エドワード 理性の崩壊─お小遣い……いや、国家予算を─
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
お待たせいたしました。
ひとときのほほんとよろしくお願いします。
不定期になりますが、のんびりお付き合い
いただければ幸いです( * ॑꒳ ॑*)
久しぶりにエドワードがヴァリエール邸の菜園に足を踏み入れると、そこには相変わらずレオンが、小さなジョウロを持って佇んでいました。
「あ! エドにぃ! おはよー!」
トコトコポテポテ……♪
レオンの変わらない様子にホッとしたエドワードは、傍に来ると跪きギュッと抱き締めました。
柔らかなほんのり暖かな小さな身体に、涙がじわじわと溢れそうです。
(……無事でよかった。本当に無事で……)
「……うん? エドにぃ、イタイイタイ?」
「……そうだなぁ。レオンの姿を見たらうれしくて、胸がイタイイタイしてしまったよ」
そう言うと涙で濡れた目をこすり、目尻を下げて笑いました。
「レオン、母上が……王妃様が、君の作った『おだんご』をとても喜んでいたよ。お肌がとっても綺麗になったって」
エドワードが柔らかな髪を撫で伝えると、レオンはぱぁぁっと顔を輝かせました。
「ほんと!? 王妃さま、ニコニコ、なの?」
ニッコリと笑い頷くと、レオンは照れたようにモジモジして言います。
「……えへへ。エドにぃ、教えてくれて、ありがと」
レオンはエドワードの首に腕を回して、精一杯の力で「ぎゅーっ!」としがみつきました。
「エドにぃ、だいしゅき! あんがとーなの!」
耳元で囁かれ、ミルクとローズマリーが混ざったような幼い体温と、混じりけのない純粋な『だいしゅき』……。
エドワードの心臓は、人生最大級のドクンという跳ねる経験をしました。
(……くっ、なんだこの破壊力は!お小遣いをあげたい。いや……、この子が望むなら金貨の山でも、南の島の果樹園でも、何でも買い与えたくなる……!)
エドワードは理性を総動員して、懐から金貨袋を取り出そうとする右手を必死に押さえました。三歳児に金貨など持たせれば、それこそ教育に悪い。
「……レオン、そんなに喜んでくれるなら、今度美味しいお菓子をたくさん持ってくるよ。何がいい?」
「んーっとね、あまい、ふわふわのがいいの! みんなで、もぐもぐしゅるの!」
自分の欲望ではなく「みんなで」と笑うレオンに、グハッ……と倒れ込む、エドワード。
その横で一部始終を見ていたヴィクトール侯爵が、眉間に深い皺を寄せながら呟きました。
「……エドワード殿下。今この子に国庫の半分を差し出しそうな顔をしましたね。見逃しませんよ」
「……侯爵こそ。先ほどからレオンの頭を撫でようとして、手が空を彷徨っていますよ」
図星を突かれた二人は、互いにフンと鼻を鳴らして視線を逸らしました。
レオンは二人の大人の葛藤などどこ吹く風で、「もっとー!」と、再び菜園の奥へと駆けていきました。
光を浴びてその小さな背中が、キラキラと輝いています。
(だいしゅきかぁ……。あの子の「ありがとう」も、どんな宝石よりも尊い。……この可愛らしさを守るためなら、私は喜んで世界を騙す大嘘つきになろう)
レオンに抱きつかれた肩の温もりを噛み締めながら、エドワードは改めて「レオン防衛軍」としての覚悟を固めるのでした。
レオンの菜園では、お行儀のいい苗の状態を脱ぎ捨て、荒々しいほどの生命力に包まれました。
水滴が真珠のように葉の上で転がり、土からは温かい蒸気が立ち上っています。
トコトコポテポテ……♪
三歳のレオンは、長靴をキュッキュと鳴らしながらジャガイモの畝へと続く緑の回廊を歩いていました。
「ブルーノ! お山、もっとぎゅぎゅ。お芋さん、お外が気になるの」
レオンが指さす先では、二度目の追肥を終えたばかりの土が、内側からの圧力でわずかに盛り上がっています。
「……承知しました、坊ちゃま。この時期、お芋さんは急速に太りますから、光を遮る『最後の防壁』を築きましょう」
ブルーノは鍬を振るい、ジャガイモの茎の根元にたっぷりと土を寄せました。
これであとは収穫を待つのみ♪
葉は濃い緑色を通り越し、少しずつ黄色になる準備を始めています。
北側ではトウモロコシが驚くべき速さで、グィーンと背を伸ばしていました。
「トウモ、ロコシさん、おっきい!」
「坊ちゃま、もう私の膝を越えてます。この葉の縁で指を切らぬよう、お気をつけください」
ブルーノが影のように寄り添い、レオンの柔らかな肌に触れぬよう、そっと硬い葉を避けます。
レオンはその葉のざらりとした質感と、若竹のような清々しい匂いを、のほほんと全身で受け止めていました。
隣の畝では、ニコが支柱を立て、トマトの脇芽を器用に摘み取っています。
「レオン様、見てください。小さな黄色い花が咲きましたよ。これが赤くなるのが楽しみですね」
レオンがその茎に鼻を近づけると、独特の少し鼻につくような青臭い香りがしました。
茎を覆う白い産毛が、キラキラと銀色に輝いています。
「……ん。あかくなったら、マルコに、あまいスープ、するの」
そして足元を見るとひっそり、力強く土を押し上げているものがありました。
「……おまめさん、ガンバ♪」
レオンがポテポテと歩み寄り、しゃがみ込みます。
そこには、ぽってりと厚みのある、可愛らしい「双葉」が顔を出していました。
バラの甘い芳香と、トマトの青い匂い、そして温まった土の香気……。
「……しあわせだねぇ」
レオンののんびりとした呟きに、2人の大人たちは静かに微笑み、目を細めるのでした。
執務室の窓を開けたヴィクトールは、西から流れてくるミントの清々しい香りに、思わず深く息を吸い込みました。
「……セバス。初夏の風というのは、これほどまでに甘く、力強いものだったか?」
「旦那様。レオン様とブルーノが手入れをしておりました。トウモロコシなど青々として、じゃがいもがそろそろ収穫時期だとか」
ヴィクトールは頬を緩ませ、菜園の真ん中で「大きくなーれ!」と苗に声をかける息子の後ろ姿を見つめました。
「……なあ、アルベルト」
ヴァリエール邸の回廊、……。
エドワードが、どこか遠い目をして口を開きました。
「さっき、レオンに『王妃様が喜んでたよ』って伝えたんだ。そしたらあの子……俺の首に抱きついて、『エドにぃ大好き、あんがとーなの!』って。……正直、今すぐ王室の宝物庫を開けて、一番いい宝石を持たせてやりたい気分だよ」
その言葉を聞いた瞬間、隣を歩いていたアルベルトが足を止めました。
「……は? エドワード殿下、今、なんて? 抱きついた? レオンが、貴方に?」
「ああ。全身全霊の『ありがとう』だったよ。……あんなの見せられたら、何かお返ししなきゃ男が廃るだろう?」
アルベルトは愕然としました。
レオンが頑張ったのは事実です。
そのお礼をしたいというエドワードの気持ちもわかる。
(……しかし、待てよ?)
アルベルトは自分を振り返りました。
「……俺、あいつに、何かあげたことあったっけ?」
思い返せば二歳のレオンは、誕生日に一生懸命描いた「にーちゃの顔」をくれ、お祝いの日には、まだたどたどしい口調で「おめでとー!」の歌まで歌ってくれました。
それなのに、自分は……。
「……ヤバい。俺、あいつの好意を受け取りっぱなしだ。兄貴として、一回もまともなお返しをしてない……っ!」
レオンの兄としての、人生最大の危機です。
それに……、偽兄まで存在している今、存亡の危機かもしれません。
「エドワード殿下。貴方が何を贈るつもりか知りませんが、兄である俺を差し置いて、あんまり豪華なものを贈るのはやめてください」
「おや、アルベルト。それは嫉妬かな? でも、あんなに可愛い『ありがとう』を言われちゃったら、こっちも手ぶらじゃいられないよ」
「……っ、言いましたね!」
二人の間に、目に見えない火花が散ります。
エドワードは「さて、何を贈ればあの子はもっと喜ぶかな」と楽しそうに考え始め、アルベルトは焦燥感に駆られて拳を握りしめました。
(先を越されるわけにはいかない……。エドワード殿下に『一番のお兄ちゃん』の座を持って行かれたら、一生の不覚!)
「レオン、待ってろ。にーちゃが世界で一番お前が喜ぶものを、絶対に見つけてやるからな!」
その頃、当のレオンは菜園の隅で……。
「ありさん、お引越し? がんば!」
と、小さな蟻の行列をのんびり応援しながら、平和に鼻歌を歌っているのでした。
その横でブルーノは欠伸をしながら、のんびりと微睡んでいます。
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