がやってやるよ!!」
歪んだ笑みを頬に浮かべ、目を見開くウィスタリアは完全に彼らを卑下していた。
彼らだけでない。
切り札を過信し、話し合いというぬるい解決法で命を落とした自分の父親と叔父も、召喚という力がありながらも敢えて使わず戦わなかったグライス家も。今、ヴァルヴェルンの力を手にした彼から見たら格下も当然だ。
「――それでも、邪魔をするならお前らから消してやるよ」
目を見開きながら、ウィスタリアは歯を見せるくらい口角を上げる。
その表情は一刻の国王ではない。
心を闇に染め上げた、邪悪に満ちた禍々しいものであった。
そんな彼にゼファはひしひしと怒りがこみ上げていた。
「ウィスタリアァァ!!」
声を荒げ、剣を握るゼファは一気にウィスタリアに駆け寄った。
「ゼファ!」
シエナも加勢しようと剣の柄に手を伸ばす。
だが、それを遮るようにアッシュがシエナの前に腕を伸ばした。




