美咲side②
美咲sideの続きです。
「初めてあった人にこんなことお話するのもどうかと思うんですけど、聞いてもらってもいいですか……?」
レナさんは上目遣いでそう聞いてきた。
「もちろんだよ!」
静奈ちゃんが元気に答えた。
初対面だからって困ってる人はほっとけない。
「できる限り力になるよ」
私たちで解決できるかは分からなかったので、取り敢えずそう答えることしか出来なかった。
「それじゃあえっと、どこから話したらいいかな……まず、私行商人なんです。それで、その……元々は帝国にいたんですけどきっかけがあって帝国以外でも商売をしてみようって思ったんです。それで、聖国に来る途中で寄った村で絶対に売れる!って思えるような物に出会ったんです。私はその村の村長さんと取引をして、それの作り方と作る権利を買い取ったんです。買い取ったんですけど……聖国に来る途中で盗賊に出会ってしまって……冒険者の方も護衛として雇ってはいたんですけど、盗賊の数が多くて、荷物を置いてでも逃げないと捕まってしまいそうになったんです。それで、盗賊から逃げるために荷物を置いて来てしまったっていう感じです……」
「「……」」
情報が多すぎて2人して無言になってしまった。
まず私たちとほとんど歳の変わらなさそうな女の子が行商人で、色々なところをまわって商売していると。
最初はあの帝国でやっていたけど聖国に来ることにした。
そして途中で売れそうなものを見つけたから手に入れたけど、盗賊に遭遇して取られた可能性が高いと。
荷物を引き換えに自分は助かったけど、行商人として必要なものを失ってしまったからここで困っていたって事かな。
……帝国にいた時から思っていたけど、この世界の人達って生きるのが大変そうじゃない?
私たちが地球でどれだけ安全に生活していたか、この世界に来て実感した。
「その多かった盗賊って大体何人くらい居たの?」
静奈ちゃんはまだ無言で考えているようだったので、私が質問した。
「あの時私が見たのが全てだと仮定すると、大体30人くらいですかね……でもその量の盗賊が生活するとなると、アジトみたいなのがどこかにあってそこにも何人かいると思います。」
「ねぇねぇ、美咲さん。これって私たちで盗賊たち倒せないかな?」
レナさんの返答を聞いて、今まで無言でいた静奈ちゃんがそう聞いてきた。
多くても100人まではいかないかな?
あんまり過小に考えすぎると今度は私たちが危ないだろうけど、100人規模の盗賊団がいて、それが今まで放置されてることもそうそうないだろうし……
「どうだろう……私達もそれなりに強いとは思うけど、なんせ人数が多いから。人数ってそれだけでも十分に脅威になり得るからね……」
それでもそれは私たちの異能だったりを差し引いた話。
この世界では基本的に異能ってモノは存在しないらしいし、【思想世界】も強力なものはないらしい。
それに比べて私たちは元々の高いステータスと、異能がある。
勝てないことは無いと思うけど……
「私、レナちゃんの事どうにかしてあげたい。頑張ってる人が報われないのっておかしいよ。」
「そう……だね。じゃあどうにかする方法を探してみよっか。まずは、その盗賊たちの居場所を知ることからかな」
静奈ちゃんは晴斗くんに似て、こういうところがある。
困ってる人はほっとけない。
頑張ってるのに報われないのはおかしい。
理不尽を嫌う。
そんな2人と一緒に居たせいだろうか?
私もこういった理不尽なことが許せないと思うようになった。
「え、あのっ……30人を超える盗賊たちですよ……?いくら強いと言っても危ないと思います!」
うーん……
まぁたしかに私も簡単に大丈夫!とは言えないから、一旦様子を見てからになるけど、ほんとに危ないと思ったら晴斗くんの助けも呼んだりとか考えるし……
「多分なんとかなると思うよ。別に楽観視してる訳じゃないよ?ちゃんと考えがあってそう言ってるんだよ」
「もし危なそうならおにぃ呼べば何とかなるし!」
やはり静奈ちゃんも同じ答えに行き着いた。
向こうの世界でもそうだったけど、晴斗くんはいつも私たちを助けてくれる。
それが申し訳ないと思いつつも、少し嬉しかったり……
「いざって時のこともちゃんと考えてるからさ。だから大丈夫よ」
私がレナさんの目を見てハッキリとそう言うと、レナさんも納得したのかそれとも説得が無理だと諦めたのか、覚悟を決めたような顔をして
「盗賊と遭遇した場所に行きましょう」
と、言ってきた。
てっきり私は場所だけ教えてくれるのだと思っていたのだけれど……
「レナさんも来るのは危ないんじゃない?」
「私の事で巻き込んでしまうのに私自身が行かないなんて許せないんです!危なくなったら見捨ててもらっても構いません!」
「そこまで言うのなら……その代わり私たちはレナさんのこと、見捨てないからね」
困ってる人を助けようと声をかけたのに、その人が危険にさらされて見捨てるなんてこと出来ない。
私がそう言うと、レナさんは苦笑いしながら「わかりました。」と言ってくれた。
一度買ったものを宿に置いてから行こうということになり、レナさんを連れて宿に戻ってきた。
私たちは部屋に戻って買った服などを置いて、受付で晴斗くんが帰ってきた時に伝言を伝えてもらえるようにお願いした。
内容は「人助けで外に出てる」ということを伝えて貰う。
準備できたので宿を出る。
そのままレナさんに先導されて盗賊に遭遇した場所に向かう。
△▽△▽△▽△
「ここら辺でしたね……」
街を出て数十分ほど歩いた先、街道を少し外れた森の中。
どうやらここで襲われたようだ。
「それじゃあここら辺からは要警戒だね」
静奈ちゃんはそう言って【思想世界】を発動する。
黒い円状の穴が現れ、静奈ちゃんがその中に手を入れると中から布状の何か。
いや、まぁわかってるんだけどさ。
見るのは初めてじゃないし……
それでも初めて見た時はびっくりしたよ、他の人たちが次々武器とか出してく中まさか静奈ちゃんは抱き枕が出てくるなんて思わなかったから。
デザインは薄ピンク色の生地に晴斗くんと思われるデフォルメされたキャラクターが描かれている。
静奈ちゃんに聞いたところ、地球で寝る時にいつも使っていた抱き枕らしい。
「あ、敵だ!」
すると、木々の間から現れた一体の狼を静奈ちゃんが、その抱き枕で殴りつけた。
それだけで、その狼は遠くへ吹き飛んでいった。
そうなのだ。
この抱き枕、こんな見た目をしているがちゃんとした武器なのだ。
斬撃は出来ないが、ハンマーやメイスと言った打撃武器と同じ効果を発揮する。
「えぇ……?」
その非常識な光景を見て、レナさんは見間違いかと目をこすっては静奈ちゃんのことを見ていた。
「いやぁ、今日も絶好調だよ!やっぱりこの抱き枕はひと味違うね!」
そりゃあ違うと思うよ?
普通の抱き枕は殴ったところで生き物が吹き飛ぶ威力とか出ないからね?
「ひとまず私も警戒しないと……」
私も【思想世界】を発動する。
静奈ちゃんと同じように黒い穴が生まれたので、その中に手を入れそれを掴み、穴から手を抜く。
それはこの世界ではあまりにも馴染みのない武器。
ハンドガン。
最初に【思想世界】を発動する時、ほかの人たちのを観察していた。
そしてこの異能の能力が薄らと分かった。
この能力は、自分に一番馴染みのあるものか、その時イメージしていたもの。
だからこそ静奈ちゃんは地球で一番馴染みのあった抱き枕が出てきたし、他の人で異世界=勇者=聖剣、みたいなイメージをして聖剣を呼び出している人もいた。
だからこそ私は晴斗くんの部屋で見たことのあって、かつイメージしやすいハンドガンをイメージした。
初召喚で呼び出したものはそれから先変わることはなく、他のものを呼び出すことも出来ない。
だからこうして最初に呼び出したのがハンドガンでよかったと安心した。
武器にならないものを呼び出すよりもこうしてハッキリと武器と分かるものを呼び出せたのは大きい。
「それは武器なんですか?」
「えっ?あ、あぁうん。」
そっか、この世界じゃ銃なんて始めて見るだろうからこれがなんなのかわかんないのか……
「それじゃあさっさと探そうか、盗賊。」
話を逸らす為にも盗賊を探し始めることにした。
この世界で銃はオーバーテクノロジー過ぎると思う。
魔法がある分、化学の発展が遅れているから銃なんてものは存在しないしこれが世に広まれば私自身が狙われるかもしれない。
あまり人に話さない方が賢明だと思う。
「あ、はい。」
そうして各自武器を持って(レナさんは商人だったので武器は特にない)盗賊を探してまわった。
随分と大人数で移動していたそうだから、足跡とかも残っているだろうと思って調べてみたら、直ぐにそれらしき足跡が見つかった。
大人数で同じ方向に移動している足跡。
それを見つけた瞬間私は2人に目配せして、足跡を辿る。
そして見つけたのがこの洞窟。
見張りは5人。
これはどうやって入ったらいいかな……?
今回は静奈と美咲の【思想世界】の紹介でした。
美咲は最初の時点で【思想世界】にどう言った特性があってどう言ったふうに使うのが最適なのかを調べていました。
それに対して静奈は何も考えずに普通に使ったので、いちばん記憶に残っていた晴斗抱き枕が武器として現れたわけです。
晴斗も同じで、一番記憶に残っていたのが剣道での竹刀で、異世界物=刀といったイメージを持っていたので刀が呼び出された訳です。
勝手な偏見ですけど、異世界物の主人公が使う武器って聖剣か刀か銃のどれかが多いと思いませんか?
あと1話くらいで閑話も終わります。
次次回から本編に入る予定なのでよろしくお願いします。
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