第十五話 交渉してみましょ2。
「失礼します」
「忙しいのにすまないね」
「いえ、どの様な要件で?」
テキパキと話を進める2人。
「こちらのユウタさんの話を聞いてあげて欲しいんだ。財政に関する話だから私より君のがいいと思ってね」
「了解しました」
「それじゃあ私はものを取ってくるから少し席を外すから後は頼んだよ」
そう言って扉から出て言ってしまった。
ええ……。初対面の人と2人っきりって酷くないですかニズリさん。
「はじめまして。ユウタです」
「はじめまして。ベルドナード家の秘書をさせて頂いております。ユナと申します」
背が高くてピシッとしていてスーツとかきたらキャリアウーマンぽい感じの人だ。
サバサバしてて怖そうなイメージが浮かぶ……。
「お綺麗ですね」
「ありがとうございます。それでご用件をお伺いしても?」
とりあえず褒めてみたけど駄目でした。怒らせないようにしよう……。
「えぇ、先程もニズリさんにもお話したんですけど……」
同じ話をまた噛み砕いて説明していく。
「なるほど家とは具体的にはどのような?」
「出来れば街とかじゃなくて森の川があるところに一つ簡単なのでいいので建てていただきたいのですが」
「森にですか? なんでまたそんなところに」
「ゆったり暮らしたくて。それに色々やりたい事もあるので周囲に人が居ない方が都合が」
本音は現代のものを周りの目を気にしないで使いたいだけだが。
「昔猟師が使っていた小屋とかならありますが……。立てるとなると結構な時間がかかると思いますよ」
「あ、あるならそれで大丈夫ですよ。雨風が凌げればとりあえずいいので」
「後は正直そのマヨネーズとやらがどんなものなのかが、わからないので釣り合いがわからないのですが、ユウタさんが言う通りなら相当こちらが利益を得ることになると思うのですが」
確かにかなり損しそうだけど、最悪また別なの作って売ればいいじゃん。って軽い気持ちで考えてるんだよね。
ローゼにもお世話になったし別にこれくらいはいいんじゃないかな?
「それはまぁ、生きるのには変えられないですからね……」
「え? そんな深刻な話でしたか!?」
ユナさんには異世界うんぬんは言ってないから仕方ないけど、結構命かかってるの。
するとちょうどニズリさんが戻ってきた。
「話は終わったかね?」
「はい、一通りは。ですがマヨネーズがどんなものか変わらなくて……」
「だと思って少し貰ってきた」
マヨネーズの乗った小皿を机に置く。
「これがマヨネーズですか。用途は?」
「サラダや卵、芋など。他にも今はできませんが他のものと合わせてソースとかにもできますよ」
「なるほど。万能なんですね」
スプーンとかを持ってきてないからユナさんは小指につけてマヨネーズを舐める。
ニズリさん気が利かないなぁ。
「よし。直ぐに小屋を手配しますね」
「お、成立ってことかい?」
マジで?
「はい。これほど美味しい話は無いんじゃないかと。むしろこちらにしかほとんど利益がありませんよ。流石に申し訳ないとおもうんですが……」
ユナさんは冷酷そうに見えて意外とそうでもないのかな?
なんにせよひとまず住むところを確保できたのはでかい。
「やっぱりそう? どうしようか?」
「そうですね。家も元々ある小屋でいいとの事ですので、一通りの中古で家具と食品類と少しばかり現金を渡してあげたほうがいいのでは?」
なんか話が物凄い進んでる。
色々もらえるぽいんだけど逆にこっちが申し訳ない。
マヨネーズ売れなかったらどうするんだろう?
「そうか。家だけ有っても困るもんね。ユウタさん後何か欲しいものってありますか?」
「いえ、そんなに付けていただくのは申し訳ないですよ」
「でも何も手持ちないんですよね? 流石に生きていけないんじゃないですか」
痛いところを突かれる。 確かに色々あったほうがいいのは事実だけど……。
うん、ここはお言葉に甘えるべきか。
「そうですね。じゃあ多めに塩を頂きたいのですが。あとは鍬を貸して欲しいですね」
「わかりました。手配します」
聞くなりユナさんがメモしていく。
「鍬ですか? 畑でもやるんですか?」
「はい。小さいのを作ろうかなと思いまして」
なんかもうスローライフって感じがするな。だれもいないところで小さな畑を耕して作りたいものを作って……楽しみだな。
「明日の昼頃には作業を終わらせて案内しますので、それまでに何かご自身でやることがあれば済ませておいてください」
「わかりました。ありがとうございます」
紙とペンを借りてマヨネーズのレシピと泡立て器の構造を書いていく。
「これがレシピになります。といっても実はもうルネさんはもう作れると思いますが……」
そうなのだ。結局この話を断ってもこの家ではマヨネーズは出続けるんだよね。
「ルネが?」
「はい。隣で見ていたので彼女に任せれば大丈夫だと思いますよ」
「わかりました。後で伝えておきますね。私は手配があるのでこれで失礼します」
ユナさんは仕事に戻ってしまった。
「それでニズリさん。1つお伺いしたいことが」
「ん?」
「こっちには魔物が……。えーと、ゴブリンやスライムなどがいるとローゼから聞いてるんですが、冒険家ギルドとかはこの街にあるんですか?」
魔物といえば冒険家。となればギルドでしょ? クエストとかわくわくするじゃん? いやもちろん戦いなんてしないけど。
この世界はレベルとか経験値の制度はあるのかな?
「申し訳ないんですが、この街にはないんですよ。僻地で平和な方でしてギルドが在中するような魔物の被害とかほぼ無いんですよね。それでもたまに起こるとこの街に来てる冒険家がなんとかしてくれますしね。簡易的なギルドの仕事は私達が代わりにやってるんですよ」
なるほどね。ギルドに登録とかはできないわけか。
「ギルドの役割ってなんなんですか?」
「冒険家の管理や素材の買取、近辺の治安維持なんかですよ。隣町まで行けばギルドありますよ」
今のところ出る予定はないから別にいいかな。でも自分で討伐して肉を食べて素材を売ったら凄いコスパがいいんじゃないだろうか。
「わかりました。ありがとうございます。助かりました」
「いえいえ。あ、ユウタさん今日は泊まっていってくださいね。明日にならないと終わらないそうですので」
「いいんですか? 今日の宿をどうしようか考えていたので助かります」
本当にニズリさんには頭が上がらない。
ご飯に家に宿まで。こういうのを命の恩人と言うのだろう。
「ええ、用意させますのでローゼのところで待っててください」
「わかりました。それでは失礼します」
膝におでこがつくんじゃないかってくらいに頭を下げて応接間を後にする。
ひとまず大成功なんじゃないだろうか?
「でもローゼの部屋はわからない。広すぎるよねこの屋敷」
メイドさんを見つけるまで彷徨い歩いた。