AI作品
本編をAIに任せて描き直してもらいました。
ストーリーの流れは本編とほぼ同じですが、設定やキャラクターの性格が若干変わっています。
本編と比べてお楽しみください。
【(序章)二人の復讐者】
ジュラ・テンペストの風は心地よく、中央都市リムルの外延に広がる草原には子どもたちの元気な声が響き渡っていた。
「へへっ、見たかクロエ! 今の俺の剣技、かなり様になってただろ!」
木剣を振り回し、胸を張るのはケンヤだ。その傍らでリョウタやゲイルが苦笑いし、アリスが呆れたように息を吐く。クロエは「うん、かっこよかったよ」と優しく微笑んでいた。
彼らはリムルから「街の近くなら」と外出の許可を得て、自主訓練を兼ねた外遊びを楽しんでいた。
平和そのものの日常。
テンペストの結界のすぐ外側とはいえ、周辺の魔物は定期的に騎士団が間引いており、子供たちだけでも十分に危険を回避できるはずだった。
――その異変が起きるまでは。
「……ッ!? みんな、下がれ!」
最年長のゲイルが素早く剣の柄に手をかけた。空気が重く、冷たく凍りつく。
次の瞬間、目の前の空間がガラスのように歪み、巨大な亀裂が走った。
空間の裂け目から蠢くように姿を現したのは、この森林帯に生息するはずのない【災害級】を遥かに凌駕する異形――異界の歪みから漏れ出た規格外の凶魔だった。
その魔物が発する凄絶なプレッシャーは、かつて魔王カリュブディスと対峙した時以上の圧迫感となってケンヤたちにのしかかる。
「な、なんだよこれ……! なんでこんな奴が急に!?」
ケンヤは必死に脚の震えを抑え、木剣を構えた。アリスの操り人形もリョウタの水魔法も、この異形を前にしては気休めにもならない。
ゲイルが前に出ようとするが、魔物が放った一閃の衝撃波だけで子供たちは全員吹き飛ばされ、草むらに転がった。
「くそっ……! リムル先生……!」
魔物が巨大な鉤爪を振り上げ、倒れ伏すケンヤたちへ向けて振り下ろす。
逃げられない。
死の恐怖が子供たちの思考を麻痺させた、その瞬間。
「――『断罪の業火』」
静かな、しかし透き通るような少女の声が響いた。
ドォンッ!!
空から降り注いだ純白の炎が魔物の巨大な鉤爪を根元から蒸発させた。
絶叫をあげる魔物の前に二人の人影が舞い降りる。
一人は深い紺色のローブを纏い、冷たい瞳で魔物を見下ろす美しい少女。
その胸元には不自然なほど古びた「四つ葉のシロツメクサ」が彫られたペンダントが揺れていた。
もう一人は黒い革鎧に身を包み、身の丈ほどもある大剣を軽々と片手で構える、刃のような鋭い雰囲気を纏った若い女性。
「シアン、下がってて。私一人で十分」
「いいえルミネ。二人で叩き潰すわ。こんな不快な気配、一秒だってこの世界に残しておきたくない」
シアンと呼ばれた少女が指先をかざすと、空間そのものが軋むような絶大な魔力量が膨れ上がった。
その圧は助けられたはずのケンヤたちが息を吸うことすら忘れるほど、異次元のものだった。
魔物が狂ったように咆哮し、再生した巨体で突進する。
しかしルミネが一歩踏み出すと同時に、大剣から放たれた漆黒の斬撃が魔物の胴体を真っ二つに引き裂いた。
間髪入れず、シアンの掲げた手から解き放たれた白銀の光束が魔物の核を含めた全身を原子レベルで消滅させる。
一瞬だった。
災害級すら超えるはずの怪物があっけなく消滅し、静寂が戻る。
「……す、すげぇ……」
ケンヤが呆然と呟く。
助けられたのだと理解したゲイルが、震える足で立ち上がり、頭を下げた。
「あ、ありがとうございました! お姉さんたち、一体……」
シアンは振り返り、倒れていた子供たちをじっと見つめた。その瞳には子供たちへの慈愛ではなく、どこか哀愁を帯びた深い深い憎悪の残り香のようなものが宿っていた。
「……子供を危険に晒すなんて、相変わらず甘い街ね」
冷ややかに吐き捨てたシアンの視線は子供たちの向こう側――遥か遠くに見える、テンペストの美しい街並みに向けられていた。
「行きましょう、ルミネ。あいつ(……リムル=テンペスト)がいる場所へ」
「ええ。私たちの『すべて』を奪った魔王の元へ」
ルミネが大剣を背に収め、二人はケンヤたちの返事も待たずに吸い込まれるようにテンペストの街へと歩き出した。
ケンヤが恐る恐る上げた声に、二人は脚を止めた。
「あ、あの……! 俺たちを助けてくれて、ありがとう! お姉さんたち、怪我はないか!?」
無骨だが真っ直ぐなケンヤの感謝の言葉に、シアンはハッとしたように目を見開いた。
彼女の瞳から刺々しい冷たさがすっと消え、本来の優しく柔らかい少女の光が戻る。
彼女たちは決して血に飢えた狂戦士でも、無差別な破壊者でもない。
ただの優しかった普通の人間に過ぎないのだから。
シアンは膝を折り、土で汚れたケンヤの頬をそっと綺麗な手ぬぐいで拭った。
「……怖がらせてごめんなさいね。大丈夫、怪我はないわ。あなたたちも、怪我はない?」
その手は驚くほど温かく、声には小さな子供を気遣う慈愛が満ちていた。
ルミネもまた、大剣の柄から手を離すと怯えていたアリスとクロエの前にかがみ込み、優しく頭を撫でた。
「ごめんね、大きな声を出しちゃって。もう危険な魔物はいないから、安心していいよ。……男の子、友達を守ろうとして偉かったね」
ルミネに微笑みかけられたゲイルは、緊張をほぐしながらも胸を打たれた。
二人が纏う圧倒的な強さの裏にあるのは恐ろしい悪意などではなく、深く澄んだ「優しさ」そのものだったからだ。
「うん……ありがとう、お姉ちゃんたち! すごく強くてかっこよかった!」
クロエが嬉しそうに微笑むと、シアンの胸がキュッと締め付けられた。
(ああ……この子たちにも、帰りを待つ家族や大切な人がいるんだわ)
自分たちから奪われた温かな日常。
それを享受している子供たちを傷つけるつもりなど毛頭なかった。
二人が憎んでいるのはただ一人――自分たちの愛する人を殺し、未来を奪い去った、あの魔王だけなのだから。
「さあ、早く街にお帰りなさい。日の暮れる前にお家へ帰るのよ」
シアンはケンヤたちの背中を優しく押し、立ち上がった。
「お姉さんたちはテンペストに行くの? だったら案内するよ! リムル先生の街なんだ!」
ケンヤが無邪気に差し伸べた手に、シアンとルミネの表情がわずかに陰る。
だが子供たちに不安を与えないよう、ルミネは静かに微笑んで首を振った。
「ううん、大丈夫。場所は分かっているから。……あなたたちは、その『先生』とやらを大切にしてあげなさいね」
「うん! リムル先生はすごいやつなんだ!」
子供たちは手を振りながら、走って街の門へと向かって行った。その楽しそうな後ろ姿をシアンは愛おしそうに、そしてどこか悲しげに見送った。
胸元のペンダント――亡き父が最後に握りしめていた四つ葉のシロツメクサの形見をギュッと握りしめる。
「……行きましょう、ルミネ。あの子たちの笑顔を壊すつもりはないわ。でも……私たちの時計を止めたあの存在だけは、絶対に許せない」
「ええ、シアン。あの子たちに免じて、街を傷つけるのはやめましょう。ただ、リムル=テンペスト……彼一人とだけ、決着をつける」
心優しいが故に、復讐の炎を途絶えさせることができない二人。
二人は街の住人や子供たちに決して危害を加えないという静かな誓いを胸に、ただ一人の「仇」が待つ中央館へと、足を進めた。
「おいおい、お前たち! 街の外に出るのはいいが、あんまり遠くまで行くなよ? 報告を受けて心配したぞ」
テンペストの門の前。青銀の髪をなびかせ、心配そうに子供たちへ駆け寄ってきたのはリムル=テンペストその人だった。
「リムル先生ー!」
「あのね、すごい魔物が出たんだけど、このお姉ちゃんたちが助けてくれたんだよ!」
ケンヤたちが誇らしげに振り返り、二人を指差す。
その瞬間、シアンとルミネの視線がリムルに固定された。
(――あいつだ)
胸の奥で、ドロリとした灼熱の感情が渦を巻く。
あの日、愛する人の命を一瞬で奪い去った魔王。目の前にいるのは、あまりにも小柄でどこにでもいそうな青年の姿をした悪魔だった。
殺気と怒りで視界が赤く染まりそうになる。しかし、次の瞬間――二人の本能が警鐘を鳴らした。
(……何……この重厚すぎる存在感は……!?)
リムルが纏う、底知れない魔力。
隠そうとしても溢れ出る、神にすら等しい圧律。どれほど訓練を重ね、常人を超越した力を手に入れた二人であっても目の前のスライムが「完全に次元の違う怪物」であることを肌で理解させられた。
今ここで殺意を剥き出しにすれば、子供たちを巻き込む。そして何より今の力で無策に挑めば、一瞬で封じられて終わる。
(落ち着け……息を整えろ……! ここで怒りに飲まれたら父さんの無念も、ハルトさんの無念も晴らせない……!)
シアンは爪が皮膚に食い込むほど拳を握りしめ、深く息を吐いた。
ルミネもまた、大剣を握りそうになる手指を固く押し留め、胸元で十字を切るように平常心を装う。
二人は感情を完全に押し殺し、かつて町で暮らしていた頃のような淑やかで優しい「ただの人間」の仮面を被った。
「……初めまして、街の治める方。子供たちが無事で何よりでした」
シアンは胸元のシロツメクサのペンダントをそっと服の中に隠すと、優雅にスカートの裾を持ち上げ完璧な礼を執った。
その声には、一切の刺も殺気も混ざっていない。
「私はシアン。こちらはルミネ。旅の途中でこの子たちが襲われているのを見かけて、お節介を焼かせていただきました」
ルミネもまた、静かに頭を下げる。
「突然押しかけて申し訳ありません。街の立派さに感心して少し見学させていただこうかと……」
リムルは二人の完璧な挨拶に一瞬目を細めた。
シエル(神智核)からの『警戒対象:規格外の魔力量を隠蔽中』という脳内アナウンスを察知しつつも、子供たちを助けてくれた二人の「心の優しさ」と「必死に抑え込んでいる哀しみ」を感じ取り、柔らかな笑みを浮かべた。
「ああ、俺はこの街の代表をやっているリムルだ。子供たちを助けてくれて本当にありがとう、シアンさん、ルミネさん。命の恩人を門前払いするわけにはいかないな。良ければ街でゆっくりしていってくれ。最高のご馳走を振る舞うよ」
「……お気遣い、感謝いたします。リムル様」
「様は付けなくていいぞ」
「では······リムルさん」
仇である男から向けられる親切と、その圧倒的な強さ。
二人は微笑みを崩さぬまま静かに、そして深くテンペストの土を踏みしめた。
復讐の刃を研ぎ澄ますための長く静かな戦いがここから始まるのだった。
テンペストでの生活は、思いのほか穏やかで、そしてどこまでも残酷だった。
シアンとルミネは冒険者として登録し、街の周辺の魔物退治や依頼をこなす日々を送り始めた。
二人の確かな腕前と気さくな人柄はすぐに評判となり、街の人々から一目置かれる存在になっていく。
「シアンおねえちゃん、ルミネおねえちゃん! 今日も依頼の帰り!?」
ケンヤたち子供たちは、すっかり二人を姉のように慕っていた。訓練の合間にやってきては「技を教えて」「昔の話を聞かせて」と無邪気にまとわりつく。
かつて故郷で弟たちに見せていたような、心からの優しい笑みがシアンの唇からこぼれる。
「コボルト族の焼き立てパン、持ってきましたよ! お二人さん、いつも街のためにありがとうねぇ」
商店街を歩けば、魔物の住処だったとは思えないほど温かい笑顔で住人たちが声をかけてくる。
(みんな、良い人たち……。この街は、本当に温かくて優しい……)
だからこそ胸の奥が張り裂けそうになる。
住人たちの笑顔を見れば見るほど、子供たちの無邪気な笑い声を聞けば見るほど、底知れぬ漆黒の憎悪が二人の内側でぐつぐつと煮え立った。
なぜ、私たちの故郷(日常)は踏みにじられたのにこの街はこんなにも平和なのか。
なぜ、私たちの愛する人たちは冷たい土の下にいるのに、あいつは「賢君」として慕われ、幸せそうに笑っているのか。
「……シアン、大丈夫?」
宿屋の部屋に戻り鍵をかけた瞬間、ルミネがシアンの震える肩を抱きしめた。
シアンは服の中に隠していた「シロツメクサのペンダント」を強く握りしめ、歯を食いしばっていた。血が滲むほど唇を噛み締め、声を出さずに涙を流す。
「……忘れたくないのに、ルミネ。街の人に『ありがとう』って言われるたび、あいつの顔が浮かぶの。あいつを殺すためにここに来たのに……この温かさに毒されてしまいそうになる自分が、恐ろしいの……!」
「大丈夫、シアン。忘れてない。絶対に忘れない……」
ルミネもまた、大剣の柄を固く握りしめた。
恋人のハルトと描いていた叶うはずだった未来。それを奪ったのはあのアイスブルーの髪をした優しい顔の魔王だ。
どれだけ街が平和でも、どれだけ住人が親切でも、あの日流れた血の冷たさは消えない。
二人は毎夜、人知れず街から離れた荒野へと向かい血のにじむような修練を重ねた。
復讐の炎を絶やさぬよう、己の憎悪を研ぎ澄ますように。
「もっと……もっと力を。あいつを……リムル=テンペストを打倒する強さを……!」
昼は誰もが愛する「優しき冒険者」として子供たちに微笑み、夜は仇を屠るための「修羅」として刃を研ぐ。
表面上の穏やかな平和の裏で、二人の内なる憎悪はだれにも気づかれることなく静かに、そして強固に膨れ上がっていった。
執務室の窓から夕日に染まるテンペストの街並みを眺めながら、リムルは深く、重い息を吐き出した。
(やっぱり、そうだったか……)
初対面の日、門の前で二人と出会った瞬間。
子供たちに向けられた温かな眼差しの裏で、ほんの一瞬だけ――呼吸すら止まるほどの鋭い殺気が自分に向けられていた。
二人は完璧に隠したつもりだったろうが、リムルの感応能力とシエルの解析の目を誤魔化すことはできなかった。
『解。報告いたします。冒険者シアン、およびルミネの素性調査が完了しました』
脳内に響くシエルの無感情な声。しかしその報告内容はリムルの胸を強く締め付けるものだった。
『両名の出身地は旧ファルムス王国。シアンはファルムス軍兵士の実の娘。ルミネは同軍新人兵士ハルトの婚約者であることが確認されました。――二人は、あの日あなたが「神之怒」を行使した戦場において命を落とした兵士の遺族です』
脳裏にあの日の記憶が鮮明に蘇る。
仲間を殺され、怒りに任せて敵軍2万人を殲滅したあの日。
頭上からの光線に貫かれ、目の前で命を奪われた若い兵士――ハルト。
そしてその死を目撃し、胸を撃ち抜かれながらも故郷の家族の安全を乞うた父親――。
『神様はね……意外と小柄だったよ……』
最期にそう思い遺し、リムルの手から渡された四つ葉のペンダントを握りしめて息絶えた男の姿がシアンの胸元で揺れていたあのペンダントと重なった。
「そうか……。あの時の、あいつらの家族だったのか……」
リムルは肘を突き、顔を覆った。
二人がなぜ、これほどの絶大な力を手に入れてテンペストにやってきたのか。
なぜ街の人々や子供たちにはどこまでも優しく接しながら自分にだけ殺気を押し殺しているのか。すべての辻褄が合ってしまった。
彼女たちは無差別に街を壊しに来た暴虐な復讐者ではない。
ただ自分たちの「大切な人」を奪った仇を討つために血の滲むような思いで強くなり、この街に踏み入ってきたのだ。
「なぁ、シエル。俺がやったことは……仲間を守るためだった。後悔はしてない。だけど……」
『解。個体名リムル=テンペストの行為は、当時の状況において国家と仲間を守るための最適解でした。しかし、彼女たち視点において、あなたが奪った者であるという事実もまた不可逆です』
「ああ、分かってるよ……」
正論なんて彼女たちには何の慰めにもならない。
「そっちが先に攻めてきたからだ」なんて言い訳は、父を失った娘と、未来を奪われた恋人の前では愚弄でしかないのだから。
窓の外ではシアンとルミネがケンヤたちに笑顔で手を振り、宿屋へと戻っていく姿が見えた。
どれほど温かい笑顔を浮かべていても、夜になれば部屋で一人、自分への憎しみに涙を流しているのだろう。
「……殺しに来るなら、いつでも来い」
リムルは静かに呟いた。
「逃げもしないし、言い訳もしない。だが……あいつらの命だけは俺が絶対に守る。あの父親と交わした約束だ」
街の平和な灯りが点り始める中、リムルは二人から向けられる終わりのない「罪と憎悪」を一人静かに引き受ける覚悟を固めていた。
リムルが一人罪の重さに沈んでいたその頃、二人が暮らす宿屋の暗い一室では、小さな魔導具がかすかな光を放っていた。
「……ファルムス王国軍2万は、暴風竜ヴェルドラの復活による天災で全滅した」
それが表向き公表されている「公式な歴史」だった。
世間も、そしてリムル自身も二人は「天災で家族を失った被害者」であり、真実を知らないままテンペストへ行き着いたのだと思っている。
しかし――二人は知っていた。
シアンはテーブルの上に、古びた手帳と一枚の羊皮紙を静かに広げた。
『暴風竜などではない。天から降り注いだ無数の光の柱……あれは魔王リムル=テンペストの魔法だ。奴は一人で我が軍を殺戮し、その魂を喰らって魔王へ進化を遂げたのだ』
ルミネが固く拳を握りしめる。
「ヴェルドラの所業……? 冗談じゃない。自分を英雄に見立て、私たちの家族の死を『天災』の一言で片付け、自分は平和な街の慈悲深い主として君臨している……!」
「……ええ」
シアンは胸元のペンダントを握りしめた。
あのペンダントは、父親の遺品として故郷に届けられたものだった。
しかし父親の指紋と最期の魔力が微かに残留していたそれを、シアンが後に覚醒させた解析能力で手繰り寄せた時――あの日、戦場で何が起きたのかの「記憶の断片」が、鮮明に脳裏へ流れ込んできたのだ。
光の雨に貫かれて即死したハルト。
胸を撃ち抜かれ、泥の中で這い回りながら自分の安全を乞うた父親。
そして宙から舞い降り、ペンダントを父親の手に戻しながら冷たく言い放った、小柄な魔王の姿。
『(家族を殺す)必要がないし、やる理由もないから心配するな』
「……あいつは、父さんの最期に立ち会っていた」
シアンの目から一筋の涙が頬を伝って落ち、手記の紙を濡らした。
「父さんの命を奪っておきながら……父さんの最期の願いを聞いて『見逃してやった』気になっている。私たちの命が助かったのは、あのアジサイのような髪をした魔王の『気まぐれな慈悲』のおかげだったのよ……!」
憎い。恐ろしいほどに憎い。
自分たちの命も、ささやかな幸せも、すべてあの魔王の手のひらの上で弄ばれていたのだという事実。
そして何より残酷なのはテンペストで過ごすうちに知ってしまった「リムル=テンペスト」という男の正体だった。
彼は決して血に飢えた悪魔ではなく、住人を愛し、子供たちに優しく、理想の国を作り上げた「善き指導者」であるという事実だ。
「なぜ……なぜあんな奴が、あんなに温かい目をして子供たちを見るの……!? なぜ、父さんを殺した男がこんなにも人から愛されているの……っ!?」
シアンは声を押し殺して泣きじゃくった。
仇が完全な「悪」であればどれほど救われただろう。
だが、あの男は仲間を守るために父親たちを殺し、そして残された自分たちを「約束」通り見逃したのだ。
「シアン……」
ルミネがシアンを強く抱きしめた。
ルミネの瞳にも静かな狂気と絶望の炎が宿っている。
「魔王リムルがどれほど善人を気取ろうと関係ない。私たちの未来を奪った事実は消えない。……あいつが『天災』のせいにしてみせたのなら、私たちもただの『災厄』として、あいつの首を刈り取りましょう」
「ええ……絶対に許さない。私たちが生きてきた証のすべてを懸けて……あいつに引導を渡すわ」
リムルは「二人が真実を知らない」と思っている。
二人は「リムルがすべてを秘匿している」と思っている。
すれ違った真実と互いに隠し持った覚悟。
温かな街の明かりの裏側で悲劇の歯車は静かに、しかし確実に噛み合い始めていた。




