死神たちの『合法拉致ルート』
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プライベートがバタつき、しばらく更新が遅く不定期になりますが、レオンくんたちのお話を大切に書いていきます٩(。•ω•。)و
少しお待たせしますが、のほほんとお待ちいただければと幸いです。
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途方に暮れるヴィクトールに、アルテミアは慰めるような声で囁きます。
「……いいですか、旦那様?この地上の噴水ですが、ただの音消しや目くらましのためだけに、造るわけではございませんのよ?」
アルテミアが艶やかな唇の端を上げて、悪戯っぽく微笑みました。
彼女はしなやかな指先で、図面の地上部分──美しくデザインされた石組みの水場をトントン、と小突きます。
「ここはレオン様『専用』の、特別な水場になりますの」
「レオン専用、だと?」
ヴィクトールが問い返すと、アルテミアは胸の前で手を合わせ、どこか慈しむような、とろけるような笑みを浮かべました。
「ええ……、レオン様のお水やりは大変ではありませこと? ……この水場があればレオン様は、簡単にお水やりができますわ。泥んこになった小さなお手てを洗うのも、収穫したばかりのお野菜を洗うのも、すべてその場で、一番綺麗なお水でできてしまいますの。ウフフ……素敵でしょう?」
─レオンがびょん濡れになりながら、エッチラオッチラと一生懸命に水やりをしていることを、彼らはすでに知っていました。
3歳のレオンが『一人で出来るもん』を発動中であることも、すべてお見通しだったのです。
「なるほど……、レオン様の菜園に直結した最高のインフラ整備というわけですね」
セバスが感心したように頷きながら言いました。
古代プラントを隠蔽するカモフラージュが、結果として「レオンがのびのびと菜園を楽しむための水場」になっています。
その事実があまりにもヴァリエール家らしくありながら、『木漏れ日商会』もまた、忠実に仕事をしているのです。
「……そうか。レオンのため、か」
それを聞いた瞬間、ヴィクトールは親バカ全開の満面の笑みで弾けました。
「素晴らしい! 完璧だシオン、アルテミア! 我が最愛の息子が喜ぶなら、何一つ文句はない! 庭園の排水が夜な夜なキラキラ光るのも、レオンならきっと『きれいなの♪』と喜ぶはずだ。ならば、いくらでも発光させるがいい!!」
「コホンッ、旦那様。だから緩みすぎです」
セバスの咳払いと視線が、冷ややかに容赦なく突き刺さります。
しかし気がかり案件(息子らのやらかし)の隠蔽が、最高な形で解消出来そうなヴィクトールの耳には届きません。
「さらにですわ。旦那様♪」
アルテミアはドレスの袖からしなやかな白い腕を伸ばすと、図面の地下三叉路の奥──『木漏れ日商会の本拠地』へと真っ直ぐに繋がる隠し通路を、楽しそうに指先でなぞりました。
「この菜園のすぐ近くに、我が商会へ『直接繋がる連絡路』を設けますの。これさえあれば、万が一の際にも私どもが一瞬で駆けつけ、レオン様の安全は完全に保障されますわ。……それに」
そこでアルテミアは、扇を口元に当てて「ウフフ……」と、この日一番の艶やかな心底楽しそうな笑い声を上げました。
「いつでもそこから、レオン様が私どものオフィスへ遊びに来てくださったなら、とっても嬉しいですわ。お菓子をたくさん用意してお待ちしておりますの♪」
──完全に職権濫用である。
「安全のため」という建前を盾にして、地下通路からレオンを自分たちの本拠地(死神の巣窟)へ、合法的に招き寄せようとするアルテミアの瞳は、完全に「推し活なお姉様」のそれでした。
「……なるほど、公私混同も甚だしいですが、これ以上の防衛網はありません」
セバスが呆れたように言いつつも、その防犯性能には内心で深く感心していました。
「地上の小屋もただの入り口にはしませんわ。レオン様がちょっとお疲れになったときの『休憩場所』として小さなお椅子を置き、ハーブを吊るして干したり、お道具を可愛く保管したり、それに地下の冷水から上がってくる冷気を利用すれば、収穫したばかりのハーブやお野菜の、最高の『天然保管庫』になりますの。レオン様、きっと大喜びしてくださいますわ!」
アルテミアの語る「レオン様おままごとハウス計画」は、あまりにも具体的で、どこまでも優しさに満ちていました。
「……っ、うむ! 完璧だ……!!」
それを聞いたヴィクトールは、もはや感動のあまり胸を押さえています。
「レオンのために、休憩所、ハーブの乾燥室、さらに冷たいお野菜の保管庫……! 最愛の息子にそんな秘密基地を、用意してくれると……っ!」
「旦那様、涙ぐまないでください。みっともないです。それから『我が家直通の通路も作れ』など言わないで頂きたい!」
セバスが氷点下の視線でヴィクトールをピシャリと窘めると、シオンは優美な月光の髪を揺らして、クスクスと愉しげに笑いました。
「フフ、ヴィクトール様がそう望まれるのでしたら、ヴァリエール邸の執務室へ直通する『丸投げ通路』でも、お造り致しましょうか?」
「本当かシオン!? ぜひ頼む!!」
「旦那様、即答しないでください。却下です!」
紫紺の闇に包まれ仄かな明かりのテラスで、セバスの冷ややかな咳払いだけが虚しく響く中、ヴァリエール侯爵邸の地下は、レオンに中心にとんでもハイテクおもちゃ箱へと大改造されていきます。
それをまた、ヴィクトールは完全に推進派に寝返っている有様です。
その様子を黙って見つめていたゼロンは、のんびりと紅茶を飲み干しました。
商会の相談役として静かに思考していたゼロンは、商会が実際立ち上がったら、どうなるかはまだまだ未知数で想像もつきません。
ただどちらのバームも、ひとたび使えば、中毒性と依存性は抜群です。
試作されたこの美容バームだけでも、世界を揺るがす程の価値は充分にありました。
だからこそ───。
(全世界に我々の包囲網を敷けるという訳ですけどね)
世界各国の王侯貴族や富豪から懇願され、各地に支店を立ち上げていくからこそ、相手がどんなに怪しかろうとも、こちらに依存せざるを得なくなります。
商品もカスタマイズが必要、だからこそ支店なのです。
さらに泥石鹸を担当する者の中継基地でもあるため、ある意味バックに教皇の意向もついている……。
(……教皇にレオン様のバームを送りましたが、この美容バームも早速おくりましょうか)
ゼロンはセバスに紅茶のおかわりを注いで貰いながら、また思考の波に身を委ねました。
「ヴィクトール様。つきましては私ども商会が、今後世界各国に置く予定の支店名ですが──そちらは『木陰の足あと』と名付けました」
シオンが一枚の洗練された美しい羊皮紙をテーブルにスッと滑らせ、『木漏れ日商会』の象徴となる意匠が描かれています。
「これが、我が商会の本店の商標にございます」
描かれていたのは、豊かに葉を広げる大樹──『生命の樹』を模した美しい紋章。
しかしよく見ると、木漏れ日の光の中に、小さく愛らしい「幼児の足あと」が隠し絵のように優しく描かれいました。
「そして世界中に展開する支店『木陰の足あと』では、この意匠を反転させます。漆黒のインクで、静かな木陰にぽつりと残された、小さな足あと一つのマークを掲げるのです」
シオンの言葉に、ヴィクトールとセバスの目がわずかに見開かれます。
表の人間が見れば、「大樹の木陰に愛らしい子供の足あと」という微笑ましくも愛らしマークです。
しかし裏の人間──世界中の暗殺者や情報屋が見れば、それは「光の当たらない『闇(木陰)』に潜み、決して『痕跡(足あと)』を残さなぬ世界最強の死神たちの絶対聖域(ギルドの拠点)」を意味する暗号(警告)でした。
「……表は天使の歩み、裏は死神の爪痕というわけですか。実に素晴らしい商標です」
セバスはあまりにも完璧なダブルミーニングに目を細めて頷き、その口角がゆっくりと上がります。
「気に入っていただけて光栄です。我が『木漏れ日商会』と各支店『木陰の足あと』は、このマークの通り、世界の中でレオン様が今後歩まれる道を照らし、そこに生まれる影の中から、敵となるもの全ての盾となりましょう」
シオンが月光の髪を揺らし、優雅に胸に手を当てて一礼します。
すべてを『丸投げ』すると涙目で決意したヴィクトールの受難と、それ以上の最強の安心感は、どこまでもあたたかな紫紺の夜に満ち落ちてゆきました。
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