【10】 彼女の唇を吸ってたろ!
数日後の夜。丹沢のアパートで、二人は缶ビールを傾けていた。
丹沢「いやぁ、この前の爽香ちゃんには驚かされたな」
由利「本当にすごかったよ。あんなに真剣に水の中でグルグル回って……俺なら途中で三途の川が見えてるね」
丹沢「命がけだもんな。ボートレースの世界は、4着以下は賞金ゼロなんだろ? 厳しすぎるよ」
由利「役所に来て座ってるだけで給料もらってる職員に見せてやりたいよ。なぁ、あの二人とかさ」
丹沢「間違いない。給料泥棒だな」
ひとしきり愚痴をこぼした後、由利がふと真面目な顔で丹沢を見つめた。
由利「……ところで丹沢さん。この前の人工呼吸の役割分担、なんかおかしくなかったか?」
丹沢「え? 何がだ?」
由利「なんで俺が必死に胸骨圧迫(心臓マッサージ)してて、丹沢さんがマウストゥマウスなんだよ」
丹沢「記憶にございませんな。そんなことあったか?」
由利「しらばっ気れるなよ! 丹沢さん、かなり気持ちよさそうに彼女の唇を吸ってたろ!」
丹沢「『吸ってた』とか人聞きの悪いこと言うな! 応急手当だ!」
由利「ほら、やっぱり覚えてるじゃないか!」
丹沢は気まずそうにビールを煽ると、照れ隠しに咳払いをした。
丹沢「……あの日のことはな、彼女の名誉のために、俺の脳内から永久削除されたんだよ」
由利「なるほど、見事なプログラミングだな」
丹沢「まあ……由利さんの不満も分かる。だから約束するよ」
由利「何をだ?」
丹沢「もし今度、彼女が気を失ったら……次は交代してやる」
由利「よし、約束だからな!」
男ふたりのくだらない約束の乾杯音が、四畳半の部屋に寂しく響いた。
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【後書き】
本編をお読みいただき、ありがとうございます。m(__)m
ボートレーサーとしての崖っぷちの覚悟の爽香、それを見守りどこか抜けたやり取りをする丹沢・由利コンビ、この二者のギャップを大切にしながら、非常にエネルギッシュでユーモアがあり、それでいて勝負の世界の厳しさを書いてみました。
ボートレースでは、わずかコンマ数秒、わずか数センチの差が「賞金ゼロか否か」を分ける過酷な世界です。そんな彼女が恐怖心を克服するための特訓の場が「ラブホテルのプール」でした。
「自分の命は自分が守る、すべては自己責任」 そう言い切る彼女の強い眼差しが、いつか水面でトップを捉え、まばゆい光を浴びる日が来ることを願っています。
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【作者より:応援いただけると嬉しいです!】
ご愛読ありがとうございます! 必死すぎるがゆえに、ラブホテルで「丸太」のように回されることになった爽香。 そして、なんだかんだで付き合いのいい丹沢と由利の「友情」はいかがでしたでしょうか?
「この3人の掛け合いが面白い!」「爽香、次こそは勝ってくれ!」と感じていただけたら、ぜひブックマークや評価ポイントで応援をお願いします! 作者の執筆スピードが、全速ターン並みに加速します。
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