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47 ミコトの覚醒

健の再転生と説明が重複する部分があります。

 転生した魔術師は禍々しい黒霧神社の神主の子、しかも双子として生を受けていた。

 黒野家に誕生した双子は1つの魂に支配されていた。

 男の子は黒野 マコト。

 女の子は黒野 ミコト。

 善と悪、愛と憎、光と影。

 マコトは前者、ミコトは後者へと徐々に魔術師は引き裂かれた。

 しかし、それは微妙に違っていた。

 そもそも2人に1つの魂だと思っていたのは、ミコトの中で別の魂が眠っていたからだった。



 大きな瞳を包み隠すような長い睫。

 すっと通った鼻筋。

 小さな口は薄い唇が縁取っていた。

 色白の肌にピンクの頬っぺた。

 一卵性双生児の二人は同じ美しい瓜実顔をしていた。


 違うのは身体の性別と髪型くらいのものだ。



 男女の双子だったが、男の方が何かと動きやすかったのだろう。

 魔術師が時々マコトだけを動かす間、ミコトは人形のようにじっと座っているだけだった。


 父親の羽士男は、ミコトが可愛くて仕方が無かった。

 魂の抜けた人形のようなミコトを本当に人形のように可愛がった。


 マコトが側に居ると、二人は1つになった如く一緒に行動するのだが、羽士男はそれが段々邪魔に思うくらいミコトだけに執着したのだった。


 10歳の時、マコトを休ませ、ミコトの身体で出掛けた魔術師のおかげで、ミコトも赤星の存在を知った。

 それまでミコトの中で静かに眠っていた魂が目覚めた。


 ミコトは、時々父親から霊能術を教わっていた。

 人形のようなミコトに、黒霧神社の成り立ちや、地縛霊の扱い方や、術を話して聞かせてきたのだ。

 そうして羽士男が知らず知らずのうちにミコトに霊力を授けていたのだった。


 地縛霊の扱い方を父親から教わったミコトは黒霧神社に渦巻く地縛霊を千切っては投げるという遊びを楽しむ暗い娘になっていた。


 やがて小さな術を使い、ミコトはマコトの心の闇を奪っていった。

 双子は成長するにつれ、元は一人だった魂が二分されていくのを魔術師は気付かぬうちに受け入れていったのだった。


 そうするうちに母親がミコトの中の闇に気付いた。

 母親は早くから二人の異常性を感じ取っていたが、父親は気付かなかった。


 母親である黒野蝶子は双子を産んでから霊感のようなものが強くなっていたようで、特に、娘、ミコトの心の闇にいち早く気付いたのだった。


「あなた、私はミコトが恐ろしいのです。どうかこれ以上術を教えるのはやめてください」

 蝶子は羽士男に進言した。


「何を言う。ミコトは才能がある子だ。うちの後継者に相応しい」

 ミコトが可愛い羽士男は、蝶子の言い分を退けた。


 ミコトは自分の心の闇に気付いた上、マコトとは別の魂が目覚めたことを逸早く悟った母親を快く思わなかった。


 マコトが学校へ行っている間、ミコトは行かず、父親にベッタリだった。


 引き籠りを演じながら、父親から霊能術を思う存分教わっていたのだ。

 やがてミコトは術のほとんどをマスターした。


「キャーッ!」


「どうしたミコト。…蝶子!?」

 ミコトの叫び声に部屋を訪れた羽士男(はしお)が見たのは、首から血を流して倒れている蝶子(ちょうこ)と、その側で、包丁を握ったミコトの姿だった。


「お、お父様、どうしよう…」


 羽士男はミコトの手から包丁を奪い取り、

「大丈夫。父さんに任せなさい」

と、ミコトを抱きしめて言った。

 ミコトは12歳になっていた。


 羽士男は蝶子の遺体と凶器の包丁を一緒に山奥に埋めた。

 そして近所の医者を懐柔し、自殺として届け出たのだった。


 学校から帰ったマコトは家の中で母親を探した。

「ミコト、お母さんは?」


「知らない」


「お父さん、お母さんは?」

「マコト、お母さんは死んだんだ」


「えっ?」

 マコトは今朝まで元気だった母親がいきなり死んだと言われても信じられなかった。


「おじいさまは、お母さんがどこへ行ったかご存知ですか?」

 マコトは痴呆症の祖父、稔成(としなり)にも尋ねた。


 仕方なく、ミコトに頼まれた通りに羽士男が言った。

「お母さんは、庭の桜の樹の下に埋まっているんだ」

「そうだ。埋まってる」

 稔成も羽士男に合わせて言った。


「ミコト、母さんは埋められてるって言うんだ…」

「誰が言ったの?」


「お父さんとおじいちゃん」

「じゃあ、そうなんじゃないの?」


「桜の樹の下だって…」

「木を燃やして除けてみたらわかるんじゃない?」

 ミコトは心の中で笑いながら、マコトには心配そうな顔を向けた。


 祖父までが嘘を()くとは思えなかったマコトは彼らの言葉を信じ、迷わず桜の樹を()けようと火をつけたのだった。

 しかし、桜海たちが火を消してしまい樹を除けることはできなかった。

 しかも、ミコトの存在を友達と置き換えて桜海たちに話したことで、その時点での家族構成が誤魔化されるきっかけになってしまった。


 ミコトはその成り行きを見て自分の思惑が失敗したことがわかり、すごすごと家に帰ってきたマコトをナイフで刺した。


「ミ、ミコト…?」

「役立たず」


 マコトは、ミコトが禍々しい地縛霊と共鳴していることに気付いた。

「あ、あれにだけは、なりたくない…」


「あんたの魔力を頂戴」


「わか…った」

 マコトは僅かに残っていた魔力を彼女に渡した。


 ミコトはマコトにとどめを刺した。

 そして、衣服を乱し、半裸になって叫んだ。


「いやーっ!!」


 社にいた父親が駆け付けると、

「わ、私、マコト、マコトが…」

と震えながら言った。


 羽士男は父親としてではなく男としてミコトを見ていた。

 いつも側に居たミコトは羽士男の欲を見抜いていた。


 ミコトは妖麗な顔と、美しい無垢な身体を魅せた。

 羽士男は我を忘れて血みどろのミコトを抱いた。


「お父様、私、警察に行くの?」

「行かなくていい。父さんに任せなさい」


「お父様!」

「ミコト」



 羽士男は朝にまでにマコトの遺体を始末した。


 桜の火事の翌日、つまりマコトの遺体を始末した直後というタイミングに、桜海がやってきて羽士男(はしお)は驚いた。


 桜海は中学生くらいの男の子を探していると告げた。

 マコトが大人びて見えたので、中学生くらいと桜海たちは思ったのだが、彼の美しい魂の輝きがそう見せたのかもしれなかった。


 よくよく考えれば、小6と中1だと、そう大差はないのだが、中学生と思い違いをしているところに小学生と聞いても、ピンとこないのはやむを得ない。

 それに男の子ではなく女の子と聞けば尚更だった。

 桜海が神社を訪ねたときに居ると言われた小学6年の娘こそがミコトだ。


 だがその時既に羽士男の元には、こよなく愛する小学6年生の娘、ミコトしか居なかったのだ。


 ()しくも羽士男が本当の事を言ったので、桜海は隠された事実を知ることはできなかった。


 母親の霊に付けた(しるし)も、羽士男の手によって浮遊霊に付け替えられ操られた。

 危険を感じた桜海は黒霧神社から手を引いたのだった。


 マコトを殺しただけでは怒りが収まらないミコトは、地縛霊をたくさん千切っては投げて八つ当たりをした。


 おかげで多大な影響を受けてしまった赤星の就活は大失敗に終わった。


 当然だがミコトは赤星の隠された魔力に目を付けていた。

 それを手に入れるべく父親に手伝わさせて、踏切に念入りに罠を仕掛け赤星を殺そうとした。

 ミコトは赤星が死んで手放す魂を捕まえ、魔力ごと地縛霊に取り込もうとワクワクしていたが、桜海の手によって赤星が護られ失敗に終わったのだった。


 その後ミコトは社に引き籠るようになった。


 父親はミコトを殺人者として突き出すことはできなかった。

 それはミコトの術によってマインドコントロールされていただけでなく、ミコトの身体に夢中になり色欲に溺れていたからに他ならない。


 マコトの死も自殺として届けた。

 母親が自殺した翌日扱いで懐柔した医師に死亡診断書を書かせた。


 社会的な関わりとしては、母親が保険契約をしていたが、免責期間以降の自殺で、保険金が支払われた。

 マコトは契約が新しかったため保険金は支払われなかった。

 マコトにも保険金が下りていたら、この時点で調査対象になっていたに違いない。



 羽士男の力を借りても、霊能力が高い桜海に(ことごと)く術を破られたミコトは、自分の技を磨くと同時にパワーアップを図ることにした。

 彼女は地縛霊を増長させることで自らの力を成長させようと考えた。


 負の気を寄せ、地縛霊を増殖させたり呼び寄せたりする行為は、周囲に大きく影響を与えていた。


 隣の家の主は病に伏しているときに、家政婦に見殺しにされ、家を乗っ取られた。

 その家の人間に成りすました老女は、敷地に入ってくる猫を毒殺していた。

 そうすることで、黒霧神社の闇の増幅を手伝っていたようだ。


 だが、ネコの中にはそうした地縛霊に取り込まれたくない霊がいた。

 そのものたちは、桜海の元を訪ね、助けを求めた。


 元々の家の主が、地縛霊に取り込まれたくなかったのだろう。

 猫たちの力を借りて、老女を罰した。


 後日、霊となった悪しき老女と桜海が闘ったのは、赤星と暮らすようになって間がない頃だった。


 ミコトは広範囲から負の霊気を黒霧神社に寄せ集めてきた。

 その中には、嘗て前世において結ばれていた夫の霊を探している女性の霊が混じっていた。

 だが彼女は黒霧神社の地縛霊の中に取り込まれなかった。

 そして庭の片隅に鏡としてポツンと姿を現したのだった。


 殺されたマコトは母親の霊を探して彷徨っていた。


 後日黒霧神社で見つけたその鏡に蛙の霊を増殖させた。


 マコトは蛙が好きだった母親のために、単純に蛙の霊を増やしたかったに過ぎなかったのだが、ミコトが、鏡の前に置かれたコピー原本である蛙の霊に地縛霊をくっつけ赤星をターゲットにしたせいで、桜海たちにとってはただの遊びでは済まなくなったのだった。


 そんな折マコトの祈りが通じ母親の霊と巡り会うと、彼女と共に彼はどこかへ消えてしまった。

 転生してきた魔術師は何世紀にもわたる野望と心の闇をミコトの中に残して逝ってしまったのだった。


 つまりあの日、雨の中で桜海がすれ違った親子は、二人とも死霊だったのだ。



 桜海が連れて帰った鏡は、偶然家の物置にあった鏡と対の代物で、王女の魔力によって転生を止められていた二人はゆっくりと転生へと入っていった。

 黒霧神社に寄せ集められても彼女の霊が地縛霊に取り込まれなかったのは、王女の魔力のおかげなのだった。


 桜海も赤星も対の鏡が、前世で生贄として自分たちと一緒に埋葬された夫婦のなれの果ての姿だったとは当然知る由もなかった。



 ミコトは、桜海の能力を超えることと、思った以上に強い力が秘められている赤星を殺して取り込むために、自分の霊能術を磨いた。


 羽士男はミコトの望むものは何でも与えてやった。

 特に地縛霊を自分の意のままに操る術については、徹底的に学びたがったミコトに惜しげなく教えていった。


 ミコトは自分の身の回りの世話を稔成にさせていた。

 彼もまた、彼女の言いなりだった。

 しかし、稔成には笑顔の見返りで良かったが、羽士男はミコトの身体を求め続けた。


 ミコトにとって羽士男は霊能力のレベル基準または目標値としての存在だった。

 桜海を倒し自分の野望を果たすには、技を磨き羽士男を超えなければならないと考えていた。


 自分に厳しい修行を重ねてきたミコトは、やがて羽士男の持つ霊能術を全て教わり磨きをかけ、彼の能力を超えられるようになってきた。


 そこでミコトは、地縛霊を使って人を殺す練習台に羽士男を選んだ。


 赤星を手に入れるには、それを阻む霊能者である桜海を倒さなければならない。

 羽士男も霊能者の端くれであることから、恰好の練習台だとミコトは考えた。


「お父様。もう一度悪霊を取り憑かせる呪文を教えてください」

 自分の頼みを断ることの無い羽士男に、いかに彼の術を封じ、地縛霊に取り込むかを頭の中でシュミレーションしながら、ミコトは術の復習を父親に手伝わせた。


 羽士男は自分が殺されるなどと夢にも思わず、悦んでミコトに協力した。


 そして夜になると当然のようにミコトの閨を訪れた。


「ミコト、入るよ」

 羽士男はミコトの部屋の襖を開けた。


 ミコトは赤い肌襦袢を着た上に十二単をはおり、部屋の中に座っていた。

 黒く長い髪と豪華な着物は、妖艶なミコトを更に美しく魅せていた。


「お父様…」

 ミコトは羽織っていただけの十二単から抜け出し、羽士男の胸に抱き付いた。


「ミコト!」

 ミコトを強く抱きしめようとした羽士男の腹を、彼女はナイフで刺した。


「ど…うして…」

 羽士男は、ミコトの行動の意味がわからなかった。

 彼は身も心もミコトの虜になっていた。


「お父様、私、欲しいものがあるの」

 ミコトは微笑んだが、美しく恐ろしい顔だった。


「こんな、こと、しなくても…」

 何でも与えるのに、と羽士男は思った。


「お父様の霊力の全てを私に頂戴」

 ミコトは可愛くおねだりをした。


「そ、それは…」

「ダメなの?」


「わた、私が死ねば、困るのは、お、お前だ、ミコト」

 羽士男は悪あがきをした。

 ミコトは我慢するということを知らない娘だ。

 羽士男はミコトを自分のものにしていたつもりだったが、それは逆で、ミコトにまんまと利用され操られていたのだった。


 ミコトは羽士男に教わった呪文を唱えた。

 彼女の術で地縛霊が羽士男の手足に取り憑いた。


「や、やめろ。助けてくれ」

「お父様、大丈夫よ。大事にしてきた霊が守ってくれるから」

 ミコトは笑いながら言った。


「何故だ。私はお前を大切にしてきた。愛してきたじゃないか」

 羽士男は可愛がってきたミコトに憎しみが湧いてきた。


「愛って? 私をオモチャにすること?」

「ミコト…」


「さようなら、お父様」


 羽士男の身体は文字通り八つ裂きにされた。

 ミコトは返りの念を見事に撥ね返し、羽士男の憎悪の魂を地縛霊の塊の中へと取り込んだのだった。


 ミコトは稔成を使い、羽士男が蝶子とマコトを自殺と届けたのと同様に、今度は羽士男の死を自殺と届けさせた。


 これにより、保険金支払いが発生したのだが、さすがに同じ家族で3人の自殺者となると、保険会社も不審に思ったようで、片岡が調査に乗り出すこととなったのだった。

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