正しい魔法の使い方
訓練の最初、私の魔法訓練について聞き、試しに使わせた風魔法を見てミリア師匠は頭を抱えていた。
「よくもまあそんな無茶苦茶なやり方で魔法を使えるもんだね。しかも魔力量をそんなやり方で増やすなんて聞いたこともないよ。」
そう言うとミリア師匠は魔法について説明する。
「確かに簡単な魔法、火種を作ったり、コップ一杯の水を出したり、もしくは魔道具を使うなんて時には、確かにいちいち詠唱はしないもんさ。だけど、今ルークがやってみせたみたいな、風の球を作ってそれをそのままにするなんて魔法は、とても簡単に出来るものじゃない。」
一度話を区切ると、ミリア師匠の空気が真面目なものになる。
私がしたように手のひらを上に向け言葉を紡いだ。。
「我が魔力よ、今ここに風を集めよ。」
一拍置いて、師匠の手に空気が集まるのが分かった。師匠は風を散らすと続きを話した。
「まあ、私は出来るがね。とはいえ、今みたいに風を集めるだけならまだしも、それをそのままにするには魔力を使い続けなけりゃならない。そうなると、魔法の難易度ってのは一気に難しくなるんだ。間違ってもルークみたいな魔法の初心者が、無詠唱で涼しい顔してやっていいことじゃないんだよ。」
「では師匠、他の方はどうしているのでしょう?」
「普通は、魔法の効果は一瞬だと割り切る。例えば火が欲しい時は、薪なんかを用意した後、火の魔法を使ってすぐに火をつける。薪が燃えればもう魔力は必要ないからね。もしくは、魔道具なんかを使うこともある。例えば、始めから魔力を込めた道具を用意すれば、魔力消費についてはなんとかなるし、ものによってはイメージの補助をしてくれるから、未熟な魔法使いでも高度な魔法が使えちまうね。」
しかし師匠はあまり高性能な魔道具に頼るのには否定的らしい。
「魔道具に頼ることが当たり前になると、自分の魔法の技術が落ちちまうんだよ。そのせいで、元々簡単に使えていた魔法まで使えなくなっちまうこともある。ルークも私の元で学ぶ間は、まずは自分を鍛えることに集中しな。」
「はい、師匠。」
それと、私が風の球を比較的簡単に集め維持できる理由は、師匠と私の予想では、前世の知識によるところが大きいということになった。
つまり空気の存在や風が動く理屈を知っている事で、イメージが鮮明になり呪文がなくても発動したというわけだ。
「ただ、あんたの言った魔力の鍛え方だけど…」
私は魔力に関しては、1年ほどかけて無理矢理上げたわけだが、ミリア師匠からは以後気を失うまで魔法を使うことは禁止された。
当たり前だが、3歳児が魔法の訓練をするなんて事は前代未聞で、どんな影響が出るか分からない。
「そもそも魔力ってのは生まれつきの才能次第ってのが常識で、たまーに増えたなんて話もあるけど、こんなのは長年修行を続けたベテランの魔法使いがジジイになったあと、若い頃より増えたかも、とか感じる程度のことなんだよ。そもそも魔力とはなんなのかってのはまだまだ分かってなくて、魔法使いによっては生命力そのものだ、と言っている。私も多少は賛成するね。少なくとも魔力は生き物の体を流れる何かだ。無闇矢鱈に垂れ流していいもんじゃないんだよ。」
そう聞くと、自分がいかに異常なことをしたかが分かる。
同時に、どれだけ危険だったかも理解する。前例がないという事は、それだけ慎重にならなければいけないという事だ。
もしくは成長期のように、魔力が増える期間が決まっているのかもしれないが、師匠が言うには十分どころか異常なほどの魔力が既にあるようだし、無茶をする場面ではないだろう。
「これからは、こういう鍛錬をしな。これなら、実績もあるし安全だからね。」
まず目を閉じ、自分の魔力の流れに意識を向ける。
これは今までやっていたことだが、さらにその魔力を体全体を巡る河のように動かしていく。
これを魔力を練るというらしい。
魔力を練ることで、魔力の質が上がり、結果的に少しの魔力でもより複雑な魔法が使えるようになる。
また、発動も素早くなるそうだ。
「しばらくはこれを繰り返しなさい。魔法の使い方はもう少し後にしよう。」
その後、私は師匠の言いつけ通り、時間があれば魔力を練るようになった。
以前のような劇的な変化はなかったが、それでも自分の中の魔力の流れが太く強いものになるのが分かる。
なにより、師匠のお墨付きというのは安心できる。
やはり、先達はあらまほしき事なり、だ。
というか、
「あんたって弟子は…」
師匠が言うにはこれでも異常なのだそうだ。
普通はこれだけでは変化は分からず、魔法を使うようになって初めて実感出来るらしい。
これについて私なりの仮説としては、血管の流れを知っていることが、イメージの強化につながったのではないだろうか。
結局あまり経たずに基本の魔法を教わることになった。
火を起こす魔法、水球をつくる魔法、風をつくる魔法、土を隆起させ壁をつくる魔法エトセトラエトセトラ。
まさに本の中の理想の魔法使いだ。
年甲斐もなく、と言うよりはむしろ身体年齢相応なのだが、私は目を輝かせミリア師匠の真似をした。
相変わらず火は怖かったので、試しに手を土の上に置き魔力を送りながら先程の師匠の魔法を思い浮かべる。
すると、大地が自分の体の延長になった感覚とともに、目の前に1メートル程度の土の壁が出来た。
「師匠、出来ましたよ!」
喜んで声をかけると、師匠はまたしても頭を抱えている。
「確かに見本を見せるとは言ったけどさ。まさかすぐ真似されるとはね。全く非常識にもほどがあるだろうよ。そもそも呪文を教えてないじゃないか」
確かに、普通は呪文が必要と教わったばかりだ。
おそらく師匠の実演のおかげではっきりイメージできたおかげだろう。
しかし、師匠も呪文は唱えていなかったはずだ。
それについて聞くと、
「熟練の魔法使いは簡単な魔法なら呪文は使わないもんさ。大人が歩くときにいちいち考えないようなもんだよ。つまり無詠唱はそれだけ魔法の道を歩んできた証拠と言える。今回も、自慢するつもりだったんだがね。」
そう言ってこちらをジト目で見る。
私のはまあ、特殊すぎるケースだからカウントしないでください。
というか自慢したかったらしい。
ジト目と相まって師匠も案外子どもっぽいところがある事が分かった。
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