─チェックメイト─
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
お待たせいたしました。
ひとときのほほんとよろしくお願いします。
不定期になりますが、のんびりお付き合い
いただければ幸いです( * ॑꒳ ॑*)
王宮「薔薇の間」……、天井から吊るされたクリスタルが光に煌めき、天井には咲き誇り華やかで豪華な薔薇が描かれ、かつて夢見た景色さえも塗り替えるような鮮やかな美しさが、彼女の新たな門出を無言で祝福していた。
壁際に並ぶのは、各国の思惑を背負った外交官、利権の匂いに敏感な大商人、そして虎視眈々と新技術を狙う国内貴族たち。
彼らの熱っぽい視線が、中央の壇上へと注がれている。
そこにはエレーナの面影を色濃く残す十歳の少女、カトリーヌが凛とした姿で立っていた。その横には、王族の威厳を纏ったエドワード皇太子が、守護者のように控えている。
「……ですので、これはただの石鹸ではございません」
居並ぶ貴族や諸外国の特使、そして強欲な商人たちの視線を一身に浴びながら、カトリーヌは気遅れする事なく、凛とした声を響かせてい
た。
彼女の手には、『泥石鹸』が捧げられている。
「これは亡き母エレーナが、最期の時まで研究し続けた結晶です。母の手記に残されたモノを、私が母の遺志を継いで形にしました」
カトリーヌは集まった面々をゆっくりと見渡し、一歩も引かぬ強い意志を瞳に宿す。
「母は心暖かで優しい人でした。病や汚れに苦しむことなく、健やかに暮らせる穏やかな世界を願っていました。その願いを込めた石鹸を、私欲のために奪い汚そうとするなら……」
彼女の声が、わずかに低くなった。
「それは、亡き母への冒涜であり、母の想いを踏みにじる者と見なしましょう」
広間には、し──んと静まり返る。
死者が遺した『最後の願い』を汚す。
この世界では神の御前にて、その魂の安寧を奪うことに等しく大罪とされる。
カトリーヌの言葉は単なる感情論ではなく、貴族としての矜持と信仰を突きつける峻烈な宣告だった。
カトリーヌの背後に立つヴィクトールが小さく頷く。
その隣では皇太子エドワードが、カトリーヌの堂々たる姿に、誇らしげな笑みを浮かべていた。
「(……死者を持ち出し、冒涜とは手厳しい)」
貴族の一人は冷や汗を拭いながら、隣の男に耳打ちする。
商人たちは互いに顔を見合わせ、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
カトリーヌの言葉は、彼らの考える「利権」や「独占」といった独善的な言葉を、根底から封じ込める。
そこへ国王アルフレッドが静かに口を開いた。
「カトリーヌ嬢の申す通り、これは我が国の至宝である。しかし、……そのあまりに画期的な効果ゆえ、国内外の混乱を招く恐れがある為、体制が整うまでは王家が直轄管理とし、その製法と流通は厳重に保護する」
陛下の宣告に広間にどよめきが走る。
「王家管理」……石鹸が、国家的な戦略物資となったことを意味する。もはや一貴族や商人が手を出していいレベルのモノではない。
「そして、その生産であるが……」
アルフレッドの視線を受けて、ベネディクト大司教が前に出た。
その厳かな姿に、……どよめきがピタリと止まる。
「この聖なる石鹸の生産は、神の御名のもと、各地の教会が管轄する孤児院にて行います。教会にある湧水と、底に眠る清浄な泥を利用して、孤児たちの自立を支援し、輝かしい未来のために充てられるでしょう」
大司教の発表は、強欲な者たちへのトドメの一撃だった。
「(……孤児院だと!? しかも教会所有の水……)」
「(……これでは模倣品を作ろうにも、泉の水がなければ作れない。それに、孤児たちの利益を奪うような真似をすれば、教会の破門は免れない……)」
商人たちは完全に青ざめていた。
教会の威光をバックに、しかも「慈善事業」という大義名分まで持ち出されては、もはやぐうの音も出ない。
「(……くそっ、完璧な『チェックメイト』だ。手を出した瞬間に、死者への冒涜者、王命違反者、そして教会の敵として、社会的に抹殺される……)」
会場を支配していた強欲な熱気は、一気に霧散していった。代わりに諦めとわずかな敬畏の念が広がる。
「皆様、ご安心を……」
ヴィクトール侯爵が、静かに追撃をかける。
「エレーナの手記には『多くの者に健やかであれ』と記されておりました。正当な手続きを踏み、王家と教会のルールに従う者には、広く門戸を開くつもりです。物流も各地の教会を拠点とすることで、輸送コストを抑え、皆様のもとへ安定して供給できる体制を整えられます」
その言葉に商人たちの瞳に、わずかに生気が戻った。「独占」は無理でも、教会の公認代理店として「販売」するチャンスはある。
「(……なるほど、自分で作るリスクより、教会の公認代理店として、高貴なブランドを扱う名誉と利益を取れ、ということか……)」
彼らは悔しがりながらも、その「経済的合理性」を認めざるを得ない。
ヴィクトールの説明が終わり、広間が異様な静寂に包まれた。
それまで目を閉じ、祈るように控えていたベネディクトがゆっくりと目を開け、一歩前へ踏み出す。
「聖都におわす教皇聖下より、直々の聖旨を賜っております。」
広間にいた全員が、雷に打たれたように平伏する。教皇の紋章が刻まれたその書状は、この教圏において「神の意志」そのもの。
「聖下は、泥の中に『浄化の光』を見出したことを、深く慈しまれました。……ここに記されたるは、全教圏における『清泉開放』の認可。各地の教会にある泉を、この浄化の事業のために供せよとの命にございます」
ベネディクトは、真っ青な顔で震える商人や貴族たち、また諸外国の外交官を、慈悲と冷徹さという相対した瞳で見下ろした。
「……皆様、よろしいか。この石鹸の価値を汚し、私欲のために留め置こうとする者は、もはや国王陛下への不忠に留まりませぬ。それは教皇聖下への背信であり、神が授けし『救済』を拒む事を意味いたします」
大司教は最後の一言を放ちました。
「これより、この石鹸の流通を妨げる不届き者がおれば、わたくし自ら、その者の破門状を聖都へ書き送りましょう。……さあ、誰か、異論のある者はおりますかな?」
静まり返る広間。
後ろで控えていたエドワードは、ニヤリと笑う。
「破門」という最強カードを 、宗教界の重鎮であるベネディクトが口にするだけで、社会的・経済的死を宣告されたも同然だからだ。
こうして全世界を巻き込んだ石鹸騒動は、カトリーヌの「全力で望んだ嘘」と、大人たちの完璧な「防衛網と情報戦」により、「聖なるブランド」へと格上げし着地した。
会場に重苦しい沈黙が流れる中、アルフレッドが悠然と一歩前へ出る。
「……さて、本日の発表は以上になるが、まだ伝えたい事がある」
アルフレッドは凍りつくような微笑を浮かべながら、会場にいる特定の数人に睨みつけ視線を走らせる。
その視線が止まったのは、他国の特使や、裏で暗躍した大商人だ。
「ここ数日、侯爵邸の庭が少々賑やかでね。どうやらエレーナが愛した珍しい花々や、土の香りに惹かれ迷い込む客が連日訪れるそうだ」
その言葉を聞き、数人の顔から血の気が引いた。
「(まさか送り込んだ手駒が、バレているのか!?)」
「(……一兵も戻ってこないと思ったが、捕らえられているのか……!)」
ヴィクトールは、彼らの動揺を見逃さない。
エドワードも目を光らせ周りを見回す。
「ただでさえ侯爵家は大変だ。故に迷子の者達は現在……、王宮と教会の地下に滞在している。後ほど親元から宿泊費を支払って貰おう。大司教閣下の温かなお導きという特別プランだ。今は自らの行いを振り返り、静かに反省している事だろう。……だな、ベネディクト大司教?」
ベネディクトは慈愛に満ちた(しかし目は笑っていない)表情で深く頷く。
「ええ。皆様があまりにも熱心に、エレーナの遺志を知りたがっていたので、旧友である私自らじっくりと、『教え』て差し上げました。……彼らがその後、何を求め懺悔すべきか、主の御心に照らして、しかるべき処置を下すつもりです」
「しかるべき処置」――その言葉に、広間の空気は凍りついた。
「(……終わった。下手にこれ以上抗議をすれば、捕まった密偵の口から、我が国の名前が公式に『神聖冒涜の主犯』として公表される……!)」
「(破門……いや、国家間の断絶だ。もはや、謝罪して引き下がる以外の道はない……!)」
ヴィクトールは満足げに目を細めると、まるで世間話でもするかのように明るい声を出した。
「おや?お顔の色が優れない者がおりますが、大丈夫でしょうか?『聖なる石鹸』の門出です。どうか清らかな心でお祝い頂きたい」
その「清らかな心で」という言葉は、彼らにとっての死刑宣告だった。
自分たちの罪は握られ、首根っこを掴まれたまま、彼らは「王家と教会のルール」に一生従い続けることを、その場で静かに誓わされたのである。
(チェックメイト……、完全に詰みね。これでレオンくんが発明したことを、わからないまま消せたわ。エレーナ見てる。あなたの願いをしっかり守ったわよ)
王妃イザベラは暖かな慈母の微笑みを讃えながら勝利を確信していた。
読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)
たくさんのブクマやポイント
ありがとうございます( * ॑꒳ ॑*)
とても励みになり、がんばろうと思いです。
メールもとても嬉しいです。
ネタになることもあります♪
誤字脱字もありがとうございます。(о´∀`о)




