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45 風の裏通り

何なんでしょう、彼は!?

作者もビックリの隠れキャラのせいで、この先が複雑に展開しそうです。

 その日の夕方桜海はテリトリーの外側だがすぐ目の前に、地縛霊に纏わりつかれている男性を発見した。

「あの、すみません。ちょっといいですか?」


「はい?」

「片岡…」


 振り返ったのは桜海の同級生の片岡(かたおか) (ひろし)だった。


「? 誰?」

「えっ?!」


 片岡は虚ろな瞳でチラッと桜海を見たが、認識されなかった。


「私、急ぐので失礼」

「…」


 久し振りに遇った片岡は背中に地縛霊を張り付かせていた。


 仕方なく桜海は顔色の悪い片岡を尾行した。


 電車に乗って目的の駅で降りたようだが、片岡は何故か同じ所をグルグル歩き回っている。

 そこは黒霧神社のテリトリー内なので、桜海はわが身に結界を張って尾行した。


「あれ? おかしいな。確かこっちだった筈なのに…」

 どうやら片岡は記憶を辿ってどこかに訪問しようとしているのに、家が見つからないようだ。


「どうされました?」

 桜海は近所に住む人のような振りをして声を掛けた。


「いえ。この辺りに黒野さんというお宅があったと思うんですが、辿り着けなくて…」

「くろの?」


「ええ。大きな屋敷で…ウッ…」

 片岡は急に両目を瞑ってしゃがみ込んだ。

 そのタイミングを利用して桜海は彼の背中の地縛霊を引き剥がし消滅させた。


「片岡! 片岡!!」

 桜海は道路に倒れ込んだ片岡の身体を揺すった。


「…? あ…? 桜海?!」

「大丈夫か。ひとまず帰ろう」


「え? ああ、すまん」

 桜海は片岡に肩を貸して結界を張ると、来た道を戻って行った。




「いらっしゃい。久し振りですね」

 赤星が片岡に挨拶をした。


 急に生きた客を連れて来た桜海に、赤星は嫌な顔一つしなかった。


 桜海は、

「久々に桜海の家に行きたい」

と言い出した片岡を不思議に思いつつも、地縛霊に取り憑かれた経緯を聞いておくのもいいかもしれないと思い連れて帰ったのだった。


「すみません、急に。お邪魔します」

 片岡は山科先生からの預かりものを届けに来た以来、久しぶりの桜海宅をキョロキョロ見ながら、ダイニングの椅子に腰かけた。


「紅茶でいいですか?」

 赤星が二人に尋ねた。


「うん」

「はい、ありがとうございます」


 赤星は紅茶の支度を始めた。


「どうして、家に行けなかったんだろう?」

 片岡はまだ体調が優れないようで、青い顔のまま首を傾げた。


「仕事?」

 キッチンを背に、片岡の斜め前に座った桜海が尋ねた。


「そう。保険調査。一度は行ったんだが、再度訪問しようとすると何故か家に辿り着けなくてさ」

 片岡は大まかな状況を話した。


「あんまり信じてもらえないかもしれないけど、地縛霊が()いていたからだと思う」

 桜海が事実を告げた。


「え?」

「クロノさんだっけ?」


「ああ」

 片岡は渋い表情をした。


「はい、どうぞ」

 赤星は二人に紅茶を運んできた。


「ありがとう」

 片岡は小さくお辞儀した。


「個人情報の関係で詳しく話すのは難しいんでしょ?」

 赤星は片岡に言った。


「そうなんだよ」

「何だ? この前とはえらい違いだな」

 桜海は紅茶を、やっぱりこいつは自分を信用しないんだなという苛立ちのようなものと一緒に、飲み込んだ。


「しかし、この際…」

 片岡は少し考えてから続ける。

「黒野さんというのは、黒霧神社の神主さん宅なんだ」


「えっ!」

「…なるほどね」

 桜海は地縛霊が憑いていたことや片岡が迷った場所が黒霧神社のテリトリー内だったことなどから関わりがあるだろうということは予想していた。

 しかし、そこそのものとは驚きだ。


「黒霧神社だよ?!」

 赤星は何かと良くないことには必ずと言っていいほど、そこが絡んでいると言いたいのだ。


「大丈夫。聖也(まさや)のことは俺が護るって言っただろ」

「でも…」

 桜海は片岡をそっちのけで、赤星と見つめ合った。


「お前ら…」

「「え…?」」


 片岡は肩を揺らして笑った。


「何だよ」


「いや…。そろそろいいのかもしれないな…」


 片岡は笑うのを止め真面目な顔で、

「俺もお前たちと同じ転生者だし、ここらで力を貸してもらうのも悪くない」

と、言った。


 桜海は咄嗟に立ち上がって赤星の前に立ちふさがり、結界を張った。


「う、ウソだろ…」

「兄も転生者だった。桜海に近づいて何かやらかそうと考えていたようだ。たった6~7歳だったから、様子を見るつもりだったようだが、俺が早いうちに排除した」


「…!!!」

「行方不明の、でも本当は亡くなったという…?」

 赤星は以前話に聞いたことを思い出すように呟いた。


「嘘だ。そんな…小学1年で、そんな素振りなかったじゃないか!」

 桜海は自分の記憶にある健と博の関係とイメージが崩れ混乱した。


「だからなるべく桜海の事は遠ざけていた」


 確かに桜海は疎遠にされていた。

「お兄さんは、自分を殺した弟を庇って、遺体が見つからない様にしたのに?!」

 それで桜海は自分が見た健のことは忘れることにしたのだった。


「そうだったんだ。別に庇うこと無かったのにな」


「殺人犯なの?」

 赤星は桜海の陰から恐る恐る尋ねた。


「俺は、当時それは半分事故のようなもので、故意に(おこな)ったとは思えなかったし、多分(たける)さんも…」

 桜海は当時の薄れた記憶を確かめるように呟いた。


「俺は百戦錬磨の転生者だからな。兄の姑息な考えを見抜いたまでだ」


「自主しろ」

「今更? 転生のプロが見て危険分子と判断したんだ」


「な、何が目的だ?!」


「俺は自分がそうだからか、相手が転生者かどうかわかってしまうんだ」

 片岡は頭を掻いた。

「だが、何度転生しても俺の性格は変えられなくて、自分と同じ時空にいる転生者を見張って、良からぬヤツは色々な方法で排除してきたんだ」


「つまり…?」

「この世の閻魔様(えんまさま)?」


「「え?」」

 赤星の一言に桜海ばかりか片岡まで驚いた。


「いや、俺自身にもわからないし、(さが)としかいいようがない。転生者は大抵過去の知恵を生かして、成功する者が多いんだ」


「お前、その割には…」


「まあ、不器用だ。坂田議員も転生者だって知ってるか?」


「…」


「俺はどうにも手出しできない相手だったから嬉しかったよ、お縄になって」


「「へ~」」


「魂は恐らく何らかの形で生まれ変わるようだから、みんな転生者ということになるが、俺の言う転生者は、過去の記憶を持ったまま次の生を営む人間のことだ」


「転生素人の俺たちをどうするつもりだ」

 桜海は片岡を睨んだ。

 桜海も赤星も過去の記憶に振り回されているだけなのだ。


「まあ、落ち着けよ。俺はお前らと違って何の能力もないタダの人間だ。兄は幼少のどさくさ紛れに排除することができたが、現世ではそれだけだ。俺は余計な事がわかるだけに、イライラしながら世の中を見ているだけに過ぎないんだよ」

 片岡は悔しそうに言った。


「何で兄貴を? 優秀な人だったんだろ?」

 桜海が尋ねた。


「あいつは魔力を持った転生者で何か目的をもって能力者を探していた。当時お前に目を付けていた」


「俺?」

 片岡の兄(たける)には、彼の死後に一瞬しか関わったつもりが無く、桜海は驚いた。


「俺は兄が優秀であるが故に、大人になってしまってからでは俺はどうにもできなくなると思ったんだ。それに今になって思えば、兄が探していたのはそっちの人かもしれない」

 片岡が赤星を見つめた。


「お、俺?」


 狼狽える赤星に片岡が付け足した。

「お前ら同じ時代からの転生者だろ?」


 桜海と赤星は顔を見合わせた。


「こ、この前はそんなこと、一言も…」

 赤星はなぜ今なのか疑問に思った。

 それは、片岡に最後に会ったのは赤星1人だったのに、その時は何も言わなかったからだ。


「この前は、なんていうんだろ。半信半疑だったからな」

 片岡は前世の記憶を取り戻しきっていなかった赤星のことまで、見えていたような口ぶりだ。


「今だって何か霞がかかってる。けど、秘められた魔力は計り知れないな」


 赤星を見つめて言った片岡を桜海はその真意を測るかのように見つめた。


「とまあ、自己紹介はこれくらいにするよ。それより、凡人の俺を助けてくれよ」

 片岡が笑った。


「よ、よく言うよ」

 桜海は片岡からは敵意を感じ取れなかったので、とりあえず椅子に座って紅茶を飲み干した。


 赤星は桜海の隣に椅子をくっつけて座った。

「怖い。大丈夫なの?」

「とりあえずは」


「俺は何の力も無いって。しかし、桜海はその人の鍵だな」

 片岡は苦笑いした。


「鍵?」

「お前と一緒だと半端なく何ていうか、光る」

 片岡は自分の目に映るものをぎこちなく伝えた。


「片岡、お前、オーラが見えるのか?」

「オーラ?」


「その人の発するエネルギーの強さとか範囲とか…」

「うお? 俺、凡人じゃなかったのかな?」

 片岡は割と軽い調子で言った。


「百戦錬磨の転生者が凡人? 既にその時点で非凡だろ」

 桜海が呆れながら指摘した。


『何て事かしら』

 タマコは赤星の肩の上でドキドキしていた。


『何やら不思議な気が流れておるようじゃ』

 一多も3人の会話に耳を傾け驚いていた。


「あれ? 黒霧神社の話はどうなったの…?」

 赤星の一言に桜海と片岡が頷いた。




「以前そこの奥さんの黒野蝶子(くろのちょうこ)さんが亡くなって、どうやら自殺だったらしいんだけど、すぐに双子の弟、マコトさんが亡くなったんだ」

 大まかな状況を片岡が説明した。


「それって…いつ頃?」

 桜海も赤星も呟いた。

 心当たり有り過ぎるからだ。


「もう4年くらい前になるかな。そしてこないだ黒野羽士男(はしお)さん、つまり蝶子さんの旦那さんで、黒霧神社の神主さんが亡くなったんだ」


「えっ!!」

 桜海はタマコの火事の事件の際に、一度会って話したことのあるくえない男を思い出した。


「よくよく考えれば不審だよな。残ったのは双子の姉のミコトさんと祖父の(とし)(なり)さん。俺はこの前、稔成さんに会って話を聞いたんだけど、全然要領を得なくてさ」


「何か疑わしいのか?」

「3人全員が自殺なんだ」


「全員?!」

 赤星が思わず声を上げた。


「母親は精神科にかかったことがあったみたいで、そう不思議には思わなかったんだが、3人の死亡確認を行った医者も変な奴で、自殺としか診断書に記載がなくて、どんな死に方か書いてないんだぜ?」


「変だね」

「だろ?」


「で、今度は娘のミコトさんに会って話を聞こうと思って…」

「…神社に行けなかった」

 片岡の代わりに桜海が言った。


「そう。どう思う?」

 片岡が桜海に意見を求めた。


 桜海は少し考えて、

「赤星、前に言ったことがあったよな。火付けの犯人はその後すぐに死んだのかなって」

と確かめた。

「うん。もしかして、それが双子の弟さん?」


「俺が翌日行ったとき、神主が息子はいないって言ったんだ。小学6年の娘なら居ますがって…」

 あの時の話が事実なら桜の火を消したその日に弟は死んだことになると考え桜海は身震いした。


「桜海、神主さんに会ったことがあるのか?」

 片岡は目を丸くした。


「多分、あの人がそうだと思う…」


「1回会っただけじゃわからないかもしれないが、自殺するような人間だったか?」

 片岡は息を呑んで桜海の答えを待つ。


「恐らくだけど、そういう性格じゃないと思う。少なくともその時は…。そうか、息子が死んですぐだったから、家族の事に立ち入らせない雰囲気だったんだ!」

 桜海はあの日の裏付けになる事実に震撼した。


「絶妙なタイミングに会ったんだな」

 半ば呆れたように片岡が呟いた。


「まさか、中学生くらいの男の子が、小6の双子の弟だったとはね…」

 桜海が呟いた。


「そうか、そういう事か。じゃ、俺たちの勘は当たっていたわけだね」

 赤星も納得顔だ。


「火付けの犯人と、蛙を仕掛けた犯人はやはり同じ人物だったんだ」

 桜海も大きく頷いたが、片岡にはイマイチよくわからない会話だ。


「母親も本当に死んでたんでしょ? あの子の言ったことは本当だったんだね」

 あの時の少年を思い出しながら赤星が言った。


「祖父と父親が桜の樹の下に母親が埋められていると言ったらしかったけど、今残っている家族は祖父と双子の姉…か」

 桜海が確認するように言った。


 不思議そうな顔をしながら片岡は二人の話を黙って聞いていた。


『どうやら黒霧にある地縛霊を誰かが操っておるとみていいようじゃな』

「えっ!!」

 一多の見解を聞いて桜海が驚いた。


「何だよ、ビックリするじゃん…」

 突然叫んだ桜海のすぐ隣で赤星が耳を塞いだ。


「操る?」

『例えば、蛙の霊が襲撃してきたのがいい例じゃないか?』

 一多の言う通り、地縛霊を乗せられた蛙の霊が増幅され全てが赤星を狙って跳んできたことを桜海は思い出した。


「も、もし、黒霧神社の人間が地縛霊を使って色々悪さをしていたとしたら…」

『今までに(かくま)ってきた地縛霊が大量に存在するのじゃ。アイテムは尽きん。それにもしそんなことをしているとしたら、相手は十中八九、術者じゃ』


「は~」


「何だよ。誰と話してんだよ」

 片岡が喚いたが赤星も同感だった。


「俺の力じゃ、術者を封じ込めるなんて無理かもしれないな」

 桜海は肩を落とした。


「術者?!」

 赤星が聞いた。


「桜海、お前だって術者じゃないか」

 片岡は溜息を吐いた。


「そうだよ」

 赤星も片岡と同意見だ。


「簡単に言うなよ。できれば、黒霧神社には関わりたくないのに…。それになんで俺が術者だとわかってるんだ?」

 桜海は片岡に不審そうに眼差しを向けた。


「兄貴に言われて、お前を観察していたからな」

「へ?」


「お前が不思議な能力を持っていることはわかっていた」

「転生者ということも…?」


「ああ。ただ、健と違って不慣れで戸惑っているようだった」

「ひょっとして、俺も排除の対象者だったのか?」


「まあな。だが、俺を見逃してくれたからな」

 片岡が微笑んだ。


「危ねぇ…」

 桜海は腕を組んで背中の冷やせを誤魔化すように天井を見上げた。

 子供のころ疎遠だったことが、今は有難く感じた。


 隣で赤星もシンクロして冷汗(ひやあせ)をかき、肩を竦めた。


「俺も今はしがない調査員」

 片岡は苦笑いした。


『単純に考えれば、黒霧神社における術師の正体は祖父か孫娘のどちらかということになるが…』

 一多が呟いた。


「そこに近づいた片岡は地縛霊を使って神社に辿り着けないように術をかけられた」

 一多の言葉を受けて桜海が推察を述べた。


「困るよ。俺、平凡に現世を全うしてんのに…」

 ちっとも困ってない顔をして片岡が笑った。


「よく言うよ」

 桜海は片岡の底知れないオーラを垣間見た。


 子供の頃は百戦錬磨の転生者に見事騙されていたということになる。

 片岡は色んな意味で桜海を遠ざけていたのだ。


「俺、子供だったな…」

 桜海がしみじみと呟いた。


「ねえ、これってもしかして依頼かな?」

 赤星が超現実的に言った。


「え? 金取るのか?」

「俺たちも現世を生き抜かなきゃならないからな」

 桜海が笑った。


「仕方ないな」

「毎度有」


 元気に赤星が言ったが、桜海は両手の人差し指を交差させバツ印を作った。

「だけど今回は相手が悪い」


「「え!?」」


「断る?」

「断る気かよ?!」


「今はどうすればいいか考えられない」

 桜海は正直に答えた。


 まずは昔から知っているはずの人間についての認識を変えなければならない。

 それに黒霧神社に近づくのは危険だと頭の隅で警鐘が鳴っているのだ。


「…わかった。じゃあ今日は帰る。とりあえず助かったから、これな」

 片岡は溜息を一つ吐いて立ち上がると、財布から名刺とお金を出してテーブルに置いた。


「一万円だ」

 赤星が嬉しそうに言った。


「え?」

「お祓いしてくれたんだろ。サンキュウ」

 片岡は大きく深呼吸した。

 桜海が地縛霊を祓ったことを言っているようだ。


 桜海は黙って微笑んだ。


「また連絡するよ」


 そう言って片岡が帰った後、赤星は夕食の準備、桜海は風呂の準備を始め、いつもの日常をこなしながら考えを巡らしていた。


『しかしアヤツはまだ何か隠しておる気がするな』

 一多が呟いた。

『やっぱり一番謎なのは聖也だわ』

 タマコは眠そうに一多に囁いた。

『ふむ』

 一多はいつになく難しい顔をしていた。

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