隠し事はすぐバレる ⑤
◆ ◆ ◆
――この家に来るのは、一体いつぶりだろうか。
ゼファのいるセレスト家の住まいを見上げながら、アイビーは思い返す。
貧民層の多いアクバールだが、ゼファの家は豪邸だった。
それもそのはずだ。
ここは国の公爵で、前国王の妹君の住まいでもある。
ただし、公爵も公爵夫人も亡き今、この家にはゼファと数人の使用人しか暮らしていないということをアイビーは知っている。
家の鍵を開けていることは予めゼファから聞いていたので、アイビーはベルも鳴らさずにこっそりと家に入った。
まるで泥棒のようでいい気分ではなかったが、「誰にも会わずに来い」とゼファに言われていたからこうする他はなかった。
明かりの点かない暗い廊下を足音立てずに向かう。
二十年以上ここで務めていた彼にとって、こんな広い屋敷を暗闇の中で歩くことは容易いことだった。
迷うことなくゼファの待つリビングへと向かう。
ノックもなしにそっと扉を開けると、すでにゼファが椅子に座って彼を待っていた。
この部屋も明かりを点けておらず、彼が持参したランプが微かに部屋を照らすだけだった。
「来たか」
アイビーの到着にゼファは口角を上げる。
「お待たせして申し訳ございません」
「いや、いいんだ。むしろ、こちらこそこんな夜中に呼び出して悪かった」
口調は低姿勢なゼファだったが、アイビーは彼からピリピリとした緊張を感じていた。
机の上に置いたランプの灯火が風で揺れる。
「単調直入に訊く。アザリア・グライスという者を知っているか?」
その名前にアイビーの眉が動いたが、彼は至って冷静だった。
アザリア――ゼファとシエナがグライス家の研究所で見つけた研究者の名前だ。
「研究所に行かれたのですね」
「ああ。だが彼女の研究レポートだけ一つも残されていなかった。あそこには歴代の研究者のレポートがあるはずなのに、だ」
ゼファの話にアイビーは耳を傾ける。
しかし、その表情はいつものような穏やかなものではない。
アイビーは自分が呼ばれた理由をわかっていた。
「ゼファ様は……何かに気づかれたということですね?」
確認するように尋ねられ、ゼファは深く頷く。
「ずっとセレスト家に仕えていたのだ。お前ならある程度知っているだろ……この国のことを」
ゼファは真っすぐな眼差しでアイビーを見つめる。その眼差しに迷いはなく、ただ真実を探求したいのだということがアイビーにもひしひしと伝わった。
「……私のわかることであれば」
意を決したアイビーはその眼差し応えるように会釈する。
だが、お互い緊張で心臓は高鳴っていた。
深呼吸をし心を落ち着かせ、ゼファはアイビーに語る。
「おそらく、アザリアのレポートを持ち出したのは国王軍だ。他の資料も抜けていたから、必要なものを持っていたのだろう。だが、それだと謎が残る」
ゼファが言う謎というのは、どうして国王軍が召喚術の資料を持ち出したということだ。
この国で召喚術を使えるのはグライス家のみ。
召喚術を扱えない国王軍がそれを持ち出しても意味もない。
それに、召喚術を扱えるグライス家はアッシュ以外全員国王に殺されているはずだ。
「それに、もう一つ矛盾がある。生き残ったグライス家はアッシュしかいないはずなのに、磔されたアッシュに封印術がかけられていたということだ」
封印術も召喚術の一つなのだから、扱えるのはグライス家しかいない。
ならば、誰がアッシュに封印術をかけたというのだ。
となると、仮説は一つしかない。
アッシュ以外にも召喚士が生き残っているということだ。
ここまで来ると、アイビーも彼が言わんとしていることがわかった。
「その裏切り者が……アザリア・グライスだというのですね?」
ゼファは口を噤んだまま首を縦に振る。
アザリアの資料が持ち去られていたということは、彼女自身が持っているとゼファは睨んでいた。
「もし俺の推理が間違っているのなら……本当のことを教えてほしいんだ」
真剣な彼の表情を見ていると、アイビーは何も言えなかった。
いや、ここまで真相に近づいているのだ。ここで誤魔化すのは彼の良心が痛んだ。
それに、この真相を闇に葬ろうとしていた者も、もういない。
「わかりましたよ、ゼファ様」
小さく頷いたアイビーに、ゼファの表情も自然と強張る。
「お伝えいたしましょう……この国が、二十年以上隠し続けていた真実を」




