表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/114

第八十四話 露店。


「まずは何から見て回ろうか」


「お肉」


 お昼も過ぎて夕方に向かう時刻。移動日だから仕方ないけどあまり長くは見て回れなさそうだ。

 アリスの意見を尊重して露店を回ってみようか。


「海の街なんだからお肉じゃなくて魚だと思うけどね。食べ歩き行こっか」


 小さく足を弾ませながら少し先を歩くアリス。自分じゃわかってないだろうけど言葉数が少ないアリスの貴重な感情表現だ。

 ローゼといいアリスといい、ルネさんといいこの世界の女の人は食べ物に関しての欲が凄くない? ルネさんはちょっとベクトルが違うけど……。


「俺の周りがたまたまそうなだけかな」


「ん?」


「あ、なんでもない独り言」


 興味が無いよりは全然いいんだけど……。作り甲斐があるし。


「よし、端から順番に見て回ろう」


 人の波に乗って露店を見て回る。やっぱり焼き魚や貝を焼いたものが多い。

 串に刺された塩焼きの魚を買って食べてる。やっぱり焼きたては熱々で美味しいね。パンじゃないけど……。

 でも焼いちゃったらせっかくの鮮度が売りにならなくないか? もったない、刺身とかで売ってる人はいないのかな。


「アリス。次あれ行ってみよう」


 お店の前で何人かが立ちながら何かを食べている。

 なんだろう。なんか木の器とスプーンで食べてるけど……? 汁っぽい。


「すいません。これなんですか?」


「スープだよ。魚が入ってるんだ」


「2つください」


「まいど。ここで食べて終わった容器返してね」


 代金を支払いスープを受け取る。あっちで言う立ち食い蕎麦みたいな感じかな。

 木の器の中は白く濁ったスープだ。スプーンで掬って見ると白身の魚がぶつ切りにされて入っていた。

 あら汁ってことなのかな。一応ねぎとか野菜も入ってるし。


「アリスこれ見たことある?」


「初めて。ユウタの以外」


 俺が作ったのはノーカウントだとありがたい。ということはこの料理は割と最先端なのでは? 実際お客さんが結構入ってるし商売大ヒットだろうね。


「とりあえず食べよっか。いただきます」


「いただきますー」


 まずは汁から。器に口を付けて啜る。味は想像していた通り魚の出汁に塩で味付けしたシンプルなスープだ。よく出汁が出てるけどやっぱりちょっと生臭いや。思ってたよりは抑えられてるけどね。

 アリスも少し気になったのか顔を少し歪ませていた。

 でも普通に飲める範囲だし全然ありだと思う。


「美味しいですね」


「ありがとうよ。自慢のスープなんだ」


「どうやって作ってるんですかね。言える範囲でいいのでよければ……」


 魚を骨を外しながら食べる。スプーンだと不便だな。かといって箸を出して食べるわけにもいかない。


「魚の内臓と鱗をとって切ってそれを水と野菜と一緒に煮込んで塩で味付けしてるだけ。他にも少し入れてるけどね。それは秘密。売れなくなっちゃうからね」


 ほぼ全部じゃないか? 胡椒を臭み取りに入れてるくらいだと思うけど。


「なるほど。結構シンプルですね」


「この魚で作るのが1番美味しいんですよ」


 ちゃんと色んな種類の魚を試してるみたい。いや商売するなら当たり前なのかもしれないけど

 俺の中の異世界に対しての評価が低すぎてちょっと馬鹿にしてたかもしれない。ごめんなさい。

 完食して容器を戻して、少しだけこっそりとアドバイスしてみる。


「ごちそうさまでした。おいしかったですよ」


「ありがとうございます。また食べに来てくださいね〜」


「美味しいもののお礼に1つ通りすがりのお節介ですが、これ魚の処理をした後に塩を魚に塗り込んで10分くらいほっといて、それを冷たい水で洗い流してからカットして鍋に入れて見てください。きっと美味しくなりますよ」


 生臭いのもそうだが魚の方に味がしなかったから塩っけもついていい感じになると思う。


「後は煮込む時に長ネギの緑の部分を少し入れてみて。これだけでも結構変わるし是非、試してみてください」


「え?」


 言うだけ言ってそのまま次のお店を目指して歩き出す。

 変な客扱いされたかもしれないけど、やらないならやらないで別に構わないや。今でも十分に人気みたいだし。帰る前にもう一回来てみようかな。


「美味しかった?」


「まずまず」


 不味い不味い? まぁまぁ? どっちの意味だ……。


「それはどっち? プラス評価なのか?」


「3杯くらいまでなら大丈夫」


 プラス評価みたいだ。多分だけど……。


「帰ったら俺も作ろっと。他にもまだ食べる?」


「もち」


「じゃあ次は何にしようか」


 こんなんじゃアリスの胃袋は満たされない。しかもお肉じゃなくてお魚だからね。夜ご飯もあるからあんまり食べさせるのも良くないけど大丈夫でしょ。

 旅行でテンションが上がってるので細かいことは気にしない。失敗してもいい思い出だし。

 無理矢理正当化させて食べ歩きを続ける。


「あそこ」


 数軒先を指差すアリス。


「ん? 何か美味しそうなの見つけた?」


「いい匂いがする」


 よくこんな匂いが混ざり合ってるところで出どころが判断できるね。アリスさんよ。

 アリスに手を掴まれて引っ張られる。

 あのアリスが意欲的とは、そんなにいい匂いだったのかな?

 アリスに引っ張られながらお店へと向かう。近づくと俺でも匂いが分かった。


「あれか」


「ん」


 そんなに急かさなくても逃げはしないよ。 もっとゆったり行こう?



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ