突撃、自宅訪問 ②
そんなアッシュとは打って変わって、シエナは呑気だった。
「おはようアッシュ。飯美味いぞ」
ダイニングテーブルに座りながらシエナはもぐもぐとパンを頬張っている。
ここはアイビーの家なのに随分なくつろぎようだ。
幸いテーブルの上にはまだパンがのっていたのでアッシュもシエナの前に座る。
やがてゼファがスープの入った器を持ってきてアッシュの前に置いた。
「アイビーが昨日の残りで申し訳ないってよ」
「申し訳ないって……アイビーらしいな」
匿ってもらっているうえに朝食までもらえているのだ。
これ以上求めるものはないとアッシュは思っていた。
そんなアイビーに礼を言おうとしたが、アッシュがどこを見回しても彼の姿はない。
「今は買い出しに行っている。今日はそのまま開店の作業をするらしいから夜中まで家に戻らないとさ」
つまり、家の中は自由にしていいということだ。
「本当、ゼファたちの昔なじみとはいえ気前いいよなー」
ズズッと淹れたコーヒーを飲みながらシエナは言う。
アッシュならまだしも見知らぬシエナにまでここまで致せり尽せりなものだから、シエナも驚いていた。
つまり、アイビーはそれほど彼を信頼しているということだ。
シエナではなく、ゼファを。
「でも、この借りはいつか返さないとな」
キリッとした眼差しになるシエナだが、頬にはパンを食べたカスがついているので何も説得力がなかった。
これはゼファだけでなく、アッシュも呆れたように息をつく。
それはさておき。
「ところでアッシュ……なんで上着てないの?」
素朴なシエナの疑問にアッシュは「ああ?」と顔をしかめる。
「汗掻いたからだよ」
「汗って……そんなに暑かったか?」
「別に暑くねえけど……掻いたもんはしょうがないだろ。着替えもねえし……」
面倒臭そうにしていたアッシュだが、何か閃いたようにピクリと眉が動いた。
「おいゼファ。お前、今日はどうするんだ?」
「どうって……街の見回りに行くが」
「ならよお……ついでに俺の家行ってきてくれよ」
「お前の家?」
素っ頓狂な声をあげたゼファに、コーヒーを飲んでいるシエナの動きが止まる。
一方、アッシュは企むようにニンマリと笑う。
「俺はここから出る訳にもいかないし、逆にお前なら街を歩き回れる。それらいいいだろ?」
「お前……自分が行くのが面倒なだけだろ」
ゼファに図星をつかれ、アッシュは「バレたか」と笑った。
「いいんじゃね? 俺、全然この街まわってねえし」
隣のシエナはパンを食べ終え、手についたパンカスをほろう。
彼は行く気満々で、目は好奇心で輝いていた。
「……シエナがいいなら、それでいいが」
ゼファは腕を組んで一息つく。
だが、思いついたように一瞬目を見開いた。
その様子にアッシュとシエナは不思議そうに小首をひねたので、ゼファはすぐに
「なんでもない」と返す。
「シエナはあとどれくらいで出れる?」
「荷物取ってくれば粗方」
「わかった。なら、準備が終わったらすぐに行くぞ」
「おう、了解」
シエナはニッと歯を見せながら椅子から立ち上がり、屋根裏部屋へと向かった。
立ち去るシエナの背中を見ながらアッシュも頬を綻ばせる。
「悪いねえ、助かるよ」
一応礼を言うアッシュだが、心は篭っていない。
訝しい顔になるゼファだったが、アッシュは構いもせず、「あ」と思い出すように彼に請う。
「アレも忘れるなよ。アレがないと落ち着かないんだ」
「アレ」と言われ一瞬わからなくなるゼファだったが、半裸の彼を見ていると目星がついた。
「わかったよ」
ゼファはコクリと頷く。
そんな会話をしているうちに階段を降りるシエナの足音が聞こえてきた。
そろそろゼファも出なければならない。




