ショートストーリー④大盗賊団殲滅~後編~
後編はシアン視点です。
(シアンside)
ルミネと一緒に冒険者の仕事を終えた帰り道で盗賊に襲われている人達に遭遇した。
盗賊はすぐに無力化できたけど、まだまだ残党がいるらしい。
それも百人以上は。
あたしとルミネは残りの盗賊達を殲滅することにした。捕らえた盗賊達の後始末は助けた人達に任せて、あたし達は盗賊団のアジトに向かった。
口では威勢のいいこと言ってたけど、少し闇魔法とか使って尋問したら、あっさり口を割った。
アジトはこの近くの山脈の中にあるらしい。
ちゃんと闇魔法で口を割らしたから確かな情報よ。
ただ、思った以上に険しく広い山脈だった。
これなら大盗賊団がアジトを作っても簡単には見つからないと思う。
ま、隅々まで探せばいいだけなんだけど。
「ブラッド·サーヴァント」
あたしは闇魔法でスライムのような生物を大量に作り出す。
赤いのやら黒いのやら、数え切れないくらい。
このコ達は攻撃能力はない代わりに相手の動きを封じたり、偵察にも役に立つ。
このコ達が見たものはあたし自身に情報として伝わる。初めて使った時は数が多すぎると、あまりに情報が集まりすぎて頭がパンクしそうになったけど······
今ではこれくらいは余裕だわ。
「さあ行きなさい! 盗賊の根城を見つけるのよ」
あたしの指示でスライム達が一斉に散った。
色々な景色があたしの頭の中に映る。
意外と早く見つかったわ。
奥の方の洞窟をアジトにしているのね。
見張りが何人か確認できた。
それと······どうやら盗賊だけじゃなく拐われてきた人も何人かいるみたい。
アリスやクロエくらいの小さな子がいるわ。
「見つけたわルミネ、行くわよ」
「······ん、わかった」
あたし達はすぐにアジトの洞窟に向かう。
アジトにいる盗賊の数は······50人くらい?
思ったより少ないわ。
多分残りはさっきの奴らみたいに一般人を襲いに行ってるのね。
出来れば全員捕まえたいけど、今いる奴だけでも捕らえないとね。
盗賊のアジトに着くと入り口付近に三人くらいの見張りがいた。
見張りと言っても暇そうに雑談してるけど。
雑談の内容は聞くも堪えない下品なものだった。
盗賊に間違いないわね。
スライム達を使ってそいつらを拘束する。
「な、なんだてめえらは!?」
動けないくせに威勢のいいこと。
うるさかったから闇魔法で意識を奪う。
殺してないわよ?
見張りを無力化したあたし達はアジトの中に侵入した。
中は広い上に複雑な構造になっている。
多分侵入者対策のためね。
あたし達には無意味だけど。
「いやっ······来ないでっ!?」
「へへっ······精々鳴いて楽しませろよ」
奥の方からそんな声が聞こえてきた。
「よくそんな子供をヤる気になるよな。······俺はあと10年は成長してねえとヤる気にならねえぜ」
「俺はガキを痛ぶってヤるのが好きなんだよ」
ゲスい会話ね。
下品な笑みをうかべた男が小さな女の子に迫っている所だわ。
ここにいるのは二人だけみたいね。
先制攻撃で男に魔法を放つ。
「げあっ!?」
片方の男の意識を奪う。
女の子に迫っていた男は慌ててこっちを見た。
「なんだ!? 女······? どこから入り込みやがった!」
男は下半身丸出しの姿だった。
······こっちを向くな。
汚いモノを見せるな。気持ち悪い······
ルミネも嫌そうな顔をしている。
こんな奴をまともに相手したくない。
問答無用で魔法で意識を奪って隅の方に捨てた。
「大丈夫? 怖かったでしょ」
「う······うああっ!!」
あたしが手を伸ばすと、女の子は安心したのか泣きだしてしまった。
アリスと同じくらいの子ね。
こんな子を拐って襲おうとするなんて最低な奴らね。
「侵入者か!? ······女?」
騒ぎに気付いて盗賊達が集まってきた。
アジトにいる奴らは全員集合って感じね。
手間が省けて助かるわ。
「女二人で俺らのアジトに侵入したのかよ。舐められたものだぜ」
「侵入したんじゃないわ。殲滅しに来たのよ」
あたしの言葉に盗賊達が笑いだす。
「ぶはははっ! たった二人でかよ! とんだ馬鹿女だな。だが顔はまあまあじゃねえか。後ろの女なんかは上玉だな」
確かにあたしの顔は平凡かもしれないけど、こいつらに言われるとムカつくわね。
というかルミネと比べるな。
ルミネは無自覚だけど、あたしと違ってかなりモテるのよ······
まあ、ルミネはハルトさん以外の男には一切興味を持たないけど。
「ブラッドソルジャー」
さっさと殲滅しちゃいましょう。
あたしは闇魔法でゴーレムを作り出す。
全部で10体。
もっと作れるけど、これだけいれば充分でしょう。
この程度の奴らならルミネに強化魔法を使ってもらう必要もないわ。
あたしが作り出した血の戦士達が盗賊達を攻撃していく。
一応殺さないように命令してあるわ。
「な、なんだこいつらは!?」
「なんだか知らねえがやっちまえ!」
盗賊達が応戦するけど、このゴーレムは魔国連邦の迷宮の階層守護者と同じくらいの強さなのよ。
たかがチンピラごときに勝てる相手じゃないわ。
······と思ったけど何人かの男が善戦している。
2体倒されたわ。
意外と強いわね、コイツら。
「······ダークプリズム!」
そんな男達もルミネの魔法であっさり拘束された。
でもあたしのゴーレムがやられたのは驚いたわ。
そんな実力があるなら盗賊なんかやらずに真面目に生きればいいのに。
まあ、多分性格に問題があるんだろうけど。
「ブラッドナイト」
追加でさらに10体ゴーレムを作ったわ。
今のあたしなら300体くらいなら一気に作れるわよ。
「······カースリミットブレイク」
ついでにルミネに強化魔法をかけてもらったわ。
最初からこうしていればよかったわね。
横着はするものじゃなかったわ。
さすがに強化魔法で強くしてからは一方的になったわ。盗賊が一人、また一人と倒れていく。
「待て女! こいつの命が惜しけりゃ、そいつらを止めろ!」
盗賊の一人が小さな子に短剣を突き付けながら言う。
さっき助けた女の子とは別の子ね。
短剣を突き付けられた子は、今にも泣き出しそうな顔をしている。
「止めたらその子を解放してくれるのかしら?」
ま、するわけないわよね。
でも乗ってあげるわ、その要求に。
あたしはゴーレム達を止めた。
ゴーレム達は溶けるように消えていく。
「これでいいかしら?」
「へへっ、じゃあ次は武器を捨てろ!」
要求に乗ったら調子に乗ってきたわ。
ま、いいけどね。
あたしとルミネは持っていた杖を目の前に投げた。
人質をとった盗賊は気色悪い笑みをうかべた。
「野郎ども! 今だ、殺っちまえ!」
男の合図で周囲の盗賊が一斉に襲ってきた。
ここまで予想通りだと呆れるわね。
盗賊達は短剣や斧を手に攻撃してくる。
あたしとルミネは素手で盗賊達の武器を受け止めた。
「ば、化け物かコイツら!?」
失礼な奴らね。
あんたらなんかゴーレムも武器も必要ないだけよ。
怯んだスキに人質を救出する。
奥の方にも拐われた人が何人かいるみたいね。
「ルミネ、ここはあたし一人で充分よ。あなたはその子達と奥にいる人達を救助してあげて」
「······ん、わかった」
ルミネは素直に頷き人質になってた子達を連れて奥に向かった。
さて、あたしはコイツらの始末ね。
······あれ? なんか人数が増えてるわ。
「へへっ······仲間を全員呼び寄せたぜ。さすがにこの人数を相手には出来ないだろ? この中にはAランクに届く実力者もいるぜ。化け物女が······精々いい声で鳴けよ······!」
確かに100人以上はいそうね。
ということはこれで盗賊達は全部ってわけね。
探す手間が省けたわ。
――――――ドクンッ
「化け物、ね······ならお望み通り化け物の姿で相手をしてあげるわ」
――――――――ドクンッ
あたしは血を操る闇魔法で自分の身体を作り変えていく。
リムルさんと何度も検証して、この力を使いこなせるようになったのよ。
短い時間なら正気を失うことはないし、元に戻ることも出来るわ。
「ふフフ······アはハははッ!!!」
「な、なな······」
「ほ、ほ、本当にば、化け物!?」
異形の姿に変わるあたしを見て盗賊達の顔に恐怖の色がうかぶ。
ああ······この姿になると本当に気分がいいわ。
解放的というか、生まれ変わった感じって言うのかしら?
まあ、だから長く変わってると危険なんだけどね。
「サア、アナタ達ノ言ッタ言葉ヨ······精々イイ声デ鳴キナサイッ!! アハハハハハッ!!!」
さあ、蹂躙劇の始まりよ!
その日、国と国を跨いで幅広く活動していたレジック大盗賊団が壊滅した。
捕らえられた盗賊達は強い恐怖を浴びたらしく、全員恐慌状態だったという。
殺さないように手加減してあげたってのに、本当に失礼な奴らよね。