第17話 かわりきれないモノ(祐希視点)
店員「いらっしゃいませ~」
そう言って店員さんが迎えてくれる。 だけどこれは、もちろん人間じゃない。
伊織「よくできてるなぁ~」
そう伊織… 見た目はあたしなんだけど… が呟く。
いわゆるNPCという人達で、あらかじめ命令された事しかできないはずだけれど、あたしが歩くと後をついて歩き、服を手に取ると何かしら反応がある。 まったくもって良くできていて、つい買い物も進んでしまう。
祐希「じゃあ、これください」
祐希「それから…」
伊織「…おい…」
祐希「これなんか?」
伊織「祐希さん?」
祐希「これ、可愛いかも~」
伊織「もしも~し… ってこら~!!」
祐希「…っ!!!
き… き… 急にどうしたんだい?」
『キャー』と言いかけて、なんとか思いとどまった。 いくら小柄な伊織とはいえ、見た目は男だから『キャー』はない。
伊織「2ついいか?」
祐希「…ど、どうぞ」
静かに詰め寄る伊織に、本能的に一歩下がってしまう。
伊織「まず祐希君。 君には反省という言葉がないのか?」
祐希「えっ?」
伊織「えっ? ではなぁ~い! 貴様、誰のせいでこんな逆転を続けるハメになったと思ってるんだ?」
伊織が視線を注ぐのは、あたしの持つカゴ一杯に入った服。
祐希「買いすぎかな?」
あたしは頭をポリポリ掻いた。
伊織「まあ、今の所この世界の中では、いくら買ってもリアルマネーはいらんからいいが…。 お前に反省とか後悔とか、教訓なんて言葉がないのはよく分かった」
祐希「あはは…」
思わず苦笑い。
伊織「そして、重大な事がもう1つある」
祐希「…ゴクリ…」
伊織「お前が選んでいるのは、なんで女物ばかりなんだぁ~!!!
お前は俺… いや、俺の身体を、女装させる気か~!!!」
伊織の絶叫が、店一杯に響き渡った…。
【2】
あたしは… つまり伊織の身体は、7分丈のパンツとTシャツにベスト。 それにキャップとスニーカーを合わせた。 全体的にはミリタリー調。
いつも通りのコーディネートにした訳だけど、それでOKサインが出てしまうあたりは、ちょっとだけ複雑かも。
伊織「じゃ、俺も」
そう言った伊織は、選んだ服を全部持って試着室へ…。
祐希「…ってて、いいい伊織?!」
あたしは思わず声を上げてしまった。 伊織が持っている服の中に、青地にレースの入った、ブラとショーツが見えたからだ。
伊織「どうした?」
祐希「あんたまさか、下着まで替えるの?」
伊織「だって汗だくだったし…。 まずいか?」
『まずいか?』って、まずくない訳ないじゃない。 下着なんか替えられたら…
祐希「…えちゃ…じゃ…」
伊織「ん?」
祐希「だから、下着なんか替えたら、あたしの裸が見えちゃうじゃん!」
伊織「ああ、そうか」
そうかじゃなくて。
伊織「でもこの身体、作り物だぞ? お前も俺も、研究所で裸になんかなってないだろ?」
『見せてないんだから、その部分は再現されていない』=『だから、そこだけはあたしじゃない』なんて言いたいらしいけど…。
伊織「しかし改めて考えると、質感や重量感はあるな。 女の胸って、付けるとこんな感じになるのか…」
そう言って伊織は、その身体の胸に何気なく触れた。
祐希「きゃ~! 変態っ!!」
あたしは大声をあげると、反射的に伊織に手を上げていた。
その途端、伊織の身体は目の前から消え、その直後にものすごい大きな音がした。 よく見ると、服を入れてあった棚が倒れてしまっていた。
祐希「い、いおり? 伊織?!」
うめいているだけで、返事がなかった。
祐希「…う… そ… い、いや~~!!!」
叫んでいた。 頭が真っ白になり、何も考えられなくなった…。
【2】
祐希「う… うん…」
伊織「おい。 大丈夫か?」
祐希「…っつ… い、伊織?」
伊織「ようやく気がついたか。 まったく世話のやけるヤツだ」
祐希「…あたし…。 どうして?」
どうも記憶がはっきりしない。
伊織「教えてほしいか?」
祐希「え? う、うん」
伊織「と言うより、お前はアホかぁ~!!!」
耳元に伊織の絶叫がこだまする。
伊織「お前は今、男の身体なんだぞ?! 男が女を全力グーパンチで殴るか、普通。 それと!」
祐希「は、はいっ!」
背筋に電流が走った。
伊織「何で殴られた俺が、殴ったお前を介抱しなきゃならんのだ?! 取り乱しすぎだ!!」
ようやく記憶が鮮明になってきた。 たしかあたしは、伊織が胸を触ったの見て恥ずかしくなって…。
祐希「だって」
伊織「お前、何か隠して…」
祐希「…っ!!!」
言い訳しようとして、覗き込んでいた伊織と目が合った。 咄嗟に目を逸らす。あたしは顔を背けていた。
伊織「…いや、俺の気のせいだろう。 幸い、この世界ではダメージは蓄積しないらしい。 もう立てるんじゃないか?」
祐希「あ」
簡単に足に力が入った。 それを見て、伊織がふっと息を吐く。
伊織「もう1回だけ聞いておく。 帰らなくていいんだな?」
祐希「うん」
我ながら、弱々しい返事。
伊織「何を考えているかは知らんが、どうせなら楽しめ。 自分が他人になるなんて、滅多にない機会だろう?」
祐希「うん…」
あたしは何とか頷いた…。




