↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LIFE Re plan  作者: ちっこい日の出
中学生編
58/58

57.好きな人の愛する人



 一世一代の大勝負。そんな言葉が頭をよぎるような真剣な表情で、硬く結んだ手をほどいて前に。

 次に紡いだ言葉は、端的だけど気持ちの乗ったものだった。

 

「俺と付き合ってください!」


 彼の名前はなんだったか……確か……


「……ごめんなぁ洋介。ウチ、今は誰とも付き合う気ないんよ……」

 

 あぁ、そうだ。二組の早川洋介君。

 日向の事、好きだったんだ……

 人懐っこい笑顔で誰彼構わず接する彼女を、男の子が憎からず思うのも仕方ないかな。

 

 放課後、日向とともちんと、それぞれ部活へ向かおうとしていたところで、早川君に呼び止められた。

 校舎裏へ呼び出された日向に部活に行くことを告げると、意外にも早川君は「二人もいて欲しい」と言った。

 晴れ晴れとしたその表情を見ると、こうなることも分かっていたみたいだ。


 交友関係が広い日向は、私が知らない人と話していることもある。

 男の子と楽しそうに話しているのを見ると、彼女が色んなものを乗り越えたことに嬉しくなる反面、ちくりと胸が痛む。それを、世間では嫉妬って呼ぶのかな……

 

「やっぱり……好きな人とかいたりするの?」

 

「…………うん」

 

 ほらっ、また。


 彼女のその表情に、私の心がまた少し音を立てる。

 分かりきってることだ。日向の中の一番大きな存在は、私ではない。

 ぽんっと頭に乗せられた手に顔を上げると、ともちんが眉を八の字にして私を慰めてくれていた。

 

「大丈夫だよ……ヒナにとって、いっかちんは特別だから」


「……そうだと……いいんですけど」


 とぼとぼ帰ってくる日向は俯いていて、これじゃあどちらが告白に失敗したか分からない。

 やるせない表情で小さくため息を吐くと、私とともちんの手を握って、悲しそうに溢した。


「洋介……申し訳ないことしたなぁ……」


「でも、スッキリした顔してたよ。分かってたんじゃない?」


「うん……誰とも付き合わへんよーって、言うといた方がええかな……?」


「誰とも付き合わない」日向がそう思っているのは分かっている。そんな彼女を好きになって、絶対に振り向かせるって決めたけど、もうあまり時間が残っていないことに焦りを感じてしまう。


 卒業したら離れ離れになる道を選んだのは私だけど、後一年も一緒にいられない事を思うと、心がざわつく。

 こんなことなら、勉強なんてしなきゃよかった……


 ——好きって言ってくれたけど、本当はどうなんだろ?


「はぁぁ……モヤモヤすんなぁ」


「ふふっ、そういう時は甘いものでも食べませんか?」


 そんなこと考えていると胸がぎゅーってなって、日向のことが欲しくなる。

 どこにも行ってほしくないし、私のものになってほしい。


「土曜日、一緒に出掛けましょうっ」


 焦っていた。いつまで経っても親友のままじゃ、嫌だから。


 

————————————

 


 そう、焦っていた。

 服が決まっていない。

 髪もうねりまくっている。

 こんな日に限って、右目が腫れてるっ!


「あぁぁ……もう出発なのにぃ……」


 濡れタオルで目を冷やしながら、昨晩決めた服をリセットして、再度タンスの中身をひっくり返す。

 あんなに時間をかけて決めたのに、今朝、鏡で見たらなんだか気に入らなかった。


 髪も、何度ブラシを当てても言うことを聞いてくれない。

 もう時間がないのに……泣きそう……

 

 弟の大樹(だいき)に見てもらい、なんとか服は決まった。

 右目の腫れも、とりあえずは落ち着いたと思う。

 お気に入りのローファーのかかとをつぶしながら履いて、ブラシを片手に家を出る。


「大樹、何かあったら電話してね」


「……姉ちゃん、なんか気合い入ってるね」


 呆れ顔の弟を見て、焦る気持ちが少し落ち着く。

 そうだ、今日は日向とカフェに行ってケーキを食べて、二人でゆっくりショッピングだ。


「えへへ……今日は日向とデートなの。いってきます!」

 

 足取り軽く家を出ると、ちょうど真上からの日差しがポカポカと心を暖めてくれた。

 焦ったままだと分かんなかったかな?大樹に感謝しなきゃ。

自転車に乗ったら髪がボサボサになっちゃうから、ちょっと贅沢だけどバスに揺られる。

 窓の外を流れる地元の風景が、なんだかいつもより鮮やかに見える。あぁ、好きだなぁ。


 待ち合わせ場所に着くと、日向はまだ来ていなかった。

 失敗したかもしれない。こんなにドキドキしたまま、あと二十分も待ってなきゃいけないぐらいなら、もうちょっとじっくり服を選べばよかった。


「あれま……一華、早かったんやなぁ」


「えっ!日向、随分はやいっ……」


 一目見て、嬉しくなった。ちゃんとデートだって思ってくれている。

 淡い春色のワンピースに生成りのカーディガンを羽織って、綺麗に編まれた髪は、時間をかけてくれた事が分かる。

 明るめのリップを引いた可愛らしい唇が、彼女の言葉に合わせて動くのが、やけにリアルに映った。


「ごめん、待たせてもうたな」


「……あぃ」


「ふふっ、照れるわぁ……そんな褒めんでも。ありがとっ!一華も、そのピアス可愛いな」


「……あぃ?」


「うんうん、ほな行こっか?」


 間の抜けた私の手を自然にとって、歩くたび跳ねるように揺れる髪が、彼女がご機嫌だって教えてくれる。 


「日向……今日ね、二人で……何かお揃いのもの、買いたいなって……」

 

 私の言葉に小さな右手が一瞬ぴくりと反応した。

 目線を上げると、彼女はほんのり頬を染めて、照れくさそうに微笑んだ。


「何にしよっか!キーホルダーとか、小物とか、ケーキ食べたら探しにいこっか!」


 ——嬉しい。

 

「……うんっ!」


 そういって、日向は繋いだ手を軽く引っ張った。

 人が行き交う中を歩いていると、定期的に存在を確かめるようにギュッギュッと握ってくるのが、たまらなく愛おしい。


「日向、今日行くところ、コーヒーで有名らしいですよ」


「ほぅ!ケーキとコーヒーかぁ……むふぅ」


 嬉しそうに笑う日向につられて、私も頬が緩む。

 不安を胸に始まった一日が、彼女の笑顔に満たされていく。


 ——嬉しいっ。

 

 しばらく歩いて、目的のカフェに到着した。

 店内は落ち着いた雰囲気で、コーヒーの香ばしい匂いが漂っていた。

 窓際の席に案内され、二人でメニューを覗き込む。


「…………」


「ふふっ、悩んでますねぇ」


「悩むよぉ……だって全部美味しそうやもん。一華はどれにすんの?」


「そうですねぇ、私はこの——」


 この後どこに行きたいとか、日向が頼んだコーヒーのこだわりとか……

 そんな他愛のない話を、注文したケーキが運ばれてくるまで楽しんだ。


 ケーキが運ばれてくると、日向は携帯で写真を撮りだした。

 あんまり馴染みがないけど、彼女の言う未来では、こういう時は写真を撮るものらしい。

 真似してケーキと紅茶の写真を撮ってみる。確かに、なんか良いかも。

 

「ほな、実食!」


「ふっ……なんですかそれ。いただきまーす」


 生クリームの甘さとイチゴの酸味が合わさって、思わず笑顔になってしまう。


 普段は男の子っぽいところもある彼女だけど、ケーキの甘さに頬をおさえて悶える姿は、男の子だったっていうのが信じられないぐらい女の子らしい。

 着ている服も、身につけている小物も、去年の今頃からどんどん女の子らしくなってきている。

 いつかこのまま、日向の中の男の子はいなくなっちゃうのかな。

 

 そうなったら日向は、男女(どっち)を好きになるんだろう……

でも、秋さんが好きってことは……女の子も好きってことなのかな……


 突き刺すような胸の痛みとともに、嫌な自分が顔を出す。

 そんな一瞬を、ぬるくなってしまった紅茶のカップを手でもてあそび、揺れる中身を見て誤魔化す。


「……そろそろ行こっか」


「ぁ、そうですね。お買い物いきましょう……」


 紅茶を一気に飲み干して、会計を済ませると、胸に残ったもやもやを晴らせないまま、近くのお店を見て回る。

 考え出したら止まらなくなって、ぎこちない愛想笑いをしてしまう。

 

 頑張るって、決めたのに。

 いつか日向に振り向いてもらうって決めたのに。

 私は、日向の一番にはなれないのかな。

 

「一華、ちょっと休憩しよ」


「えっ……疲れましたか?」


「うん!ほら、ベンチ座ろ!」


「……そうですね。ちょっとだけ……」


 人通りの少なく、ちょうど木陰になったベンチに、並んで二人で腰を下ろす。

 すると隣で、日向が膝をぽんぽんと叩きながら、こちらを見て目を細めていた。

 

「ほれ、一華おいで」


「……いやいや、疲れてたんじゃないんですか?」

 

「一華もやろ?ちょっと元気ないし、寝てないんかなって。ほれっ!役得や役得」


「あっ!ちょっと……もう……」


 ちょっと強引に引き寄せられて日向の膝に頭を乗せると、柔らかい感触と心地よいぬくもりが伝わってきて、心がふわふわと溶けていく。

 彼女の右手が私の左頬を撫でると、くすぐったい感触が、自然と笑顔にさせてくれた。

 彼女は私を見て微笑むと、反対の手でタバコを吸うふりをしておどけてみせた。


「ふふっ……ダメですよ?二十歳になってからです」


「えー、どうしよっかなぁ……」


「もう……絶対ダメ」


「はいはい」


 気持ちいい。昨日は遅くまで起きてたからか、微睡むような浮遊感がする。

 好きな人の膝で眠れたら、どれだけ幸せなんだろう。


「好き。日向……大好き」


「ウチも、大好き……」


 大好き…………

 このまま……眠れたら………………

 ……………………………………。



————————————



 ゆっくりと意識が持ち上がって、最初に感じたのは頬の暖かさだった。

 下から見た日向が、気持ちよさそうに目を閉じて鼻歌を歌っている。

 そのメロディに聞き覚えがあるのは、彼女がよく口ずさんでいるのを聴くからだ。


「その歌……」


「ん?あ、起きた。おはよーさん」


「…………あれっ!?なんでっ!!」


 なんとなく、結構な時間が経っていることがわかった。

 慌てて携帯を取り出して時間を確認すると、もう充分夕方と言える時間だった。

 目を丸くしてこちらを見る日向に、自分も多分、同じように目を丸くする。


「な、なんで……起こしてくれなかったんですか……」

 

「えっと……気持ち良さそうやったから……」

 

 慌ててもう一度携帯を見る。

 今日、日向と一緒にいられる時間は、もうほとんど残っていない。

 手を離した風船のように体から力が抜けていく。あんなに楽しみにしていた時間が、日向とのデートが、もう終わる。


「……嘘。ずっと見ときたかってん」


 心の中で、ため息をつく。

 それならいいやと、そう思えた。


「……もうちょっとだけ、膝枕してください」


「うん、どうぞ」


 また寝転がって、日向を見上げる。今度は照れくさそうにしている彼女に、仕返しするように頭を預ける。

 ジロリとわざとらしく視線を送ると、苦笑いしながらまた頬を撫でてくれた。


「さっきの歌、なんて曲名なんですか?」


「えっ……?ふふっ、あれはなぁ……もうちょい未来で、友達と作った曲や」


 まだ私が知らない、日向の未来の物語。

 当然、これからもこの人の人生は続いていく。色んな人に再会して、素敵な人生を歩むだろう。


 ——それを、私は隣で見ていたい。


「なあ一華。来週また遊びにいこ」


「ふふっ、やったぁ……お揃い、探しに行きましょう」


 ゆっくりと、でも着実に時間は過ぎていく。

 焦って不安になることもあるけれど、その時はまた、こうして膝枕してくれると嬉しいな。


 愛してるよ、日向。




ラブを書くのは難しいなぁ......


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。