突撃、自宅訪問 ④
しかし、石段を降り切った先はシエナが想像もしていなかった光景だった。
集落だ。
しかも塀やレンガが石段で作られていたアクバールの街中と違い、点々と建てられた家はどれも木造だった。
そのうえどの家も老朽しているほど古い。
ふとシエナが振り返ると城が見えた。位置でいうと城の裏手に当たる。
まるでこの集落を城が隠しているようだ。
「ここが、アッシュの故郷?」
辺りを見回すと家の横に作られた畑の作物が風で揺れた。
どうやらここの住民たちはこの集落で自給自足をしているらしい。
街中はあれだけ貧困で苦しめられている光景が広がっていたのに、シエナにはここがとてものどかに見えた。
「グライス家は代々ここで召喚術の研究を行う。精霊の力を借りるからな。人里から離れ、なおかつ城から近いほうが色々やりやすいからここを集落にしているらしい」
補足するようにゼファが説明する。彼の視線の先には集落の一番奥にある建物だった。
他の家に比べてあれだけ大きく、そして真新しかった。
その隣には大きな樹が植えられている。
「あれがグライス家の研究所。ご覧の通り、あれはここ数十年で建てられた。他は代々継がれた家に住んでいる。アッシュの家はあの研究所の手前にある家だ」
そう言ってゼファはアッシュの実家だという家に向かう。
だが、途中まであれだけスタスタと歩いていた足取りは、ここに来て急に重くなった。
そして扉の前で立ち止まり、ドアノブを持ったままゼファは深呼吸する。
「……ここから先は覚悟しておいたほうがいい」
「お、おう……?」
急に緊迫した面付きになるゼファにシエナは戸惑いながらも頷く。
そしてゼファが扉を開けた時、シエナは息を止めた。
絶句する光景だった。
辺りには真っ黒な液体のようなものがぶちまけられている。
あまりにも黒々としているから一瞬わからなかったが、これは血だ。鮮血が渇いてここまで黒くなってしまったのだ。
ここまで黒くなっているのだから、血が流れてかなり日数が経っているだろう。
「これは……」
口に出してシエナはゼファの言葉を思い出した。
今、グライス家で生き残っているのはアッシュのみ。つまり、この血はアッシュの家族の誰かの者だ。
無論、ゼファはこの血が誰の者かを知っている。
「……アッシュの親父のだよ。ここであの人は国王軍に殺されたんだ。他にも何人かこの集落で殺されたし、他の人はアッシュのように国王軍に囚われ、そして死んでいった」
淡々と話すゼファだが、声は震えていた。
ゼファは血の跡を見つめながら作った握り拳を震わせる。
眉間にはしわが寄っており、眼差しは怒りで鋭い。
「ゼファ……」
名を呼んでみるが、これ以上かける言葉が見つからず、シエナは口を一文字に結んだ。
それでもすぐにゼファは「大丈夫だ」と首を振って顔を上げた。
その表情は、いつもの冷静なゼファに戻っていた。
「部屋に行くぞ。あいつに頼まれたものがあるんだ」
気を取り直したようにゼファは部屋の奥に入って行く。
彼が向かった先は上の階だ。
そこにアッシュの部屋があるらしく、シエナも無言のまま、彼の後に続いた。




