第8話 興味から(美海視点)
次の日。
私は、研究所に出勤した途端、うきうきする気持ちを抑えきれなくなった。 だって、朝から遥の様子がおかしいんだもん。
昨日は、他に行かなければいけない所があったから、最後まで同席できなかったけれど、結果なんか遥の様子を見てしまえばわかる。 あの仮面大好きな遥が、朝から仮面が剥がれかけてるなんて。
美海「遥、おっはよ」
遥「あぁ美海、おはよ…
いや、美海所長。 おはようございます」
ほらね? やっぱり。
美海「その様子だと、面接で収穫があったみたいね? どうだった?」
遥「…説明の前に、いくらなんでもくだけすぎでは?」
そう来たか。 私は所長室へ遥を促し、後ろ手で鍵をかけた。
遥「まったく…。 美海の研究バカと、異様なまでのフレンドリーさは、いつまで経っても変わらないんだな」
遥の口調は、プライベートのそれに変わっていた。
美海「それを言うなら、遥の仮面もいい勝負じゃない?
よくそんな器用な真似ができるよね? って言うか、うちの研究所じゃ、そんなのいらないって」
分け隔てのない気風が研究所の特徴になっているのを、遥が知らないはずはなかった。
遥「私は美海と違って、営業までこなさなけりゃならないからな? いざって時に地が出たらヤバいだろ?」
そっか。 こっちが素な自覚はあるんだ。
美海「ところで、面接の後に特別講義までしたそうじゃない? ついて来れた人はいた?」
遥が本気になったら、大学生ごときの知識じゃ、ちんぷんかんぷんのはずよね。
遥「何人かはいたぞ? そのうちの1人は、かなり反応が良かったし、何より研究に興味を持ってくれていた」
美海「だから機嫌がいいんだ」
つまり、遥の眼鏡に叶ったというヤツよね。 実はそういう人物は、研究所の所員の中でもあまり多くはない。
遥「あと1人、世紀の大物に化けるかも知れないヤツもいたぞ?」
遥は何故か、悪戯っぽい笑みを浮かべている。
美海「ふ~ん。 そんなに熱心に講義を聴いてたんだ?」
遥「いや、寝てた」
美海「はぅ!?」
まったくの予想外の言葉に、私は変な声を出してしまう。
遥「だから、寝てた。 なかなか度胸があるようだ」
美海「えっ? 遥の講義で寝たの?
で、そのコ、干した? 吊るした? しばいた???」
私は、その勇者様のなれの果てを、目を輝かせながら訊ねた…。