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『時代遅れスキル『ゴーレム制作』専門の男爵家四男が、転生者の知識でそこそこ頑張るはずが、なぜか王弟に目をつけられてしまう話』  作者: 葉月奈津・男
第一部、使用人が『王国の影』でした

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第2話 『家族』

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「おかえりなさいませ」


 馬車を下りると、使用人総出で出迎えられた。

 教会から邸宅へと帰ってきたのだ。


 執事を筆頭にメイドやら下働きやら含め総勢は100を超える。

 ただ集まっているだけだとそうでもないが、きっちり並んでいるうえに全員が一点に視線を向けていると圧が高くなる。

 視線の中心にいるクアルト少年は、ちょっとだけ身を固くした。


「ただいまー!」


 身を固くはしたものの、そんなことはおくびにも出さずに快活な挨拶をして飛び跳ねた。

 七歳の子供らしい動きだ。


 満面の笑顔で駈け寄り、使用人たち一人一人と挨拶を交わしていく。

 世間一般の貴族とは少し異なる態度だが、この家の者は家長の男爵も含めて傲慢さがない。


 まして、末の男子だ。

 屈託なくても不思議ではなく、皆好意的に受け止めている。


「おえりなさい」


 最奥にいた女性が、柔らかく微笑んで抱きとめた。

 その周りにはクアルトとよく似た少し年上の男の子が三人いる。

 クアルトの母と兄たちだ。


「どうだった?」

「俺たちとおんなじか?」

「落ち着け、お前ら」


 三男、次男が待ちきれないとばかりに問いを投げ、長男が宥めている。


「『ゴーレムマスター』だってさ」


 満面の笑顔で答える末の弟。

 兄たちの顔が微妙に陰った。


「え?」

「なんだよ、それ!」

「そうか・・・なんか、おまえらしいな」


 言われた言葉が分からず、首を傾げる三男。

 予想と違うことに不満を表す次男。

 寂しそうに微笑む長男。


 きれいに分かれる反応。

 その頭上では母と父が無言の会話を行っていた。

 父が小さく頷き、母が声には出さず「そう」と呟いている。


「アルト、おめでとう」


 視線を合わせ、祝いの言葉を告げる母。

 アルト、とはクアルトの愛称だ。

 普段、家族はみなそう呼んでいる。


「僕と違うよ?」

「そうだぜ、お揃いじゃねぇじゃん!」

「そういうこともあるんだよ」


 すかさず疑問を打ち上げる三男。

 不満を噴き上げる次男。

 そっと諭す長男。


「あら? 私の適性は『紡ぎ手』、お揃いじゃないと仲間外れにされちゃうのかしら?」


 いたずらっぽく三男と次男に語り掛ける母親。


 途端にばつが悪そうな顔になった三男と次男が母親に抱きついた。

 長男も困り顔で母を見上げている。


「母上は、母上だよ」

「仲間外れなんかしねぇって!」

「そうだよ」


「そう? なら、アルトがみんなと違っててもいいわね?」


「うん」

「問題なんかあるわけねぇよ。ただ、ちょっとびっくりしたっつうか。そんだけ」

「僕たちの弟なのは変わらないさ」


 兄弟三人が、そろって受け入れた。

 優しく微笑み、息子たち四人をまとめて抱きしめる母。

 もらい泣きする使用人たち。

 父は静かに微笑み、四人の息子を誇らしげに見つめていた。


 その光景は、どこまでも平和で、どこまでも温かかった。


 ◇


『僕』こと『クアルト・デ・メリマルゴール』が産まれたのは七年前。

 プラニリア王国歴758年の暮れのことだった。

 妙に暖かく、豪雪地帯でありながら雪のない冬だったという。

 もっとも、母の腹の中にいた『クアルト』には知る由もないことだ。


 産まれてからの日々は・・・記憶にない。

 いや、あるが恐ろしく曖昧だ。


 クアルトの一番古い、はっきりとした記憶は四歳のものだ。


 父がどこかから買ってきたか貰ってきたお土産を見せてくれた。

 ひとつしかなかったから、たぶん貰ったものだっただろうと思う。


 四足歩行で甲羅という背中が丸い変な生き物が彫られたコインだった。

 クアルトは、そのコインに目が釘付けになった。

 なぜか、なんとしても手に入れなければならないと感じていた。


 のちに、家族の間で何度となくネタにされることになる一大事件の幕開けだった。


 それまで、やけに大人しく感情の起伏を全く感じさせなかったクアルトが、初めて自我をむき出しにした瞬間となったのだ。

 父は、これはよい傾向だと判断して、四男がもっと自分を出すようにと画策したらしい。


 具体的には、あるゲームを持ち掛けたのだった。

 ひとつしかなかったことから、兄弟で競って勝った者にあげると言い出したわけだ。


 幼かったクアルトは、それで変なスイッチが入ったらしい。

 全力で勝ちに行った。

 ゲームは非常に難易度の高いものだったようだ。


 ようだ、と言うのには理由がある。

 クアルトはそれを軽くクリアしてのけたのだ。


 ゲームとはつまり、数式の問題だった。

 図形の面積を求めるようなものだ。

 三角形の角度を言い当てるというのもあっただろうか。


『中学レベルの数学』


 もちろん、この当時四歳だったクアルトに理解できるものではなかった。

 ないはずだった。

 だけど・・・。

 なんとしても手に入れたいと願ったクアルト——『僕』——は、必死に考えた瞬間、胸の奥で何かが弾けた。

 知らないはずの記憶が、断片となって流れ込んでくる。


 これは……僕じゃない。『オレ』だ。


 四十を過ぎ、孤独に生き、何も守れないまま終わった誰か。

 いや、前世の僕自身だ。


 その記憶が、今の『クアルト』を形作っている。

 隣家の火災が延焼してきた自宅から逃げ出すことができず、そのまま焼け死んだ『オレ』の記憶。


 煙に巻かれ、かすむ視界。

 肺を焼かれ、呼吸ができなくなっていく苦痛。


 そんな中、どこかで感じる解放感。


 そこでオレ——『僕』——は笑ったらしい。

 『オレ』の弱さを、第三者の視点で見た。

 失笑だ。


 自覚はなかった。

 その時の『僕』は『オレ』の死にざまを思い出していたからだ。


 前世の『オレ』は、孤独で不器用な人生を送っていた。

 人間関係もうまくいかず、働いては壊れ、また立ち上がることの繰り返し。

 最後は病気と疲労に押しつぶされ、何も守れないまま終わった。


 そんな『オレ』の支えはゲームと本、そして『亀』のコレクションだけだった。

 ガチャで出るような亀のフィギュアから、天然石の彫刻、マンモスの牙の根付なんてものもあった。

 『オレ』が燃える家から出られなかった理由の一つでもある。

 全部は持ち出せず、どれを持って逃げるか決められなかったのだ。


 四歳のあの日、『亀』に似た生物か魔獣が彫られたコインに魅せられた理由でもある。


 以来、精神年齢四十過ぎの四歳児として生きてきた。


 前世と比べ、あまりに恵まれた生活。


 優しく、ただし過干渉でもない両親。


 常に末弟を気遣ってくれる兄たち。


 仕事の枠を外れてまでよくしてくれる使用人たち。


 本当に恵まれている。


 この暮らしを、家族を、みんなを守る。


 いつしか、それが『僕』と『オレ』、『クアルト』の誓いとなっていた。


 だから、『ゴーレムマスター』を『僕』は無条件に受け入れていた。


 家督騒動には絶対にならないと確定したのだから。

 それのみで見ても、最高に幸運なことだったからだ。     



読了・評価。ありがとうございます。


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