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ショートストーリー⑪ 個性は大事?

原作小説20巻を読んでいて思ったことを、ルミネに代弁してもらいました。

(リムルside)


 ある日の休日。

 俺は街の喫茶店で、のんびりお茶を楽しんでいた。最近、忙しい日が続いていたから、こういう平和な日常は本当に貴重だ。



「あ、リムル様も来ていらしたんですか」


 そう言って、店に入ってきたのはフラメアだ。他に、シアンとルミネの姿もある。


「こんにちは、リムルさん」

「······リムルさんも食事?」


 二人が挨拶したので、俺も笑って返した。なんだかんだ、二人もずいぶん、この国に馴染んできたようで何よりだ。


「ああ、せっかくだから一緒に食うか? 俺一人だと、少し寂しいと思ってたんだよ」


 一人で楽しむのもいいが、食事は皆で囲んだ方がいいものな。


「······リムルさんの奢り?」

「ルミネ、何、図々しいこと言ってるのよ!」


 調子の良いことを言うルミネに、シアンが突っ込む。

 ちょっと前まで、二人が俺を本気で憎んでいたとは思えないくらい、和やかな雰囲気だ。


「ああ、構わないぞ。丁度良いかもしれないしな」


 ルミネの俺の奢り云々は、冗談で言ったつもりだったようで、俺が頷いたのを見て、少し意外そうにしていた。


「······丁度良いって、何のこと?」

「実は今、店の厨房でシオンが料理の新作を作ってるんだよ。味見係は多い方がいいと思ってな」


 今日はシオンが新作を披露するということで、ここに来ていたんだ。

 シオンも、俺だけじゃなくて他の人の意見も聞きたいだろうしな。


「え、シオンさんの······?」

「シ、シオン様の新作······ですか?」


 それを聞いて、シアンとフラメアが引きつった表情をうかべた。

 フラメア達もシオンの手料理を何度か食べたことがあるようだからな。

 何を思っているのか、気持ちはよくわかる。


「······シオンの新作、それは楽しみ。是非、食べたい」


 それに対して、ルミネは表情は変わっていないが、シオンの新作と聞いて、目を輝かせているように見えた。

 ルミネはシオンの料理に対して、苦手意識などは持っていないみたいだからな。

 寧ろ、本気で期待しているようだ。




「お待たせしました、リムル様! おや、フラメアにあなた達も来ていたんですか?」


 そう言っている内に、シオンが料理を持ってやってきた。

 様々な料理が次々と並べられ、やはり、俺一人では多すぎるだろうという量だ。



「とても美味しそうです」

「これ、シオンさんが作ったんですか?」

「当然です。見ればわかるでしょう?」


 フラメアが感嘆の声を漏らし、シアンが疑問を口にする。

 それに対してシオンがドヤ顔で答えた。

 いや、以前のシオンの料理を食べたことある者なら、正直、見てもわからないと思うぞ。


 テーブルの上に並べられた料理の数々は、どれも見た目も匂いも食欲をそそる、美味そうなものばかりだ。

 シアンが疑問に感じるのも無理はない。

 以前のシオンの手料理は、禍々しい見た目で、一目では料理とわからないようなものだったからな。


 だが、ルミナスや神聖法皇国ルベリオスの面々、そしてダグリュールの息子であるダグラ達の涙ぐましい活躍により、ついに改善されたのだ。

 今では見た目も味も、そして食感も文句なしのものとなっていた。


「とても美味しいです、シオン様!」

「本当、すごく美味しいわ······」


 さっきまでの引きつった表情は完全に消え去り、フラメアとシアンがシオンの料理を絶賛する。

 もはやシオンの料理は、シュナにも負けず劣らずだからな。

 俺としても、嬉しい限りだ。


「························」


 だが、ルミネだけは不満そうにしていた。不満、というより何かが納得いかないという感じか?

 俺も食べたが、特に問題があるように思えないが。


「······おいしい、けど······何か違う」

「私の料理に何か不満が? ちゃんと毒見もしたし、何も問題ないはずだが」


 シオンもルミネの様子に気付き、何がいけないのか問う。


「······確かに、味も見た目も悪くない。寧ろ、すごくおいしいと思う。けど、以前のようなシオンの個性がなくなっている」


 個性というのは、あのおどろおどろしい、見た目のことを言っているのか?

 まあ、それしかないと思うが。


「······以前の料理は、一目でシオンの作ったものだとわかった。でも、これは言われないとわからなくなってる。シアン達が疑問に思ったように」


 確かに以前の料理は、シオンが作ったと一発でわかるし、忘れなくなるくらいのインパクトがあったが······。


「······見た目が整って、万人受けするようになったかもしれない。けど、せっかくのシオンの個性という強みがなくなってる。シオンはそれでいいの? その他大勢の人は満足させられるかもしれないけど、誰でも作れるような個性がなくなった料理で、本当にリムルさんを満足させることが出来るの?」


 普段、あまり口数は多くないはずのルミネが、めちゃめちゃ饒舌に話している。

 いやいや、料理は万人受けしてこそだろうし、そもそも俺は大満足していたからな?


 それに、今のシオンの料理の腕はプロ級で、誰でも作れるってわけじゃないと思うぞ?

 とはいえ、魔国連邦(テンペスト)にはシュナを初め、お菓子作りはヨシダさんといったように超一流の料理人が勢揃いしている。

 ルミネ自身も、自覚はないがプロ級の腕前だ。ルミネの中の、普通のハードルはかなり高いのかもしれない。


 ルミネは、そうそうウソや冗談を言うような性格ではないし、本当に以前のシオンのあの料理を気に入っていたみたいだな。

 一体、どういう感性をしているんだ?

 普段のルミネは、そんな特殊な感性を持っている感じはないが。

 ハルトも料理の好みは普通だったし。



 そういえば、ルベリオスでもシオンの料理を再現しようとした奴がいたとか言っていたな。

 面白半分でやったのかと思っていたが、まさかシオンの料理を本気で気に入っていたからだったのか?

 ルミナスが自身の国の食文化に、悪影響が出るかもしれないという危機感を持つのも、わかる気がしてきた。



 そんなルミネの本心からの情熱(?)がシオンに伝わった、伝わってしまったようだ。


「申し訳ありません、リムル様! 私もまだまだでした! これからも精進してまいります!」

「あ、おいっ、シオ······」


 俺が止める間もなく、シオンは店を出ていってしまった。

 どこに行って、どう精進するつもりだ?


 そんなシオンを、ルミネは良いこと言ったとばかりに満足気な様子で見送った。



「ル、ルミネさん······」

「ルミネ、あなたね······」


 満足そうにしているルミネを、何とも言えない表情で見つめるフラメアと、ジト目で睨むシアン。


「······どうしたの、フラメア、シアン? そんな変な顔して。リムルさんまで」


 そして、ルミネは俺達が何故、こんな表情をしているのか、まるでわかっていないようだ。

 ルミネとしても本心を伝えただけで、悪気も悪意もないのだろう。

 だが、これは放って置くとマズいことになる。








 その後、シオンを何とか説得して、以前のような料理に戻ることは阻止出来た。

 危うく、ルミナス達の努力が無になるところだった。


 ルミネは残念そうにしていたが、魔国連邦(テンペスト)の食の平和の為にも、ガマンしてもらおう。



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