第39話 食堂のおっさんの頼み事
差し込んでくる朝陽に目を覚ました。
ベッドから降りて窓を開けると小鳥がチチッと鳴いて逃げていった。
そしてベッドに戻ると、ゴロリと寝転んでストレッチを始めた。
バタン!
突然、ドアを開ける大きな音にリビングに行った。ヴェイが朝食や水差しを持って入って来ていた。
「よう、コーヅ!おはようさん。」とニカッと笑う顔は屈託がない。
「おはよう、ヴェイ。」
しかしヴェイはその後に何をすれば良いか理解していなくて、俺が洗濯物を持っていくことなどを教えた。
「明日も頼むな。また教えてくれよ。」
「いや、覚えてよ。」
「無理だな。ガハハハ!」と豪快に笑うと洗濯物と共に部屋を出ていった。
俺は苦笑を浮かべてヴェイを見送ると受け取った食事を持ってリビングに戻った。そして昨夜作った石筒を見ていた。水が蒸発するほどの熱だったんだろうな。気化すると体積が増えるから爆発したってことだろう。火魔石は素直にティアに協力をお願いした方が良いんだろうな。
食後はティアが来るまでは魔力増幅トレーニングだ。最近は一日中土魔術を使っているけど倒れる程じゃない。かなり魔力が増えてきていると実感する。
コンコン、ガチャとドアが開きティアが入ってきた。そして挨拶を交わすといつもの席に座った。そしてテーブルに何枚かの布を置いた。雑巾用の布だそうだ。俺が想像していた厚みのあるものでは無かったが物が足りて無い世界だから仕方ないだろう。
「ありがとう、ティア。」
俺は魔力増幅トレーニングを止めてお礼を伝えた。
「お礼は良いから私の部屋も掃除してもらいたいわ。」
「うん、部屋のリフォームと一緒にやっても良いけど、俺が部屋に入って良いの?」
前も乙女の秘密があるようで部屋に入れられないって断られたような気がしたけど。
ティアは少し悩んで「……やっぱり駄目。」と答えた。そしてティアは誤魔化すように話題を変えた。「で、今日はどうしたいの?」
俺は待ってましたとばかりに「携帯温水シャワーを完成させたいんだ。」と石筒を見せた。
「あー、この前言ってたやつね。コーヅも懲りないわね。いいわよ。それなら外に行きましょうか。」と席を立った。
俺は昨夜作った3つの石筒を持ち、ティアは魔石を片手でごそっと持ってポケットに入れて部屋を出た。
「おう、気を付けてな。部屋の守りは任せとけ。ガハハハ」
俺たちは苦笑しながら「いってきます。」とヴェイに挨拶して訓練場に向かった。
訓練場ではグループに分かれて打ち込みや格闘、魔術などの訓練をしている。フレンチトーストの予約の話をしたくてリーサを探していると、ショーンが俺たちを見つけて訓練を抜けて来た。
「どうしたの?」
「えっと、リーサさんに用事があるんだ。」
「リーサか、えっと、あっちかな。」と指を差すと打ち込みをしているグループの中にリーサを見つけた。
ショーン、ティアと一緒にリーサの方に向かう。途中で俺たちに気付いたリーサは手を止めてこちらを見ながら待っている。
「……どうしたの?」と少し戸惑い気味に聞いてきた。
「日本のスイーツが食べられる店を予約したんだ。明々後日の夜なんだけど時間作れる?」
その瞬間、リーサの表情が明るくなった。「本当に?」という声のトーンやテンションも高くなっていた。「あ……でもサラ様に聞いてみないと私だけでは決められないから。」と保留になった。
「予約はしてあるし、行けるか行けないかを教えてくれれば良いよ。」
「いいな、僕も行ってみたいな。」とショーンも会話に入って来た。
「ショーンが……。」とリーサが呟いた。
「あ、ごめんね。僕は又の機会にするよ。」
「違うのよ、ショーン。ごめんなさい。私が行けるか分からないから。」リーサは慌てて弁解した。
「ああ、そういうことか。リーサも行けると良いね。」と微笑むショーンにリーサは顔を紅くして俯いた。
リーサは返事待ちという事になった。今のところの参加者は俺、ティア、それとショーンかな。
話は終わったので、俺とティアは訓練場の端にある空き地に向かった。以前、魔石作りをした場所だ。
ここで俺はティアに昨夜の失敗の説明をした。そしてティアに火魔石を作って欲しいとお願いした。
「いいわよ。どのくらいの水が出るのか見てみたいんだけど。」
俺は1つ水魔石を作ると、石筒の2層目に穴を開けると魔石を入れて穴を塞いだ。そしてゆっくりと魔力を注ぎ込む。
するとシャーっと勢い良く水が噴き出す。手を当てると心地良く感じられる強さだ。
「大体分かったわ。」と言うとティアは小さな魔石を手のひらに載せ、魔力を込めていく。ほどなく鈍く光り魔石が完成した。やっぱりティアは魔石を作るのが早い。ティアから火魔石を受け取り石筒に穴を開けて火魔石を入れた。
これで完成だ。昨夜のようなことにならないと良いけど……。
俺は人がいない方に向けて優しく魔力を注ぎ込んだ。
シャーッ
水が……いやお湯が噴き出している。1回で成功した。ティアってばやっぱり天才だ。最初からティアにお願いしてたら爆発騒ぎなんて起こさなくて済んでたんだろう。
ティアには持ってきた魔石で火魔石を作れるだけ作ってもらい、持ってきていた2本の石筒にセットした。
そしてそれらにも魔力を流すと、こちらもシャーと温かなお湯が出た。これで携帯温水シャワーが3セットできたし、追加でもっと沢山作れる。これで魔獣狩りの時に持っていって携帯温水シャワー伝道師としての活動ができる目処もたった。
そして、何よりも今夜からシャワーを愉しめる。俺は「ティアに心からの敬意と感謝を!」と最敬礼した。ティアには「……バカにしてるの?」と睨まれた。
でも、思いのほか短時間で済んだ。午前中一杯使うくらいのつもりだったので、この後のことは何も考えてなかった。
「この後どうする?」とティアに聞かれた。俺は少し考えて答えた。
「今、庭園のリフォームを手伝ってるんだ。その続きをやりに行っても良い?」
「あぁ、コーヅが綺麗にしたっていう庭園ね。いいわよ。私はまだ見てないし。」
俺はティアと一緒に庭園に向かうと、そこは多くの人たちで賑わっていた。わざわざティーセットを持って来てお茶をしているグループまである。
そしてグリフィンを探していると、通りの反対側の花壇から花が全て取り除かれていることに気付いた。花の植え替えかな?そしてグリフィンはそのすぐ側のゲート前にしゃがみ込んで細工をしていた。そしてそれはかなり丁寧に作られている。これが出来上がったらかなり立派なものになるんじゃないかと思う。
俺はグリフィンの傍に行き、「グリフィンさん、おはようございます。」と声をかけた。グリフィンは立ち上がり黙って一礼した。そうだった。ショーンという通訳が居ないとコミュニケーションが難しかったんだった。
「えっと……お手伝いに伺いました。」
するとグリフィンは何も言わず、そのまま歩いて作業小屋の方へ行ってしまった。
「あれ?どっか行っちゃったよ。」
「多分いつものお礼に花を取りに行ったんだよ。」と俺は予想してみた。
少しすると戻ってきたグリフィンの手には図面が握られていた。そして俺たちの足元に図面を広げた。
「違ったじゃない。」
「うん、まあ……そんなこともあるよ。」
「あの東屋を作り直したい。」とグリフィンは俺たちの会話は聞こえていないかのように仕事の話を始めた。そして指さした先はゲートからの延長上にある東屋だ。「花壇と東屋を一体にしたい。」と図面のその個所を指差した。図面を見ると全体的に東屋は作り変えるようだ。今までは同じ東屋が並んでいたが、左右それぞれにメインになる東屋を作り周辺に小さなベンチや東屋を作りたいと考えているようだ。
グリフィンは凄いな。こういう事も考えられるのか。
俺はグリフィンにも一緒にいてもらってイメージと違う部分はすぐに指摘してもらえる事を条件に了承した。
花は全て抜かれているので俺は遠慮なく白い大理石で円形に床を作り出した。そしてその大きさをグリフィンに確認する。グリフィンが確認し、もう少し大きくと言われ細かいサイズ調整を行い合格を貰った。
俺は1か所作るごとにグリフィンにチェックを受け、細かく修正をしながら作業を続けた。そして昼の鐘が鳴る前には東屋を作り上げることができた。
次の作業に移ると昼を過ぎそうだったのでグリフィンには「今日はここまでにするね。」と伝えて訓練場に戻った。その途中に昼の鐘が鳴り始めたので、そのまま食堂に向かった。ショーンは着替えてから食堂に向かうので今回は俺たちの方が先に食堂に着いて待っていた。たまにはこういうのも良いもんだ。
食堂には次々に食事を求める人たちが飲み込まれていく。しばらくするとその中から「ごめん、待たせたね。行こうか。」とショーンに声をかけられて、俺たちはその後ろについてく形でブッフェコーナーに向かった。
「よう、コーヅ!」
突然厨房の方から声をかけられた。声の主に目を向けると、あの庭園で声をかけてきたおっさんだった。ここの人だったのか。
「こんにちは。」と俺は挨拶を返した。
「いつでもいいからよ、この厨房や食堂も綺麗にしてくれよ。」
するとそこにいる人たちからの好奇の視線が一斉に向けられた。
極力気にしないように「分かりました。魔獣狩りが終わってからでいかがですか?」と返事すると、他の人から「いや、それよりも俺はニホンの食べ物をメニュに加えてもらいたいな。そっちを先に頼むよ。」とここぞとばかりに別の提案が出てきた。こうなると食事をしている人たちの方が多いわけで、あちこちから日本のメニュを加えるという声に押されて厨房の人も渋々メニュ追加を了承していた。
全く話が関係ない方に向かってしまったので、渋い顔で頭を掻きながら「そんな訳だからよ、先にこいつらに食わせるものを何か教えてくんねぇか?」とぶっきらぼうに言った。
俺の手元にはレシピ板がいくつかあって、天ぷらは玄関先に貼ってある。あんまり見に来ている様子は無いから浸透しなかったようだけど。それから塩唐揚げのレシピ板もある。自分が食べた事無いので自信を持って出せなくて部屋にしまってある。後はハンバーガーとポテトフライだ。これはフィーロのパン食堂のメニュにと思って出さずに置いてあるものだ。
そう考えると塩唐揚げかな。これを料理人のおっさんと一緒に作り上げれば、もしかしたら魔獣狩りの時にも使えるかもしれないしな。よし、それでいこう!
俺は午後レシピを届けに来るからその時に一緒に作ってみようという話をした。料理人のおっさんもそれで良いという事だったので、一旦この場は収まった。
俺たちは食事を取って席に着いた。
「ねぇ、コーヅは何かいいレシピ持ってるの?」
「うん。少し自信が無いから一緒に作ってみたいと思ってるレシピがあるんだ。上手くいけば魔獣狩りの時にも出せるかもしれないな。」
「へぇ、ぜひ僕も食べてみたいな。」
「後衛班のショーンくんは食べる側というより提供する側だけどね。」と俺はツッコミを入れた。
「うわぁ、そっか。今回は後衛班だった。僕も配膳したり野営の準備をしたりするのか。」とショーンは手で顔を覆った。
俺たちが雑談混じりに食事をしていると、「期待してるからな」と声をかけて食堂を出ていく人が何人もいた。
そして食事後に訓練場に向かおうとすると、ティアが「待って。」と話しかけてきた。
「コーヅさ、午後は建築ギルドの人たちも来るでしょ?だから一人でレシピまで教えるのってできないでしょ?私も手伝うよ。私は一度研究室に戻ってからコーヅの部屋で待ってるわ。」と手を振って研究室に走って戻っていった。俺とショーンも訓練場に向かった。




