エピローグ
遂に完結です!最後までお楽しみ下さい。
灯夜は慣れ親しんだ道を歩いていた。もう何年もこの道を通っていない気がする。
先日に受けた傷がまだ痛むが、我慢できないほどではなかった。入院することも勧められたが、それも断った。病院内の独特のにおいは性に合わない。
鏡の世界から脱出した灯夜は約束通り、静流を家まで送り届けた。
手を繋いでいたことで照れていたのか、静流は口を開かなかった。灯夜も特に話すこともなかったので、黙っていた。雰囲気を楽しんでいた、とも言えるが。
静流を送り届けたはいいが、その後が大変だった。静流の母である御風には泣かれ、感謝の印にと夕食に誘われ、手土産まで持たされそうにもなった。ついでに言うと、無理やり部屋に担ぎ込まれ、神凪家直属の医療チームに応急処置をされたことは、思い出したくもない出来事だ。
ただ、自分が訪れたことで、家の中にはギクシャクした空気が流れた。その時、静流の父やその他の親族の者が、いなかったのは幸いと言える。
帰ろうとすると、御風に引き止められ、帰してくれない上、帰り際になると、こんなことまで言ってきた。
「やっぱり、灯夜君は、約束を守ってくれるんですね。見込み通りです。困ったことがあったら、またお願いしますね」
静流に聞こえないように耳打ちする始末である。
なんだか、この人には敵わない。そんな気がしながら、灯夜は家路に着いたのだった。
そして、現在に至っている。
坂の途中で、人影が立っていた。その人影は誰かを待っているようだ。近くまで行って、その人影が静流だと分かった。
「おはよう」
「おはよ」
灯夜も挨拶する。静流は灯夜の隣を歩いてきた。灯夜は静流の合わせるよう、歩調を緩めた。
その日は二人で登校することになった。
なぜ、待っていたのかは分からなかったが、気にはしていない。
二人とも口数少なく、会話が弾んでいるとは言えなかったが、それでもいいと思った。不思議な気分だ。
二人が教室に入る頃には、ほとんどの生徒で席が埋まっていた。いつも通りの風景かと思ったが、そうでもないらしい。
教室には、ささやかな活気があった。以前まではこんなもの、天地がひっくり返っても見れないものだった。
生徒たちは楽しげに話をし、笑顔もちらほら見える。そんな中を通り抜け、灯夜と静流は席に並んで座った。
鞄の中身を机に押し込んでいると、知った声が聞こえてくる。
「月代!無事に戻って来れたんだな!」
声の主は円だった。相変わらず元気そうである。
「円。ちゃんと話す前に挨拶しなきゃ」
いつもと同じく、夕子が円を注意する。そして、こちらを向いた。
「おはよう。月代君。……それに神凪さん」
夕子は実にさわやかだった。
静流は驚いていたが、挨拶はしていた。
「本当によかったよ。二人とも無事で」
「ホントだ。それと、他の連中も無事だ。……おーい!ゆかり!みんなもこっち来いよ」
円に従い、やってきたのは、ゆかり、犬神、早苗だった。
「ほら、私たち神凪に言うことあるだろ。今、言わないと、どんどん言いづらくなるからな」
全員が横に並び、静流の前に立つ。
「あの時はお前にひどいことして、ごめんな。神凪。許して欲しい」
「私もごめんなさい。もう、あんなこと絶対にしないから」
「……私もしないから。だから、ごめん」
円、夕子、が頭を下げた。
早苗は罰が悪いらいしく、視線が泳いでいる。
「ほら、二人も言って」
夕子に促されて、渋々従った。
「……僕が悪かったよ。ごめん」
犬神は小さくそう言った。口は悪いが、根は素直のである。
「あの、その……」
ゆかりは全員の視線を浴びている。
「わ、分かりました!謝ればいいんでしょう!謝れば」
咳払いを一つしてから、
「神凪さん。すいませんでした。もう、あんなことはしません。だから、その、許してください」
そう言って、小さくなった。謝ることに慣れていなかったのだろう。落ち着きがまるでなかった。
静流は戸惑っていたが、全員の気持ちを知り、微笑む。
「ありがと。それと私の方こそ、ごめんなさい」
安心したのか、空気が和む。
灯夜は静流を見て、小さく笑って、肩をすくめた。それを見た静流もまた笑う。
そんなところにまた一人の訪問者が現れ、灯夜に耳打ちしてきた。
「おい、灯夜。一体、これはどうなってんだ。気味が悪いぞ」
「はは、確かにそうかもね。でも、いいんじゃない。こういうのも、たまにはさ」
社は考えてから、首を縦に振った。
「それもそうだな。確かにいいかもな。……灯夜がやったんだろ?これ全部」
「いや、違うよ。僕はなにもしてない。……そういえば、あの時は助けてくれて、ありがと」
「……ああ、あの調べた時の話か。いいよ。これ見れば、役に立てたって分かるしな」
社は得意げに笑った。
灯夜は窓を開け、朝の新鮮な空気を吸った。
自分は変わり、甘くなった。そんなことをふと思う。でも、それでもいいと思った。
頬を撫でる風が気持ちよかった。自分の中に新しい風が吹く。これからの日々は変わっていく。そんな気がした。
外は先日までの雨が嘘のような快晴だ。突き抜ける青い空がただ、ただ広がるばかりだった。
長々しましたが、最後までお付き合い頂き本当にありがとうございました!感謝感激です。
え〜、毎度の事なんですが、意見や感想があれば、ぜひぜひ送って下さい!かなり嬉しいので。
それと、今後の参考にもなります。
本当に読んで下さった方々には無限の感謝を。
それでは、またどこかで会いましょう。