第7話「蒼の旅人」
第7話「蒼の旅人」
アニータは廊下の角で待っていた。
蒼介はその角を曲がらなかった。
曲がろうとした。一歩、足が出た。しかしもう一歩が出なかった。理由を言葉にしようとしたが、言葉になる前に足が止まっていた。
ダリオを死なせた人間を、許すということと。
ダリオを死なせた人間を、必要とするということは。
別のことだ。今の自分には、まだその二つを同時に抱える場所がない。
蒼介は反対の方角へ歩き出した。
街を出る前に、一度だけ足を止めた。
水路の水面に、銀色の髪が映った。
8歳のときに焼けた色。罰だと思った。罰であってほしかった。今もまだ、それが罰なのか代償なのか証なのか、蒼介にはわからない。ただ、その色のまま、この七年を生きてきた。ロアンを壊した手で、師を倒した手で、ダリオの剣を握った手で。
同じ手が、まだここにある。
水面の銀髪を見ながら、蒼介はかすかに思った。
この大陸のどこかで、もう一度彼女と出会えるなら。そのときには、もう少しだけ——
考えを最後まで完成させないまま、蒼介は顔を上げた。
道の先に、朝の光があった。
どこへ向かうかは、まだ決めていない。記憶のない人間にとって、故郷とは今いる場所のことだ。ならば道の上もまた、故郷だ。
風が来た方角に、何かがあった。
気配、というより、質量だった。遠く、しかし確かに存在する、巨大な何かの影。名前は知らない。いや——どこかで聞いた気がする。霧の向こうに沈んだ記憶の中に、その名前だけが、なぜか残っている。
蒼介は歩き出した。
銀髪が、朝の風に揺れた。
第二章へ続く




