侯爵邸防衛戦――『天使の守護者たち』
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
お待たせいたしました。
ひとときのほほんとよろしくお願いします。
不定期になりますが、のんびりお付き合い
いただければ幸いです( * ॑꒳ ॑*)
宣言当日……、王宮へと向かう馬車の轍が、ギシギシと街道に深く刻まれていく。
ヴィクトール、アルベルト、カトリーヌは、根源を完膚なきまでに仕留めに行くのだ。
その音が遠のいて行くと共に、侯爵邸を包む空気は、薄氷を履むような鋭利な緊張感へと変わっていった。
「……行ったか。各員、戦闘配備」
側近マルクスが、懐中時計の蓋をパチンと閉じた。
(……おかしい。空気が、重い)
レオンの戦闘服(メイドらが作った)にアイロンをかけながら、ふと手を止める、ニコ。
窓の外ではブルーノがいつも通りバラの手入れをしている。厨房からはマルコが鼻歌まじりにクッキーを焼く音が聞こえる。
(でも、……何かが違う。ここで怯えたら、この子にまで恐怖が伝わってしまう)
「……ニコ、おめ目、きょろきょろ、してる。……こわいの?」
この小さな命が消えれば、侯爵家は終わる。それを狙う「影」が、確実に庭園のどこかに潜んでいる。
震える指先を隠すように、レオンの背中を優しく抱き寄せた。
(僕にできるのは戦うことじゃない。安全な場所へ導くことだけ……)
……ゴクリ。
「……だいじょうぶですよ。みんながついていますからね」
レオンは「……ん。……がぉー、だ」と頷き、ニコを慰めるように、ギュッと抱きしめた。
トコトコ、ポテポテ……。
抱っこをせがまず、自分の足で歩こうとするレオンを、ニコはさりげなく部屋の中央へ……窓から一番遠い場所へと促す。
レオンを安全な場所へ……。
ニコは背中に感じる視線を遮りながら、一歩一歩、静かに、確実に、レオンを視線から遠ざけていった。
(……風が、変わったな)
剪定バサミを動かしながら、庭の端にある「死角」を鋭く睨む。
先ほどから、微かに混じる「異物」の気配……。
侯爵家という巨木を枯らすために、最も柔らかい新芽――レオン――を摘み取ろうとしている鼠どもの匂いだ。
無邪気に笑うレオンが消えれば、侯爵家は狂乱し、やがて瓦解する。
犯人たちの狙いは、僅かな行いで侯爵家を崩壊すること……。
メイドが作った戦闘服に身を包み、ライオンのように勇ましく(でも足元はポテポテと)、茂みに向かってレオンがガオーと吠える。
その姿があまりに健気で、とても危うくて……。
ブルーノは茂みの奥に消えた、微かな気配を見送ると、大切な我々の急所を見守り続けた。
この平穏を壊そうとする者に、我々という絶望を味わせてやろう。
「レオン様、ご飯にしましょう。今日は何を作ったんでしょうね、マルコは」
レオンは暗く渦巻いている気配を気にしないかのように、わずかに残る春の光の中を駆けていく。
背中で踊る太陽を模したライオンが、我々の決意を映しているようだ。
(……ちっ、嫌な風が吹きやがる)
包丁を置き、勝手口の閂が降りている事を確認する。
「……マルコ、ごはんは? ……おなか、ぺこぺこ、よ」
レオンがブルーノに手を引かれてやってきた。
遅れてやってきたニコの顔は少し強張っている。
「レオン様、今日は特別ですよ。すぐに食べれるコロリンと『お団子パン』です」
今日はいつもの優雅なコースじゃなく、一口サイズに刻んだベーコンとチーズを詰め込み、生地に玉ねぎを入れたパンだ。
これなら片手で食べられるし、何より腹持ちがいい。
「……あ、コロコロ、してる♪」
ウンショと椅子乗せて貰い、小さな手でパンを掴み食べ始める。
立った状態でレオンを見守りながら、自分たちの分を口に放り込む。
(味わう時間はねえ……、とにかく胃にブチ込むんだ。いつ……、レオン様を抱えてこの場を離れるか分からねえからな)
「……マルコ。これ、おいしい♪」
……そっか、美味しいか。
レオンのいつもと変わらない様子にホッとしていた。
「ニコ、レオン様が食べ終わる前に、奥の貯蔵庫を点検してくれ。……ブルーノ、頼むぞ」
互いに確認し合い……、最後の一口を食べ終える。
外では……、雲が太陽を隠そうとしていた。
「……っ、この屋敷、どうなっているんだ!? どこへ行っても罠だらけだ!」
一人の密偵が『スベスベ』に苛まれた状態で、なんとか廊下へと這い上がりました。
ですが……、そこには純白のエプロンをぴしりと整えたメイドたちが、一列に並んで待ち構えています。
「あら?随分と汚れていらっしゃるのね」
メイド長が優雅に一礼すると、滴るほどミント液に浸された布を構えました。
「ひっ、来るな! 寄るなァ!」
「お静かに。……『お仕置』の時間ですよ」
侯爵邸の使用人全員が、レオンという小さな軍師を守りつつ作戦を全力で、かつ残酷に完遂させていました。
「…西の廊下、清掃完了です」
……徹底的に、完膚なきまでに叩き潰します。
天使の悪戯作戦会議 を始めた当初……、ヴィクトールの一言で周りは凍りつきました。
「――いいか。騎士団は一歩も屋敷の中へ入るな。配置は門と庭園、外周のみだ」
その言葉に騎士隊長は驚き、顔を赤くして反論します。
「侯爵閣下! それではレオン様の周りが手薄になります! 我ら騎士が一人でも側についていなくては――」
「お前たちが屋敷の中や近くにいては、敵が警戒し用心深くなる。だが派手に剣を振るう騎士が外にいれば、本命は中と踏んで死角から潜り込むだろう」
ヴィクトールは、レオンが描いた歪なマップを指差し説明しました。
門や庭で堂々と戦わせ、鎧の擦れる音や怒号で、敵に「正面突破は難しい」と思わせ、あえて裏道や死角(罠地帯)へ誘導し仕留める。
屋敷の構造を知り尽くした使用人たちは、暗闇でも音を立てずに動ける分、不気味さは増します。
侵入者にとって使用人は、置物と無意識に認識している分、攻撃されると思いません。
「……閣下。承知いたしました。……外は我ら騎士団が、一兵たりとも逃さず食い止めます」
騎士には外の守りを、使用人には内を任せるという合理的な判断を下し、騎士が罠にかからないようあえて隔離したのです。
そしてそれは、……今も完璧に機能、洗練されていきました。
つまり思惑通り賊は、罠の巣に入り殲滅しているのです。
初めはガストンも内心この状況を、苦々しい思いを抱えていました。
(騎士の剣こそが唯一の守り)
なのに三歳児が考えた罠が、ありとあらゆる賊に通用するなど信じられません。
しかし……、その疑念は闇の中から現れた「最初の一団」を目にし、驚愕へと変わりました。
「来たぞ! 迎撃せよ!!」
ガストンの号令と共に、正門付近で激しい白兵戦が始まります。
一流の密偵らの身のこなしは獣のように速く鋭い。
ガストンたちは必死に剣を振るい、敵の注意を自分たちに引きつけます。
閣下の狙い通り、騎士が派手に動けば動くほど、敵の「本隊」は屋敷の死角――西側の回廊へと吸い込まれていきました。
「……行ったか。……本当にこれでよかったのだろうか。……おい、裏門の様子はどうだ!」
ガストンが部下に叫ぶと、……「異様な静寂」と、鼻を突く?、いや、……痛くなる猛烈なミントの香りと激臭が漂ってきました。
「隊長! 見てください、西側の回廊の入り口を!」
部下が指差す先には、闇に紛れ屋敷に侵入しようとした三人の刺客が、石畳の上でクルクルと回っています。
「……なんだ? 奴らは踊っているのか?」
騎士たちの目には、シュールとしか言えない光景が広がります。
一流の(手強かった)彼らが、踏み出すたびに「ツルッ!」と足を滑らせ、受け身が取れず顔面を強打し、立ち上がろうとしてまた滑り、今度は「ズブシュッ!」という嫌な音と共に、庭の隅にある泥濘に吸い込まれていきました。
「あ、熱い! 目が、鼻が焼けるッ!!」
「助けてくれ、体が……体が固まって動かんッ!!」
暗闇の向こうから聞こえる賊の声は、パニックに陥った子供のようです。
その場所の、……すぐ上の小窓から小さな影が液体をこぼしています。
下にいる賊たちは叫び、許しを乞う声に、ガストンは戦慄しました。
自分たちが命懸けで剣を合わせる敵が、屋敷に一歩足を踏み入れた途端、戦う権利を奪れ「ただのゴミ」として処理されていくのです。
「隊長! 敵のリーダー格が、ブルーノ殿と接触しました!」
すぐその後に暗殺者の絶叫が聞こえ、ガストンもなんとなく理解しました。
ブルーノの動きには迷いがない。
レオン様を守る為ならば、あの御仁はなんでも出来るだろう。
滑る床、燃える空気、それらすべてを「熟知」し、レオン様の仕掛けたルールの中で、彼はさらに無敵の守護者と化すのだ。
「……、聞け!」
ガストンは震える手で、剣を握り直しました。
「我らの役目はただ一つ、屋敷に近寄るハエを一匹残らず叩き落とせ。……ただし決して中には入るな。あそこは……騎士が立ち入る戦場ではない。……わかったな!」
騎士団と使用人たちの連携により、賊らは知らずに罠の巣へと向かっていたのでした。
しかし、その日の敵リーダーの動きは違いました。
彼は部下を盾にして滑る床を突破し、最短距離でレオンのいる場所へと躍り出たのです。
「……どけ、老いぼれぇ!!」
「老いぼれ? ……ふん、貴様ごときには追えんよ」
庭師ブルーノが地を蹴った。
大型剪定バサミをカチリと鳴らし、ギミックの双剣が月光を裂く。
「ガキィィィィィン!!」
全盛期を超えた踏み込みが、リーダーのナイフを根元から叩き折り、その胸元に鋭い一閃を見舞う。
追い詰められたリーダーは、執念で煙幕を焚き賭けにでる。
「……あのガキさえ、あのガキさえ連れ去れば……!」
彼は煙に紛れ邸内の廊下へと逃げ込んだ。
その先にいるのは避難するニコと、マルコに抱えられた、ゴーグルを装着したレオン。
「……くそっ、追っ手が来た! ニコ、受け取れッ!」
マルコが別の方向からくる矢を、中華鍋で弾き飛ばし、レオンをニコに託した。
「……! 坊ちゃま、しっかり掴まって」
ニコは若い脚力を活かし縫うように走りだす。
レオンはニコに、必死にしがみついた。
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