第八十五話 焼き貝。
店の前に着くとおじさんが網で一生懸命貝を焼いていた。
匂いの元はこれだろう。嗅いだことがある気がしたけど何の匂いか思い出せなかったが、これだったのか。
「ん! ん!」
美味しそうな匂いを目の前にしてテンションが高い。
目を輝かせて売り物を指差すアリス。お菓子を強請る子供か、ヒーロー物のショーを見に来た子供のようだ。
「わかってるって。すいません10個ほど貰えますか」
お金を払って焼きたての貝を受け取る。
7cmくらいの渦を巻いた貝。何でしょうか、分からなかったら知恵袋使って調べればすむ。こっちにはないけど……。
「はいアリス。熱いから気をつけてね?」
「ん」
熱い貝を手にとって串を刺し込んで捻りながらくり抜く。串の先についた、くるりと丸まった身の先端の硬い肉質部位を外して口に放り込む。
柔らかいけどコリコリしていて淡白だがほんのり甘みがある。
「やっぱりツブは美味しいね」
ツブだよね……? 俺がツブだと思えばツブなんだ。
バター醤油とかにんにく醤油とか垂らして食べても美味しいよね。軽く塩だけふって焼くのもシンプルで美味しいけど。
「ん……?」
「どうしたの?」
「どう食べるの?」
手で無理矢理貝殻を砕こうと力を込めるアリス。
いやいや、流石に無理でしょ。あ。軋んできた……?
「ちょっと待って! そうじゃないから……砕いたら怪我するし火傷もしちゃうでしょ」
このままだとアリスなら割れそうなのが怖い。割れちゃったら洗わないといけなくなるしせっかく焼いて熱々なのに勿体ない。
「ちゃんと見ててね? こうやって串を差し込む。そしたら手首を返しながらこんな感じに取り出すの。そしたらこの硬い部分を外してこれで終わりだよ」
ゆっくりと分かりやすくように手本を見せる。まぁ普通に1回見ればわかる。
取り出した身をアリスに見せるとすかさず飛びついて口に含んだ。
串が刺さったら危ないのに。
「美味しい?」
「んっ」
幸せそうな顔で頷く。今日はアリスの色んな顔が見れて面白い。
ローゼが居ないだけでこんなにも平和な旅になるとは。幼女と美味しいもの食べて回ってるだけだけど、まだ初日だし。
アリスは次のツブを求めて自分でくり抜き始める。なかなか苦戦してるみたいだけどちゃんと取れてる。
「ツブあっちの街では見なかったよなぁ。ここだけなのかな?」
後で採るか買うかで大量に持っておきたいな。
バターが出来たらバター醤油にしてアリスに食べさせよう。
「ご馳走さま」
「もう食べたの?」
「これたくさん採ろう」
「そうだね。目的のものを採り終えたら集めてみようか」
明日は港みたいなところか海水浴出来そうな場所を探してみようかな。
ひとまずこれ以上食べると俺のお腹が限界を迎えてしまうので今日は宿に戻りたい。
「アリスー。今日はもう戻ってもいい?」
「ん」
ツブで満足したのか、それとも満腹なのかアリスの同意も得られたので先程の宿へ戻る。
晩御飯が出来るまでこの街でやりたい事でもまとめようかな。





