3-12 ヴェルケス市 その2
ヴェルケス市の露店市に来た。
人混み溢れて、とはこの事という位に賑わっている。売り子の声に客の値切り等、雑多な喧騒が辺りを盛り上げている。服装は軽装で、男性は半袖シャツとハーフパンツ、女性は半袖シャツにミニスカートだ。布面積が少ないのは、やはり布は高級品だからかもしれない。ノーブラがけしからん。高齢者はロングパンツとロングスカートだった。
だが、今までで違うのは、色だ。多種様々な色の服装で、模様もある。これだけでも文化レベルが、今までより高い証明だろう。染付け技術が良くわかる。
さて、人混み掻き分け、露店の商品を見る。
金銭の価値と、物品の平均価値をを知る為だ。その為に、全体的に店を回る。
食品が安いか?銭貨や鉄貨で買えるのが殆んどだった。見た事のない野菜や果物を食べてみたかったが、今回は我慢した。所持金が少ない。合計銀貨1枚ほどだ。無駄遣いは駄目だろう。
露店市はかなり大きい。3分の1位巡っただけでかなりの距離を歩いた。左に掛かる軽い重み、
「ソーイチ、気持ち悪い・・・。」
テラスの顔色が悪い。人に酔ったか?
「大丈夫か?少し休憩しようか?」
「うん、ごめんなさい。」
露店市を外れる為、テラスを背負い俺達は休憩場所を探す。広場があったので、そこで休む事にした。
広場にも人は沢山いるが、露店市に比べれば人口の密度が低い。丁度良い日陰があったので、テラスを座らせ休ませる。
「何か飲み物買ってこようか?」
「ううん、大丈夫。休めば、平気。」
俺に寄り添い休む。ビビも心配そうに見ている。尻尾は見えないがわかる。
しばらく休む間に、俺は今日の行動を考える。
テラスの体調回復を最優先にして、今日は上がるか?別行動もあるが、今日は皆でいた方が良いだろう。人混みに慣れていないビビにも負担をかける。宿?もしくは、暗くなるまで待って、チートを使って市の外に出て小屋を出すか?日もまだ高いし、ギルドで休むとか?どうしよう・・・。
「大丈夫だよ、ソーイチ。すぐに良くなるから。」
「テラスが言うならこのまま休むけど、無理はするなよ。」
「うん、わかった。ちょっとだけ休むね・・・」
俺の腿に頭を乗せ、そのまま眠ってしまった。ビビは外套を脱ごうとしたが、それは止めた。テラスに掛けるためだが、暑さは逆効果だ。また、ビビの格好も目立つ。今はなるべく静かにしたい。
テラスの横にビビも座り込み、心配そうに見つめる。
俺はテラスの頭を軽く撫でながら、体調回復を待つ事にした。
★
2刻ほどだろうか、テラスが目を覚ました。
「うん、もう大丈夫。」
起き上がり、左腕にもたれ掛かる。顔色は良くなったので安心した。笑顔も普段と変わらない。
「もう少し休むか?」
「大丈夫だけど、お腹空いた。」
「そっか。じゃあ何か食べようか?」
「うん!」
確かに、昼は過ぎている。露店の軽食を買いに行こう。
「買いに行こうか?」
「でしたら私が行きます。」
「ううん、皆で行こう。」
テラスには敵わない。また皆で露店市に向かう事にした。
テラスにはカットフルーツ、ビビには串肉を、俺はピザのような物を食べた。フルーツはリンゴらしき物を選んだが、味はそのままリンゴだった。果汁が溢れてくるのには驚いた。串肉は量を増やすため、安いのにした。緑山羊の肉で、普通に美味しかった。ピザはピザだった。ピッヅァと呼び、トマトソースに野菜がちりばめてある。旨い、そして多い。そしてそれ以上に安いと思った。全部合わせて銅貨1枚ほどだ。値切りも考えたが、言い値で買ったら店員が沢山サービスしてくれた。良い人ばかりで本当に助かる。ビビも満足してくれている。
さぁ、腹も満たしたし、露店市散策を再開しよう。今度は、商工ギルドに向かいながら見てまわる。雑貨が主体の区域のようだ。日用品、生活雑貨、装飾品が並んでいる。
テンション上がる!
同じ分野の職人仕事が見れるのは楽しみでしょうがない。工場仕事の大量生産とかあったら、それはそれで興味はある。
見て回る。店員と会話を楽しみながら、商品を品定めをする。
正直に言えば、素人仕事が多い。仕上げが雑だ。中にはしっかりとした仕事もあるが、値段も高い。技術に合わせた値段になっているのは、何処も同じだ。そして装飾のセンスは完全に俺の敗けだ。質素なデザインから、派手派手まで多種多様だった。
面白い。
見るだけでも勉強になる。優れている部分は吸収しないと勿体ない。折角なので、頭に叩き込む。
「見ない顔だね。うちの商品を見ていかないかい?」
年配の女性が声をかける。
白髪混じるロングヘアを三つ編みし、洒落たシャツと膝丈のタイトスカートがよく似合う。
「はい、お邪魔しますね。」
誘われるまま、露店の商品を見る。
「うちは質は高いし、値も良いよ。しっかり見ておくれ。」
確かに。周りの店に比べたら質が高い。その分、値も少し高めだ。だが、長くみればお得かもしれない。雑貨も多種多様で、木工品や銀細工、服飾等も取り揃えている。
この店の仕入れはレベルが高そうだ。お客も絶え間なく訪れる。値段交渉も一品安くするより、多く捌くようにしているようだ。
俺は櫛を手に取り、品定めをする。
「良いだろう、それ。うちの自慢の一品さ。」
「そうですね。」
笑顔で答える。
技術で言えば、俺の方が遥かに高い。だが、装飾が良い。女性が喜びそうだ。デザインセンスが無い俺には勉強になる。
「おいくらですか?」
「それは少し高めだよ。銅貨3枚。」
高い!まぁ、買わないが。実際に俺の造ったのがあるし。
「私には、手が届かないですね。ですが、装飾の勉強になりました。」
「ん、変な事を言うね。勉強かい?」
目が光る年配女性。
「はい、私も材木や金属の加工技師をしておりまして。」
「加工技師!そうなのかい!じゃあさ、おたくの仕事をみたいんだが、何かあるかい?」
「はい、待ってください。」
俺はポケットに手を入れながら、無限保管から櫛を出す。これは通常版の櫛だ。北部の村に配ったものと同じ半月櫛を出す。
「これです。」
「はいよ。ん?ほう?・・・・・・・。」
年配女性が無言で櫛を品定めをする。眼鏡も取り出した。なんか緊張するな。
「栗杉を使っているね。締まった木材に繊細な仕事だ。見た目よりも実用とすれば、これなら装飾は不要だね。形も良い。」
褒められているよね。
「あんた!良い仕事するね!」
「あ、ありがとうございます。」
なんか嬉しい。
「良い物を見せてもらったよ。それで、この仕事はどうするんだい?」
櫛を持ちながら俺に問う。
「はい、商工ギルドから販売許可証を頂いたら、露店で販売しようと思います。」
「ほう?いくらでだい?」
「銅貨5枚位でしょうか?」
価値がよくわからないが、まぁこんなもんだろ。
「あんた、今までで商売の経験は?」
睨む年配女性。
「いえ、ありませんが。」
「そうかい。」
溜め息をつく年配女性。
少し間をおき、俺に激しく語る。
「あんたには許可証は渡せないね!この仕事に、そんな値段つけられたら、他の店が死んでしまうよ!」
怒られた。つか、何で許可証の発行不可を言ってるんだ?
「あんたの仕事は、櫛1つ銀貨1枚だよ。仕入値だ。売値なら3枚でも良い!」
はぁ、そうですか。銀貨1枚か。普通の櫛が仕入値銅貨1枚だとすると、10倍の価値か。
確かに、俺はこの世界の価値観に疎い。
「これをたった銅貨5枚で売り出したら、他の客がそちらに全部流れてしまう。技術もそうだ。他の店が駄物扱いされてしまうよ。安売りするのは構わないが、他の店も考えるのが、この街のルールさ!」
あ、はい・・・・・・。
「あんたの技術は一流だが、商売は駄目だ!もしこの街で商売をしたかったら、ちゃんとした価値観を持つ奴を連れてきな!そしたら許可証をくれてやるよ!」
迫力に気圧され、言葉を失った。まぁ、うん。落ち着こう。
「許可証ですけど、お姉さんはいったい?」
「はっ!お姉さん何て言うとはね、女性の扱いはわかっているじゃないか。」
あ、満更でもないな。笑顔だ。
「私は一応、北の商工ギルドのマスターだよ。」
あぁ、やっぱり、だと思った。
「ん?その顔は信じてないね?」
「いえ、お姉さんの話で何となく気付いてました。」
「それにしちゃ、反応が悪いね。大体の奴は腰を抜かすか、嘘つき呼ばわりするんだがね。」
笑顔で俺を問い詰める。
まぁ、販売許可証はそこまで固執してないからかな?単なる資金集めの手段だし。
「ソーイチ!いたぁ!」
「ソーイチ様・・・。」
あ!テラス達を忘れてた。
「もぅ、一人で何処かに行くんだもん!今日は一緒にいるんでしょ!」
ポカポカギュッ!
また怒られた。
「アーノ様!また此処ですか!マリアさんが呼んでますよ!」
一人の女性が年配女性に話しかける。
「はいはい、わかったよ。戻るから、喚かないでおくれ。」
腰を上げる、アーノさん。その顔は渋顔で、楽しい時間の終了を思わせた。
「あぁ、あんた達は時間あるかい?折角だからあんた達も来ればいい。許可証は駄目だが、仕事が無駄になるのは勿体ない。ギルドで少し話をしないか?」
女性のお誘いを断るのは気が引ける。じゃなくて、どうせギルドに行くのだし、お誘いを受けよう。
「はい、構いませんよ。二人とも良いよね?」
「うん、良いよ。」
「はい、わかりました。」
二人の同意もとったし、アーノさんとお付きの女性について行く事にした。




