社会科見学へ
メイはボーっとしていた。
元婚約者を罵るというちょっぴりとした野望も叶って、ひと段落してしまった。
一種の五月病のような状態である。
ディルは悪い人だった…
それまで強がれていたのに、赤ワインのショックもあったのか、ディルに暴かれて肩の荷が下りてしまった。
ディルは紳士的でロベルトに先に帰ると伝えた後、家まで送ってくれた。
でも、メイはまだ肩の力の入れ方を思い出せない。
「メイ!ちょっといいか?」
「どうぞ。」
ロベルトがメイの部屋に入る。
「最近おかしくないか?何かあったのならいって欲しい。」
「何もないわ。むしろ何もなさ過ぎてダメなのかしら。」
「あのふわふわ坊主は?」
「リオン様なら学校ですよ。」
「ディル様は?」
「まだ2回会っただけですよ。」
「女友人とかは?」
「噂が流れた時に消えました。」
ロベルトは頭を抱えた。
「兄、ではダメなのか?」
「うーん…」
「あ、エルガー様ならどう?勉強しに行かないか?」
「そうしようかしら。エルガー様に手紙を書きましょう。」
ロベルトはホッと胸を撫で下ろした。
「お兄様はいつがいい?」
「…エルガー様にお任せしよう。」
行かない方がいいと思いながら、ロベルトはメイが心配なのでついていくことに決めた。
「ようこそいらっしゃいました。」
エルガーがメイの手の甲にキスをすると、メイは瞬く間に真っ赤になった。
「お招きいただきありがとうございますわ。」
「相変わらずで安心しました。ロベルト様にもご足労ありがとうございます。」
「すみません、複数名で駆けつけてしまって。」
ロベルトはほんの少し申し訳ない気持ちになった。
「今日は来たばかりなのでゆっくりお休みください。明日は太陽の出る前に薔薇を収穫するので、早朝にお呼びいたしますね。」
部屋に案内されて、メイは一息ついた。
見たことない部屋に窓には見たことのない景色が広がっている。
これがエルガー様の領地…
王都暮らしのメイはあまり見ない光景だ。
メイが領地に行くのは長期の休みや祖父母に会いに行く時ぐらいである。
私だってオリエッタ家として役に立つんだ。
少しだけやる気がみなぎってきた。
まだ辺りが暗い頃、エルガーの家のメイドがメイの部屋の扉を叩いた。
「ただ今参ります。」
すぐに支度をして玄関へ向かう。
「では出発します。」
エルガーに促され一緒に馬車に乗り込む。
馬車が進むに連れて、真っ暗だった空が紫色に変わり、辺りの風景がぼんやり見えてくるようになった。
もうすぐ朝日が昇る。
薔薇畑に着くと、農家の人たちはもう作業をしていた。
「ここが薔薇畑です。生花も加工用も花が開く前に収穫します。ここは加工用ですから、取れたらすぐに加工して薔薇エキスを抽出します。その工事はまた後で案内します。」
広大に広がる花畑にメイのテンションも上がる。
「私も収穫のお手伝いしていいでしょうか?」
「構いませんが、汚れますし、怪我もしますよ?」
「大丈夫です。」
すぐさまメイは農家の人たちに入り、道具を貸してもらって説明を受ける。
初めは戸惑っていた農家の人たちも、メイを村娘のように受け入れてくれた。
メイが開きかけている小さな薔薇の蕾を一つ摘む。
「綺麗ね。」
薔薇についた朝露がオレンジ色に染まった地平線を映している。
メイが周りを見ると、他の人はそんなことには一切触れず一心不乱に蕾を摘んでいた。
メイも慌てて蕾を摘む。
少し慣れたのか結構早いペースで摘むことができた。
「すみません、お待たせしました。」
スッキリとした顔でメイがエルガーとロベルトに駆け寄る。
「手を見せてみろ。あー傷だらけじゃないか。」
「ふふ、大丈夫ですわ。」
ロベルトに手のひらを見せた後、メイは馬車から陶器のケースを持ってきた。
「手荒れに良いクリームですわ。教えてくださったお礼に少しだけお分けしてくるのでちょっと待っていてください!」
メイは一緒に薔薇を摘んでいた女性陣とキャッキャと話し、すぐに戻ってきた。
「メイは本当に生まれる場所を間違えたのかもしれないな。」
メイのお転婆さにロベルトは苦笑しながらも、元気になったメイを見て安心する。
「では次は加工場に行きます。」
エルガーに案内された加工場には、ムワッとした蒸気に包まれていた。
「ここでは蒸留と蝋を使った二種類のやり方で加工し、香水、美容用品、食品等に使われます。」
次は真剣にメモとっているメイがいた。
「家でやるつもりか?」
「わかりました?」
メイの元気すぎる行動に、ロベルトはやり過ぎてしまったと、少し後悔した。




