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Exchange Love  作者: まひ姉
20/36

第16話 Exchange(伊織視点)

伊織「お~ やっと着いたか」


祐希「着いたって」


祐希は苦笑いしていたが、俺はあえてそういう言い方をした。 いくらテスト段階とはいえ、寝てから架空世界が発動するまで、時間がかかりすぎている。


これはまず、問題点1だな。



伊織「う~ん」


そんな事を考えながらも、俺は思いっきり伸びをする。 これが幻の感覚なのは分かっているが、それはそれで爽快感があるのだ。





祐希「で、どうすればいいんだっけ?」


こいつは、自分が大丈夫って宣言したクセに、本気で何も考えていなかったんだな。


まあそうは言っても、不具合を簡単に見つける方法なんてないんだが。 あっさり見つかるようなバグなら、俺が来るまでもなく排除されているだろう。




祐希「ねえ、だからどうす…」


そこまで言って、あいつの言葉が急に止まった。




伊織「…どうした?」


祐希「ねぇ、伊織。 伊織って、そんなに背が高かったっけ?」


言われてみればそうだった。


俺から見ると、いつもは見上げる祐希が下にいる。 ムカつくことだが、こいつは俺より10センチ以上も背が高いのだ。



伊織「身長の数値を入れ間違えたんじゃね…


…え… っ??!」



そこまで言って気がついた。 目の前にある祐希の顔が、俺そっくりなのだ!



伊織「祐希っ! 顔見ろ、顔っ!!」


祐希「うそっ!!!」


2人して、ただ驚くしかなかった。 そりゃそうだ。 目の前に自分がもう1人現れたら、誰でも驚く。


だが、俺達はさらなる事に気がついた。





伊織「待て、祐希。 俺の前にいるのが俺で、お前の前にいるのがお前。 これってどういう事だ?」


祐希「どうって…。 入れ換わったんじゃない? 身体」





伊織「…………。」


祐希「………。」





2人「……。」





伊織&祐希「ええぇ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!」


俺達は、この世界がひっくり返るかってぐらいの叫び声を上げた…。






【2】



伊織「まず落ち着こうな。 はい、どうどう」


俺は馬でも宥めるように、祐希の両肩に手を置き、続いて冷たいお茶を差し出した。


なにせこいつときたら、入れ替わった事実を認識するや、ありとあらゆる鏡やガラスを覗き込み、挙げ句の果てにはパニックに陥って、辺りを走り回る始末。 追いかけた俺はもう汗だくでヘロヘロだった。


こんな時は、幻と言っても冷たい飲み物の感覚が味わえるのは、実に助かる。





祐希「うう…。 どうしよう…」


そんな事、俺の方が聞きたい。


だが、こいつをこれ以上混乱させたら、生身の脳ミソまで何かなりそうで、俺は必死になっていた。




伊織「祐希。 まず理解しろ? これは、データの作り出した幻の世界だ。 本物の俺とお前が入れ替わった訳じゃない。 いいな?」



祐希「…うん…」


頼りない返事だったが、ないよりはマシだろう。



伊織「それから原因だが、これは2つ考えられる。 それは


『この世界を構成する機器に不具合がある』


のか、それとも


『単純に俺達が、繋ぐ身体を間違えた』


かだ」




祐希「壊れてたら、マズいんだよね?」


祐希の声… と言っても、いまは俺の声なんだが… は、まだ弱々しかった。



伊織「これを確かめるには、入力した時を振り返るのが早い。 間違えた部分があれば、機器は壊れていない証明になる」


祐希「なるほど」


俺は、頭から煙が出るんじゃないかってぐらい、脳ミソをフル回転させていた。


問題を解決しなければ、脳へのリンクが安全に解除できるかが分からない。 緊急脱出しようにも、機器が壊れていたらできないかも知れないのだ。


いやそもそも、機器に不具合が発生しているなら、下手に行動を起こさず、助けを待つ方が賢明かもな…。





祐希「でも、入力したナンバーは間違ってなかったよ? 何回も確かめたし、仮に間違えたとしても、偶然あたしが伊織の、伊織があたしの番号を入力するかな?」


弱々しいながらも、祐希は冷静さを取り戻してきていた。 これなら一応戦力になりそうだ。




伊織「確かにな。 だが、だとすれば他に原因があるのか? それともやっぱり故障…」




祐希「ねぇ」


そこまで言った瞬間、祐希が小さな声を上げた。



祐希「あたし達、ナンバーを入れ間違えたんじゃなくって、入れるナンバーを間違えたんだよ…」


伊織「???」


俺は意味が解らなかったが、祐希の推理は続いた。




祐希「思い出して? ナンバーはどこに書いてあった?」


伊織「俺のファイルの裏だが?」



祐希「そのファイル、誰の?」


伊織「そりゃ俺の…」


俺は、祐希の言っている意味が、まだ解らなかった。




祐希「だから…。 そのファイルを最初に会った日に…」


伊織「げ! マジかよ!!」


完全に忘れていた。 あの補講、一夜漬けの日、確かに俺は祐希のファイルを奪って…


それからもそのままにしていた。



祐希も祐希で


『もう同じように纏めたから』


だの


『あんたの手垢が染みついたのは嫌』


だの言って、結局ファイルはそのままだったのだ。





伊織&祐希「あ~あ」


2人で合わせて、大きく息を吐いてしまった。


だが、そうと分かればもう大丈夫だ。 緊急停止するだけで、安全に元の世界に復帰できる。 機器は壊れていないのだから、脳に危険が及ぶ心配はない。


停止させれば、ありえないケアレスミスを犯した事実が、研究所全体に知れ渡るだろうが、この際やむを得ないだろう。



伊織「よし、帰ろう」


そう考えた俺は、3杯目のお茶を飲み干すと、そう宣言したのだが…。





祐希「ねえ。 機械は壊れてないんだし、今日はこのままにしない?」


祐希は、とんでもない事を言い出しやがった…。






【3】



祐希の主張を纏めると…。



『機器を緊急停止させれば、今日の仕事は中断されてしまい、所員さんにも迷惑をかける。


それはつまり、1日欠勤するのと同じで、面と向かって『大丈夫』と言い切っておきながら、あまりに無責任だろう』



といったニュアンスになる。




伊織「変な所で責任感強いな」


祐希「だって、お金貰ってるし…」


まあな。 今こうしている間も、最高時給1800円は加算され続けているはずだ。 あんまり実感はないが。




伊織「ですがねぇ、祐希君。 私の勘が確かならば、理由はそれだけじゃないような気がするんですよ~」


俺は、どっかで聞いたような口調で祐希に詰め寄った。 さっきから、祐希の目が泳いでいたからだ。



伊織「ゆ~きく~ん」


祐希「それに…」


俺がさらに一歩詰め寄ると、祐希はおずおずと話し始めた。




祐希「…えと、その…。 前の休み、ちょっとカードを使いすぎちゃって…」


やはりな。 責任感云々の言葉はナシ。 ただのバカだ、こいつは。




伊織「つまり何か? 君は


『このミスがバレて給料に差し障りが出たら、借金が払えんから困る』


ただそれだけの理由で、身体を取り換えたまま過ごそうと言うのか!?」



祐希「うん」


…あっさり認めやがった。





伊織「ほ~。 じゃあ、参考までに、その『ちょっと』が一体いくらなのか、聞かせてもらおうじゃないか?」




祐希「……えん」


伊織「ん?」



祐希「……まんえん」


伊織「えっ?」




祐希「ブランドバックと財布で24万円…。 月末に一括払いで」





伊織「…













…1か…2回… いや、3回死んでこ~~い!!!」


俺の叫び声が、架空世界に響き渡った…。






【4】



祐希の浪費の辻褄合わせという、アホらしい理由で身体の交換を続けるハメになった俺。



祐希「ねえ。 怒ってる?」


祐希はそう言ったが、怒る気力もなくなるのがミソだな。




と言うか…。




伊織「俺の身体で、甘えた物の言い方はやめろ! 気色悪い!」


そうなのだ。 身体が逆転した今、祐希がしおらしくなればなるほど、男(俺)がなよなよするという悪循環。



伊織「分かったから、頼むから普段通りにしろ! 女らしくされると、余計に鳥肌が立つ」


俺の暴言が、ようやく祐希に火をつけた。



祐希「ちょっと! それ、あたしが普段、女らしくないって言いたいワケ?」



伊織「おしいっ! もう一声っ!」



祐希「俺が女らしくないなんて、言ったヤツはどいつだ!」


伊織「そうよ。 ワタシはどこからどう見たって女じゃない!」






伊織「…くくく…」


祐希「…ははは…」



伊織「いや、マジにウケる。 これ、最高のネタになるわ」



祐希「伊織こそ、ものすっごい似合ってたし。 って言うか、伊織の身体ってちびっこいから、女らしいのも似合うし」


言い合いながら2人して笑いあった。 笑い声が幻の世界で響く。





祐希「で、真面目な話、どうしよう?」


祐希は真顔に戻って言った。 適当にとは言われているが、不具合探しはしないとな?



伊織「っつても、外から探して分からないバグだからな。 ぶらぶらして、偶然見つかるのを待つしかないだろ」


いろんな所に行けば、何かしらあるだろうという他力本願ではあるが、悪いという程の事でもないはずだ。


この世界では、する事なす事、全てがデータの集まり。 足を1歩前に踏み出しただけでも、脳ミソから流れた電流がデータに反映される。




祐希「じゃ、どこ行く?」



伊織「まず着替える。 つまり服屋だな。 誰かさんを追っかけたせいで、汗だくだ」


祐希「そう言えばあたしも…」


走った時の疲労感といい、この汗といい、この世界では人間が実際に活動したのと同じ感覚を味わえるらしい。



祐希「お店は適当でいいんだよね?」


こうして逆転の旅は幕を開けた。 その先に潜むモノをまだ知らないまま…。

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