突撃、自宅訪問 ⑤
下の階とは違い、アッシュの部屋は荒れていなかった。
アッシュの部屋はシエナが思っていた以上に綺麗に片付いていた。
というよりは、物がないのだ。
元々部屋が狭いというのもあるが、ベッドと机と椅子、そしてクローゼットしかない。
一方、ゼファはクローゼットを開け、アッシュのバッグに服を詰め始めた。
流石幼なじみというべきか、荷物を入れるのにも躊躇なく、手際がいい。
逆にシエナはやることがなく、暇を持て余してしまったので机の上にあった本たちに手を伸ばした。
机の上に置いてあった本はそれぞれ黄緑、黄土色、水色、青と単色なものだった。
表紙だけ見るとこれらの色は目立ち、殺風景なアッシュの部屋に似つかわしくない。
試しに本を手にし、ぱらぱらとページをめくってみたが、書かれていた文字は象形文字のようでシエナには読めなかった。
他の本もめくってみるが、全て同じ文字で読めそうにない。
諦めて本を閉じると、彼を覗き込むように黄緑色のオーブが目に入った。
「うわっ」
突然出てきたオーブにシエナは驚いて声をあげる。
「どうした?」
ゼファもこちらを振り向くが、状況を察したのか、「ああ」と頷いた。
「なんだ。シルフか」
「え? これが?」
シエナが指差すと、気づけばオーブは緑色の髪の羽を生やした少女の姿になった。
ただし、大きさはオーブと同じなので小さな妖精に見える。
「どうした。アッシュに言われたのか?」
ゼファが尋ねるがシルフは何も言わずにゼファの周りを飛ぶだけだった。
「まあ、いい……」
こういったことは慣れているのか、ゼファはシルフのことは何も気にしていない様子だった。
「シエナ、次に行くぞ」
アッシュの荷物も詰め終わったのか、ゼファはバッグを抱えてアッシュの家を後にする。
向かった先は正面にある研究所だった。
研究所にも所々に血液が飛んでいたが、アッシュの自宅ほどではなかった。
研究所と言うだけあって、部屋にはたくさんの本棚と書物があった。
それも、先ほどアッシュの部屋にもあった表紙が単色の本も山のようにある。
「なあ、この本ってなんなんだ?」
シエナが本棚の前に立つと、ゼファは「これか?」と黄緑色の表紙の本を取った。
「これは召喚術が書いている魔導書だ。文字はグライス家の者にしか読めないから俺にもわからないが……これはシルフの魔導書」
「文字読めないのにわかるのか?」
「ああ。グライス家は俺たちにもわかるように精霊ごとに色分けしてくれているんだ。黄緑は風の精・シルフ。黄色は雷の精・ボルト。赤は炎の精・イフリート……つまり、オーブの色と同じだ」
黄緑色の本を持つゼファの手の周りをシルフはくるくると周る。
ゼファの言う通り、本の表紙とシルフのオーブの色は同じになっている。
「へー、色々考えられているんだな」
感心するようにシエナは並んだ魔導書に目を通す。
それも綺麗に並べられていて、ここの研究員の几帳面さがよく伝わった。
だが、そんな綺麗にされている本棚に明らかに一冊抜けているものがあった。
「なんで一冊抜けているんだ?」
ゼファにも心当たりがないようで空いたスペースを見つめながら考える。
――抜けているといえば。
思い出したようにゼファは研究室の奥へと進む。
部屋の奥にはさらに本棚がずらりと並んでいた。
しかも棚にはそれぞれ研究員の名前らしきものが書かれており、その棚にはレポートのような冊子が入れられていた。
「なんだこれ?」
後から来たシエナは棚を見上げて首を傾げる。
「見ての通り、個々の研究レポートだ。あいつらの本職は召喚術の研究だからな」
「ほ~」と言いながらシエナは試しにアッシュの棚を探す。
だが、他の棚はびっしりと冊子が入っているのに、彼の棚は紐で綴られた紙が数枚入っているだけだった。
「……まあ、なんとなく想像ついていた」
納得したようにシエナは頷く。
隣でゼファも「あいつだからな」と乾いた笑みを浮かべた。
彼の棚だけ研究量が極端に少ない……つまり、サボっているのである。
彼らしいといえば、彼らしい。
しかし、アッシュの隣の棚は研究レポートが一枚も入っていないほど空っぽだった。
「あれ、この人なんもやってねえじゃん」
「え?」
思わず口に出たシエナの発言に、ゼファは驚いた声をあげる。




