3-11 ヴェルケス市 その1
目の前に大きな街が広がっている。
丘から望む風景。俺はその街を見渡していた。
砦のような堅牢な建物を中心に、建物が広がる。仕切りのように壁があるが、城壁だろうか。壁の外側にも建物が並び、その街の大きさを表していた。東側には大きな森があり、その先にはゴズロ山も微かに見える。
集中を使い街を眺める。大通りは広く、沢山の人で賑わっている。露天販売をしているのか、様々な色の店套が面白い。行列ができている店もあるようだ。
ケルト領交易都市、ヴェルケス市。
ベルケスはなまりだった。本来はヴェルケスと言う。それを知ったのは、通りの簡易関所にいた兵士からだった。関所には行列があったが、すぐに順番がきた。
「ようこそ、交易都市ヴェルケスへ。入市の目的はなんだい?」
気楽に話すその兵士は、笑顔で俺達を迎えてくれた。兵士は4人。皆、長槍に皮鎧の軽装だった。
「私達は旅の一行です。滞在許可をお願いします。」
俺も敬意を払いながら、兵士に笑顔で話す。テラスも同様だ。ビビは一応外套のフードを被り、耳を隠す。北部の村では、狼人に対する危機感はなかったが、無用な混乱は避けるべきだ。まぁ、大丈夫だとは思うけどね。
「旅人とは珍しい。ここは初めてかい?」
「はい、北の、クコ村の方から来ました。」
「聞いた事無い村だな。まぁ、良いよ。紙に皆の名前を書いてくれ。」
文字か・・・、ヤバイな。
俺はここに来るまでは、文字を見た事がない。
「すみません、文字は知らないのです。」
正直に話す。文字を知らない人がいるのだ。もしかしたら、大丈夫かもしれない。
「そうか、なら代筆しようか。名前を言ってくれよ。」
助かった。馴れている所を見ると、文字が書けないのは結構いるようだ。
「はい、私はソーイチ。彼女達はテラス、ビビです。」
「ソーイチ、テラス、ビビ。良いよ。では、これを持つように。」
木割だろうか?なんだろう?
「これは入市許可を与えた印だ。落とさないように。出市の時に返してくれよ。返さない場合は、違反金が発生するからな。もちろん犯罪もだぞ。」
「はい、わかりました。あと、入市税は無いのですか?」
「ここでは無いよ。中央区に入る時は必要だが、貴族様や上級市民しか入れないから、君達には関係無いな。」
「ありがとうございます。」
やるな!ヴェルケス市!一般からではなく、金持ちから税を取るか。
「あと、彼女の槍には封印を施すから。破らないようにしてくれよ。」
ビビの槍先に紙を貼る。
「わからない事があれば、奥にある黄色い看板の案内所を利用してくれよ。よい旅を。」
俺は一礼して、ヴェルケスに入る。
並び立つ立派な建物の多さ。木とレンガと石を使っているだろう。また、人の多さ。今までの比にならない位の行き交いがある。一気に都会に来た気分だ。丘の上にある砦の方はもっと立派だから、ここも大した事ではないのだろうが、俺には十分都会に見える。
さて、案内所に向かいますか。
俺達は案内所に向かう事にした。
★
ヴェルケスでの行動は、事前に決めてある。
1、行動は集団で。テラスは必ず単独行動はしない。俺かビビの側にいる事。
勿論、誘拐等の犯罪対策だ。過保護と笑ってもいいが、人口と犯罪指数は比例する。危険がないとはいえない。ビビは自衛が出来る。テラスには無理だ。二人共見た目が美人だから、魔男が来てもおかしくない。漢字違う?いいんだよ、そんな奴は魔で。
2、情報収集と今後の準備を整える。
常識や道具の収得。お金も稼ぐ為の拠点も必要だ。まぁ、拠点は外でも良いが、一々の移動は面倒だ。ビビのメンタルケアの為に、東の森には行く事にはなるが、その時はチートを使おう。
多分長く滞在する事になる。得たい知識は膨大だ。また、お金も殆んど無い。安定した生活の為にも、基盤は作りたい。
今日は皆で市の観光をする。情報収集の為。宿や食事が何とかなるのが救いだ。
黄色い看板の建物に入る。中は広く人も多い。カウンターがあり、その奥にいる数名の女性達が、にこやかに来客者の対応をしている。
俺達も並び、順番を待つ。
横入りする者もいたが、気にしない。こちらは時間はある。ゆっくりで良い。
順番が来たので、対応をしてもらう。
「対応します、ヒューリと申します。どの様なご用件ですか?」
にこやかに対応する女性。胸元が開いた服を着ているため、とてもセクシーだ。
「初めて利用するのですが、料金は発生しますか?」
恥ずかしい。初めてよりも、お金が無いと言うのがだ。
「ヴェルケス市も初めてですか?」
「はい、今日初めて入りました。」
「ようこそ、ヴェルケス市へ。では、簡単に説明しますね。」
そう言って、彼女は笑顔で市の説明をしてくれた。
渡されたのは、市のパンフレットだった。パンフレットって・・・。紙もそうだけどさ。ここでようやく文字を見たが、普通に読める。見た事ない字がスラスラ読める。何故?まぁ、いいや。読めるから。
ヴェルケス市はケルト侯爵が納める市で、5つの地区に別れている。東西南北と中央区だ。中央区に貴族や上級市民が生活し、その回りに市民や従者、一般と住んでいる。交易都市とあって、街同士の貿易が主な収入源という。
人属が多いが、獣人も住んでいるらしい。ビビの耳を見ても、あまり警戒しなかった。安心材料だ。
案内所は情報屋でもあり、紹介所のような所だった。問題解決の人材を紹介する場所のようだ。利用は無料なので、多くの来客があるという。ヴェルケス市の施設だからだろう。大体は年配の相手や軟派が多く、俺達のような旅人を対応は中々ないという。
ついでに、金銭についても聞いてみた。
銭貨、鉄貨、銅貨、銀貨、金貨とあり、銭貨10枚で鉄貨1枚、鉄貨10枚で銅貨1枚、銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚だという。金貨は価値が高いので、市民や一般には縁が遠いようだ。
歴史も古く、過去の大戦の跡地だとか。細かい事は今度で聞こう。
本題にいこうかな。
商工会、商工ギルドはあるか聞いてみた。
「はい、ございます。利用目的を聞いてもよろしいですか?」
あるんだ。ならば、
「はい、商品を売る為に売買許可証が必要ではないかと思いまして。一般が勝手するまえに、無用な混乱は避けるべきだとおもいますので、一度は挨拶をしようと思います。」
「そうですか。・・・でしたらこれをお持ちください。」
渡されたのは、街の地図と、紹介状だった。地図は東西南北のギルドの場所が記されている。中央区は何も書かれていない。秘匿なのだろう。
「北区にあります商工ギルドに向かわれてみてはいかがでしょうか?着きましたら中の受付に紹介状を渡して下さい。対応していただけると思います。」
「ありがとうございます。助かります。」
スゲェなヴェルケス市!前の世界より親切だぞ!
「ですが、あくまで紹介だけですので、許可証の方はご自身でお願いします。」
「はい、わかりました。何から何までありがとうございます。」
十分だ。商工ギルドの橋渡しまでしてくれるとは思っていなかった。
「また相談にきてもよろしいですか?」
「はい、時間内でしたら何時でもお越しください。」
「ありがとうございました。ヒューリさん。」
俺は案内所を出る。
次は商工ギルドだけど、寄り道しようかな。
「折角だから露店を見ようか?」
「うん、良いよ。」
「はい、わかりました。」
俺達は大通りの露店市に向かう事にした。




