隠し事はすぐバレる ④
そんなアッシュにシエナは訝しい顔になる。
「お前さあ……さっきから俺で遊んでね?」
「あ、バレたか」
「おい! マジなのかよ!」
くわっと口を開けて自分を指差すシエナにアッシュは再びケラケラと笑う。
「だって……こんな休まる夜なんて久しぶりだったからさ」
その言葉にシエナは途端に言葉を失った。
口調は弾んでいても、アッシュの表情から憂いを感じたからだ。
「なんかさ……今日も変な夢を見たんだよ」
「変な夢?」
「ああ。俺をゼファが死ぬ夢。でも凄いリアルでさ……今でも夢の中の感覚が覚えているんだ」
アッシュは項垂れながら自分の前髪を握りつぶす。
口元は笑っていたが、顔色は良くない。
苦しそうなアッシュの表情にシエナもいたたまれなかった。
「しょうがねえよ……あんな思いをしてきたんだから」
慰めるようにシエナはアッシュに言うが、彼の苦しみがこんな言葉で拭えないこともわかっている。
次々と殺されている家族、仲間。そして自分のいつ殺されるかわからない恐怖。
彼を待っていたのは『孤独』と『死』だ。
植えつけられた恐怖と苦しみが昨日今日でなくなる訳がない。
「でも……お前とゼファに感謝していることは本当なんだ。もう一度、こんな気持ちで夜空を見上げられるなんて思ってもいなかったから」
アッシュはシエナに顔を向け、静かに笑った。
「ありがとな」
そんな澄ました表情の彼をシエナは見たことがなかったので、シエナは照れ臭そうに頬を掻いた。
しかし、アッシュの笑みはすぐに消えた。
「だからこそ……ゼファのことは悪く思わないでほしいんだ」
「え?」
アッシュのあまりにも突拍子もなく、身に覚えのないことだったのでシエナは頭にクエスチョンマークを浮かべた。
シエナのリアクションにアッシュも首を傾げる。
「お前……ゼファのこと何も聞いてないのか?」
「何もって……何が?」
本当にわかっていなさそうなシエナにアッシュは小さく舌打ちをする。
「あの野郎……自分のことは話してねえのかよ」
眉をひそめるアッシュだが、シエナはどうして彼がそこまで厳しい顔になるのかわからなかった。
ため息をつきながらアッシュは座り直す。
その表情は堅く、先程までの穏やかな空気ではない。
「……殺された公爵の話は聞いたか?」
「敵国によって先代の国王と一緒に殺されたって人?」
「そうだ。なら、その夫人の話は?」
「……聞いてない」
その答えにアッシュは「なるほどな」と納得するように頷く。
「公爵夫人は……国王の妹君だった」
その言葉にシエナはピクリと眉をあげた。
「それってつまり、兄も夫も同時に亡くしたってことか?」
「ああ、哀れな人だよ。元々体が強くなかったのに頼りにしていた国王も最愛の公爵も死んだんだ」
そのうえに、彼らの仇を取ろうとした他の首脳陣も戦に負けてどんどん死んでいく。
この国が廃れていくのは目に見えてわかっていたし、国民の不安も募るばかりだ。
中には戦わずして命を落とした国王たちを恨んでいる者もいただろう。
そういった冷ややかな視線も公爵夫人は浴びせられたのだという。
仕方がないのだ。
国民たちはこの憤りをぶつける相手がいない。
それは夫人自身もわかっていたらしいが、心がついていかなかった。
そうしているうちに心身共に弱った彼女は衰弱し、回復することなく半年前に亡くなったという。
「夫人の名前は、"アスール・セレスト"」
ぽつりと告げられたその名前に、シエナは思わず目を剥いた。
「……セレストって、まさか」
シエナの気づきに答えるよう、アッシュは口を噤んだまま頷く。
「想像通りだよ。公爵夫人はーーゼファの母親だ」




