第69話 イメールの人生相談
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投稿間隔を空けた間に小説家になろうラジオ大賞の短編を書いたりもしました。あとがきにurl貼ったので良かったらそちらも読んでいただけると嬉しいです。
夜が近づいてくると村から朱さは失われ、薄暗さが広がっていき、鳥たちも急いで巣へ帰っていく。
そんな中、俺は疲労困憊でその場から動けなくなっていた。
「どうしたの?」
長い時間の行軍のせいで髪の毛が少し乱れているティアに声をかけられた。
「気力体力の限界で動けないの。」
「何よそれ?早く行くわよ。私、お腹空いちゃった。それにオーガの臭いがついてる気がするからお風呂で落としたいし。」
ティアはそう言うと自分の腕を鼻に近づけてクンクンと嗅いでいた。俺も真似をして自分の腕を嗅いでみたけど、よく分からなかった。
そして俺はティアに追い立てられるようにして食事の列に並びにいった。今は解散からの流れで配膳の列は混雑している。
周囲が光魔石の明かりに照らされるようになり、並ぶことに飽きてきた頃、やっと配膳の順番がまわってきた。
「コーヅさんが千本槍でオーガキングもやっつけたんですか?」
配膳を担当してくれている若い女性に声をかけられた。
「いや、ティアだよ。ファイアボールで一発だったよ。」
「わぁ、そうなんですね。やっぱりティアさんは凄いですね。憧れるなぁ。」とその女性は遠くを見つめる。そして配膳用のスプーンからは唐揚げが転がり落ちた。
「だってさ、ティア。」
俺は後ろに並んでいるティアを振り返った。
「え?何?」
ティアは俺たちの会話は聞いていなかったようで質問で返された。
「ティアに憧れてるんだって。」
「あら、嬉しいわね。ありがとう。」とティアは配膳の女性に優しく微笑む。その女性はティア本人がすぐ近くに居たとは知らずに恥ずかしさで耳まで赤くして俯いた。
俺たちは食事を受け取った後、水晶の床で円になって座った。
「ティアは人気あるね。」
「そんなんじゃないけど、女の子から言われると嬉しいわね。」
「男の人から言われるのって駄目なんですか?」とイメールが恐る恐る聞いた。
「変な意味が含まれてる事も多いからね。」
ティアはイメールに肩をすくめてみせた。
「色々な意味でティアは人気者なんだね。」と俺は褒めたつもりだったが、「それが嫌なの!」とティアが声を荒げる。
「でもやっぱりあのファイアーボールは凄かったし、それに憧れる人が居るのは自然な事だと思うよ。僕も初めてティアが本気で撃ったファイアーボールを見たけど凄いと思ったし。」
「ん?あれは本気じゃないわよ。本気で撃ったらみんなも巻き込んじゃうもの。」
「え!?」
俺たちは絶句した。だってオーガキングを一発で仕留めて、岩山をドロドロ溶かして溶岩にしたんだよ?本気の一撃ってどんな威力なんだよと思う。……あれ?それなら今回の作戦に俺って別に要らなかったのでは?俺は色々と整理できずに頭の中がグルグルと回っていた。
「結構上手く調整したファイアーボールだったから私的には満足できるものだったけどね。」とティアはまんざらでもない顔をしている。
「やっぱりティアさんは凄いです。僕にはティアさんもコーヅさんも憧れの存在です。」
「でも私とコーヅはタイプが全く違うけど。イメールは何を目指してるの?」
「それが自分自身もよく分からなくて。」
「やりたい事とかって何かないの?」
「特に無いんです。ただみんなについていくのに精一杯で。」
俺もその気持ちは分かるな。俺もやりたいことがあって就職した会社じゃないし。この世界だってやっぱりそういう人はいるよね。
「イメールくんが衛兵の仕事と関係無く、好きな事って何?」
「僕は絵を描くのが好きです。子供の頃は宮廷画家になりたいと思ってました。」
それからしばらくの間、イメールがどれだけ絵が好きだったかという話を聞いた。でもその話に熱が帯びてくると、それに反比例するように周囲の熱が冷めているように感じられた。
「画家かぁ……。」
みんなは一様に難しい表情になり唸り声が発せられた。この世界でも画家は難しいようだ。
そしてその反応にイメールの熱も一気に冷めてしまったようで、うつむき加減に押し黙ってしまった。
「でも、それなら俺が作った物を綺麗に仕上げるなんて向いてたりするのかな?」
俺は自分が作ってきた面白味の無い白い大浴場、公園、そして壁を思い浮かべた。
「はい……、興味はあるのですが、絵とは違うのであまり自信が無くて。」
イメールが顔を上げると、いつもの自信なさげなイメールに戻っていた。
「でも俺が作ったものよりマシになるなら十分だよ。」
「それくらいでしたら、なんとか……。」
「ははは。それくらい、か。でもそれだけの自信が持てるんなら大丈夫じゃない?」
ショーンがまずやってみたらとばかりに軽い感じでイメールの後押しをする。イメールもほんの少し頷いたように見えた。あと一押しだ。
「そうよ。それに失敗したって大丈夫。コーヅがすぐ直すし。」とティアは俺を見て「ねぇ?」とおどけてきた。俺もそのつもりなので「もちろん。」と笑って頷いた。
少しの間があって、イメールは口を開いた。
「皆さん、ありがとうございます。明日から頑張ってみます。でもコーヅさん、僕は何からやってみるといいですか?」
こういう自信が無い時は、小さい成功体験を積み重ねたいよね。
「えっと……。あ、そしたら子供用の遊び場を作ってあるんだ。それだったら大きくないし、やりやすいんじゃないかな。」
「あー、あれね。私も良いと思うな。明日、暇だからイメールくんに付き合おうかな。」
「こういう事から自信をつけていければ良いね。僕も応援してるし付き合うよ。」
「はい。ありがとうございます。」
シュリとショーンからも作業に付き合ってもらうという話にイメールの言葉や表情にもほんの少しの前向きな気持ちが現れていた。
なんだかイメールの人生相談みたいな食事時間になったけど、少しは役に立ててると良いな。
ここで会話が区切れると、俺は疲れていたことを思い出した。目蓋が閉じてしまおうとしてくるからだ。本当は風呂に入らずにこのままここで眠りたいくらいに目蓋が重たい。でもお風呂エバンジェリストとしてはこういう時こそ疲れを残さない為にもお風呂には浸からないと。
その後も雑談は続いていたが俺は目蓋との戦いに意識のほとんどを向けていたので、会話は全く聞いていなかった。
「よし、コーヅもそろそろお風呂に入って寝ようか?」と言われて意識をショーンに向け直して頷いた。
「コーヅくんはもう寝てたでしょ?」
シュリには気付かれていたようだ。
「バレてた?」
「分かるわよ。視線が宙に浮いてるし、瞬きもしないし。」とティアからも指摘された。どうやら周りからはバレバレだったようだ。
「今日はみんな頑張ったしね。さ、男は男で仲良く風呂に行って早く寝ようか。」
ショーンは立ち上がると、俺やイメールを誘ってきた。力が入らない俺はショーンに引っ張ってもらって立ち上がった。
そしてみんなで食器を片付けてから男女に分かれて風呂に向かった。足取りが重たいのは俺だけのようだった。ティアやシュリなどは鼻歌を歌いながら足取り軽く歩いている。
風呂場はオーガ問題が解決したという事もあって、村人たちも入っていて賑やかだった。壁の向こう側からも明るい女性の声が聞こえてくる。
俺たちもシャワーを浴びると浴槽に浸かった。
「よう、コーヅ。どうだったよ?オーガキングってどんなやつだった?」
その質問に周囲の目が俺たちに注がれた。
「オーガよりも縦にも横にも1.5倍くらいあったと思います。力は凄かったですね。多分村に作った壁だと簡単に壊されると思います。ただ動きは遅かったですね。」
「本当かよ。そんな奴をどうやって倒したんだ?また石の槍か?」
「いや、俺は足止めが精一杯でした。倒したのはティアです。ファイアボールで一発でしたよ。」
「ウオオオ!さすが俺たちのティアだ。」
「やっぱりティアは正義だよな。」
あ、余計な事言ったかも。女湯で怒ってる姿が目に浮かぶ。少なくとも今夜はティアに顔を合わせないように気を付けないといけないな。
そこへタイガーが入ってきた。風呂場が小さな緊張感に包まれて会話が減った。タイガーはシャワーを浴び、浴槽に浸かる。
「ゔあぁぁふぃぃぃ!」
「きゃあ!」「何、今の?」「オーガ?」
女湯からは毎度悲鳴が上がる。だがタイガーには全く気にした様子は無く、ゆったりとしている。個人的には少し気にした方が良いんじゃないかと思ってタイガーを見るが、あまり聞く耳は持たなそうなので何も言わなかった。その代わりに俺は疑問に思ってた事を聞いてみようと思った。
「タイガー隊長、聞いても良いですか?」
「何だ?」
「最初からティアがオーガに向けて大きなファイアボールを一発撃ったら終わりだったんじゃないですか?」
「ん?そうかもなぁ。」
タイガーはことも無げに答えると、お湯をすくって顔の汗を洗い流した。
「何で俺は呼ばれたんですか?」
「俺たちにもお前さんにも必要な事だと思ったからだ。」
「必要?」
「俺たちは色々な状況を想定して、あの作戦が一番成功確率が高いと判断した。それにはお前さんの力が必要と思ったのが1つ。それからお前さんや、お前さんを警護する若い奴らに経験させたかったってことだ。選抜隊はイメールは初めてでシュリも2回目くらいじゃないか?」
そうか。俺は結果だけ見てティアだけで良いと思ったけど、タイガーが考えていたのはもっと深かったのか。さすがこれだけの人数を束ねるだけの隊長なんだな、と感心した。
「納得しました。ありがとうございます。」
「そうか。まぁ色々と疲れたろ。今夜は早く寝て、明日もゆっくり休め。」とタイガーは目を閉じて浴槽に寄りかかった。
風呂から上がった俺はみんなと別れて寝床に向かった。何となく自分の寝床みたいにしている場所が空いていたので、そこに転がった。
疲れた……。
やっと寝られる。目の前に広がる見慣れてきた満点の星空からの明かりを消すために目を閉じた。そしてそのまま意識を手放そうとした。
「……ばんは、コーヅさん。」
あれ?俺の名前が呼ばれてる?でも目を開けるには瞼が重たい。返事をするにも口が重たい。
「あれ?寝ちゃってるのかなぁ。青と緑と黄色の魔石を作ってきたから見てもらおうと思ったのに……。」
これはマレーナの声か。体の中では唯一動かせそうな手を挙げた。
「キャッ」とマレーナは飛び退いた。「ちょっと、コーヅさん?起きてるなら返事してくださいよ。もう!」
俺もマレーナに怒られて少し目が覚めた。「よっこいしょ」と、体を起こして目を開けてマレーナを見上げた。
「コーヅさん、目を開けてくださいよ。」
あれ?目は開けてたつもりだけど。少し力を入れて目を見開いた。
「やっと起きてくれた。これです。見てください。」
マレーナが掌に置いた魔石に魔力を流すと透き通るように黄色く輝き始めた。俺はちょっと眩しくて目を細めた。
「すごく綺麗。光輝く宝石だね。」
「もう、コーヅさんたら!」
マレーナはバシッと俺の肩を叩き、嬉しそうにはにかんだ笑顔を浮かべている。そして「光り輝く宝石かぁ。」と噛みしめるようにその部分だけど繰り返していた。
こんなに綺麗な光なら関節照明にしたらきっとオシャレな感じになると思うな。
「ありがとうございます。これ、コーヅさんにあげますので、何かに使ってください。もっと必要ならまた作りますから。」
「ありがたく頂くよ。」
マレーナは光を消してから俺に魔石を渡してくれた。俺は腰ベルトに入っている小さな魔石を全部取り出してマレーナに渡そうとした。
「これは魔石ですか?」
「何かに使うかと思って持ってきてた空の魔石だよ。交換しようよ。」
「ありがとうございます。また色々な色を作ってみますね!」
俺は他の光魔石は明日光らせてみようと思い、それらの光魔石は腰ベルトにしまった。しまい終るのを見計らってマレーナは「おやすみなさい、コーヅさん。」と言って小さく手を振って去っていった。
俺はマレーナを見送りながら「おやすみ、マレーナ。」と遠くなった背中に小さく声をかけた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
次回も少しを時間いただいて12月10日(金)頃に投稿したいと思います。
今更ですが「入力補助メニュ」というところで「ルビ」がふれる事を知りやってみました。
小説家になろうラジオ大賞用に書いた短編です。
「どっちの雪だるま」
https://ncode.syosetu.com/n7317hi/
「お味噌汁」
https://ncode.syosetu.com/n7750hi/




