─王宮騎士団の到着―─
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
お待たせいたしました。
ひとときのほほんとよろしくお願いします。
不定期になりますが、のんびりお付き合い
いただければ幸いです( * ॑꒳ ॑*)
「ヴィクトール侯爵! ご無事かッ!!」
蹄の音を響かせ王宮騎士団の一隊が、侯爵邸の正門を蹴破る勢いでなだれ込みました。
精鋭の暗殺ギルドが動いたという情報を受け、凄惨な流血の事態を覚悟していました。
しかし彼らを出迎えたのは、死体でも血飛沫でもなく、鼻を突き抜けるような暴力的なミント臭でした。
「……隊長。これは、一体……?」
先頭の騎士が馬を止め、呆然と庭を指差しました。
そこには、月明かりを浴びて白く光り輝く、40体近い石像もどき(パッキング済みの敵)が、等間隔で並べられていたのです。
「……賊の死体か? いや、動いているぞ。……『フゴッ……ガフッ……』と音がする」
騎士たちが馬から降り剣を構えて近づくと、そこには「形容しがたい悪臭」と、灰で固められた暗殺者たちが転がっていました。
そこへゴーグルを首にかけ、満足げに鼻を鳴らすレオンを抱いたヴィクトールが、静かに現れました。
「遅かったな、騎士諸君。……見ての通り、『仕置き』はすでに終わっている」
騎士団長はおそるおそる、石像の一つに触れました。
……カチカチです、どうするんだ、これ?
「……閣下、これは……魔法ですか? 40名にもおよぶ精鋭をたった一晩で捕獲するとは……、なんですか……これ?」
「……とーさま。このおじしゃんは?」
レオンが、ヴィクトールの腕の中から、ひょいと騎士団長を指差しました。
「……バイバイさん?」
その瞬間……、百戦錬磨の騎士団長は反射的に一歩後退しました。
なぜかとても嫌な予感がしたからです。
騎士団の本来の仕事は、敵を斬り伏せ治安を維持することです。
しかし今回、彼らに課せられた任務は「悪臭で重い『石像』40体を王宮へ運ぶ」という任務でした。
実際……、何らかの圧力により動く事が出来ず邪魔をされ、動いたのは翌朝となれば、救いようもありません。
実際想像を絶する血なまぐさい事故現場を想像していたくらいです。
故に、……断る事など出来るはずもありませんでした。
「……おい、この『荷物』滑るぞ! 手がベタベタする!」
「こっちの袋、中から『ごめんなさい』って呟いて、シクシク泣いているぞ……」
騎士団の隊員はミントと廃油の香りに胸焼けし、メンタルが完全にヤラれてしまいました。
王宮の謁見の間……。
本来なら国家を揺るがすほどの、重大事件の報告を行うものでした。
しかし運び込まれた「40体の塊」と、騎士団長による「あまりにも情けない戦闘の結果報告」を聞いた瞬間、アルフレッド陛下は我慢できませんでした。
「……ぶっ、はははははは! はぁーっ、はっはっは!!」
広大な謁見の間に、アルフレッド陛下の豪快な笑い声が反響します。
玉座に座る王は、あまりの可笑しさに腹を抱え、王冠が少しズレるのも構わず、膝を叩いて笑い転げていました。
「……陛下! 不謹慎ですぞ! これほどの襲撃事件があり、圧力で我ら騎士団は動けなかったのです。そ、それに……侯爵邸は地獄(ミント臭の)だったのです!」
涙目で訴える騎士団長を前に、陛下はさらに肘置きを叩いて笑います。
「いや、済まぬ! 済まぬが……っ、想像してみろ! 国家転覆を狙った精鋭の隠密たちが、三歳の子供の悪戯した罠に、使用人たちが全力で参加した結果、足を滑らせくしゃみ一つ出す暇もなく、気がつけば麻袋に詰められて『出荷』待ちされたのだぞ!ぶはっ!!む、無理だ、わ、笑いが止まらん、くっくっく……」
アルフレッドは口元を震わせ、リーダーらしき一体……「パッキング済みの敵」を見下ろしました。
「……み、見ろこのポーズを、逃げよう、とした体勢のまま、か、固まったのだろう。ブッ……哀れだな、何か言いたくても言えず、まるで見世物では、ないか。影の者が隠れる事も出来ず、無様な姿を曝け出すとは……、たちの悪い喜劇だな、ぶはっ……、も、たまらん!」
隣で扇を広げていたイザベラ王妃も、クスクスと上品に笑い容赦なく言葉を重ねます。
「あら、陛下。これは喜劇ではなく、『大掃除』ですわ。ただお庭に落ちてきた『大きなゴミ』が、レオンちゃんの遊びで作った罠に捕まっただけですもの。ちゃんと使用人も分別で袋に詰めてエラいですわ。……ねえ、騎士団長。この方たち、燃えるゴミ? それとも不燃ゴミかしら?ふっ、み、見てあのポーズ!!あはっ!」
必死に股が開くのを阻止しようとしたのか、歯を食いしばり、鼻の穴が開き必死な形相で固まっています。
「お、王妃様まで……っ! 我々はこの『ゴミ』から漂う廃油ミントの臭いで、馬まで鼻を曲げてしまい、帰還するのに倍の時間がかかったのですぞ!」
エドワード皇太子は、呆れ果てた表情で石像を検分していましたが、ついに口元を緩めました。
「父上。……、確かにこれは笑えますが、効率的です。……敵を置物に変えてしまう。……なるほど、今後の軍事教本に『家事と防衛の融合』という一章を加えなければなりませんな」
「ハハハ、全くだ! 幼子の遊びに引っかかる奴らがマヌケなだけだ。我らもやり方を変え、羽虫のような愚か者らに、まともに対応する必要はないだろう。……ちょうどいい」
陛下はようやく笑い止むと、涙を拭い真剣で、口角を吊り上げたままの表情で宣言しました。
「よし! この四十体の『石像』どもは、次回の謁見で等間隔に並べて品評会といこうではないか! 殺したくとも、ここは神聖な謁見の間。だが奴らは都合よくカチコチだからな! アハハ、列席者がどんな面をするか見ものだぞ!」
底意地の悪い表情を浮かべるアルフレッドの顔を見た騎士団長は、「あっ、ブチギレてる」と察しました。
よくよく見れば、王妃もエドワードもニコニコと柔和な笑みを浮かべていますが、その目は完全に据わっています。
さらに考えれば、我ら騎士団の面目も潰されたのです。
(……うん、反対する理由がない。むしろ賛成だ)
「ある程度見せしめた後は、地下牢にでも転がしておけ。黒幕を全て吐くまで、そのままだな。おい!それまでは、その芳しい廃油とミントの香りに包まれて、己の愚かさを噛み締めろ!」
とりあえずあまりに臭うため、次の謁見が始まるまで彼らは、屋外へ放り出されることになりました。
騎士たちが臭いに鼻を曲げ、「白い荷物ら」を引きずって退場していく後ろ姿を見送りながら、陛下は再び、愉快そうに大笑いしました。
廊下を得体のしれない石像を引きずる騎士らの姿に、結託した者達は青ざめます。
その後、恐怖に耐えかねて自首した者もいたとか。彼らは震えながら、こう呟いたそうです。
「……せめて、人として扱われるうちに(人でいたい)」
幼子が暇を持て余し、姉の研究室で遊び作ったものが、国際的暗殺部隊を殲滅したという恐怖の情報が流れます。
事実……謁見の間ではスゴい形相と姿勢の石像が並んでいます。
この噂を聞いた近隣諸国のスパイたちは、『侯爵邸には絶対に近づくな。あそこには常識の通じない悪魔いる』と恐怖の対象になりました。
「……うっ?」
「どうしましたか、坊ちゃま?」
キョロキョロと辺りを見渡すレオンは、じゃがいもさんと、夏野菜の苗を確認中……。
「……なんか、スッキリ?」
今まで密偵や隠密の視線や気配がありましたから、今は確かにいない分スッキリでしょう。
侯爵邸にはやっと穏やかな日々が戻ってきたのです。
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「泥石鹸」は領地の商人たちにとって、希望から絶望への転落だったようです。
当初マルクスに指示し、急遽進めていた工房の立ち上げは試作を重ねながら、じわじわと生産性を高めていく領地産業品の予定でした。
しかし試作段階で石鹸が発揮した「奇跡」とも呼べる洗浄力の効果は、ヴィクトールの想定を遥かに超え、使用した王妃も危機感を抱き、生産性の向上と独占的な利権にせず、民衆の救済に充てる事を提案します。
そうする事で、侯爵家の安全と平穏が保てると考えたからです。
ヴィクトールはその提案を承諾し、生産拠点を厳重な管理下にある「孤児院」へと切り替えました。
しかし丁寧な根回しや正当な補償の提示したところで、欲に目が眩んだ一部の商人を鎮めるには至りません。
目の前から莫大な富(金)が掠め取られたと憤る彼らに、隣国の諜報機関が甘い毒を注ぎました。
「本物が世に出る前に、自分たちが開発したと触れ回ればいい。売ったモン勝ちだ」
彼らは背徳感など微塵もありません。
むしろ自分たちこそが、横暴な領主一族にアイデアを盗まれた被害者だと思うことで、卑劣な「三文芝居」を完成させたのです。
舞台の中心に立ったのは、逆恨みを抱いていたレオンの乳母でした。
彼女は後添いになる野望を抱き、レオンに対する態度も良くなかったので、乳離れした段階で多額の報奨金を渡し解雇した者です。
彼女は衆人環視の中で涙を流し、声を震わせ嘆いて見せます。
「あぁ、カトリーヌ様……。またそのような嘘を……。昔から見栄を張るために虚言を吐く癖がおありでしたが、まさか他人の功績まで我が物にされるとは……。私は情けなくて涙が止まりませんわ」
領主の娘への憐れみと、聖女の化けの皮が剥がれる刺激的なスキャンダルは 、真実を知らぬ世間に広がっていきました。
しかし侯爵家ではその狂言を、薄笑いを浮かべて眺めています。
今後またレオンがやらかすなら、領地内の安全と治安を脅かす「病巣」を、この機に根こそぎ切除しようと決めていたからです。
愚かな彼らは知りませんでした。
石鹸を作る真の材料と緻密な工程を……、ただ王都から流れてくる泥と湧き水を使えば作れると信じ込んでいたのです。
当然、粗悪品を使った人々の肌は荒れ、吹き出物が広がるという惨憺たる結果を招きます。
わざわざヴィクトールが動かなくても、勝手に自滅するだけでした。
「マルクス、真眼の灰は恩を売った気でいたぞ。面白いものを釣り上げたな、フッ……」
「別に釣りはしていません。ただの検証ですよ。タダ同然で商人どもが、いろいろと検証してくれたので助かりました」
今後、サボンソウの需要は爆発的に増えることが予想されます。そのためサボンソウを洗濯用に回すには、供給の面で 懸念がありました。
そんな折、ヴィクトールはマルクスから「洗濯板を使うだけでも汚れの落ち方が劇的に違う」という報告を受け、そもそも洗濯にサボンソウは必須なのかという疑問を抱いたのです。
結果は——。
「やはり、サボンソウがなくとも『板』があれば十分綺麗に落ちました。さらに、奴らが勝手に作った『泥と灰と廃油の石鹸』を併用すれば、洗浄力はさらに跳ね上がりましたよ」
つまり、希少なサボンソウは身体用(石鹸)として温存し、洗濯には安価な代用品で事足りるという結果になりました。
「ですが閣下……貴族がお召しになるような豪華な衣装は、やはりサボンソウが適しているようです。生地によって使い分けが必要だと、洗濯屋の婆さんたちが申しておりました」
なるほど、洗濯とはそれほどまでに奥が深い作業だったのか……。
想定外の「家事の専門性」を突きつけられ、ヴィクトールはやれやれと深く溜息をつくのでした。
気がつけば、バラの甘い薫りがハーブの風に溶け、陽光を吸い込んだ土の下では、レオンが植えたじゃがいもが静かにその身を丸めています。
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