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婚約破棄されました!

メイ嬢にささぐ。

もう、誰も信じない!


部屋に戻るなり枕を存分にボコボコにする令嬢、メイ・オリエッタは兼ねてから婚約していたミシェル・バロテリより婚約破棄を申し立てられた。幼い頃からの婚約がこうも無残に破棄された理由は簡単である。ミシェルにメイより良い縁談が申し込まれたのだ。


だからってっ…!


長年積み重ねてきた絆や信頼なんてものはなく、最後は意地悪に鼻で笑われて終わった。


キツイご令嬢の尻に敷かれるといいのよっ!


メイはいつの時も朗らかに笑顔を絶やさずにいたが、本当はこういう性格なのだ。それを押し殺し、愛のない政略結婚だとしても婚約者の為にいつも笑顔で慎ましく花嫁修行に励んできた。

最後の最後もいつものように惰性の笑顔で引き下がったが、あのバカに一言噛み付けば良かったと今になって後悔している。


あー…私、一人だ。


メイはこの婚約破棄が行われた日、17歳になった。15歳で成人するこの国では結婚適齢期真っ只中である。すぐすぐ次の婚約者を見つけることなどできないし、このままいけば行き遅れ待った無しだ。


あーこんなことならもっと夜会に顔を出しとくべきだった。


メイは婚約者が居るからと、最低限、顔出ししかしていなかった。


今行っても笑い種にされるだけだわ。


みんなこういう噂が大好きで、もう既に尾ひれを付けて出回って居るだろう。そこに出てくれば好奇の目にさらされ、更には男を漁りにきたとも言われかねない。

婚約破棄の時のミシェルの意地悪な笑顔が浮かぶ。


何よ!ちゅるちゅるの髪も嫌いだったし、三白眼のソバカスヅラのブスブスブース!


また枕を叩きつけ、ミシェルを心の中で思いっきり罵る。


それに振られる私って…


なんだか虚しくなって、直ぐに止める。

メイは不貞腐れるようにベッドに大の字で寝転んだ。


家柄も容姿も並に少し足りないくらいの私を必要だと、婚約してくれる人なんて居るのだろうか。恋愛なんてものもしてこなかった私に。


メイは目蓋を閉じて、眠った。



いつもより重い目蓋をメイは一生懸命開けようとする。


「お嬢様!」


起き上がったメイの顔を見るなり、身の回りの支度をしているメイドが驚いて駆け寄ってきた。


「濡れた布巾です。お使いください。」

「ありがとう。」


受け取った布巾を目に当てる。目蓋の熱を布巾が奪っていくようで気持ちが良い。

元から愛も何も無かった婚約。あんな男にメイは縋って泣いた訳ではないが、私自身の価値を酷くこき下ろされたようで、悔しくて涙が出た。


この私があいつの為に泣くなんて…


ミシェルのように鼻で笑えた。


「今日はピアノのレッスンがありますが、欠席いたしますか?」


メイを気遣ってか、メイドが申し出る。


「いえ、大丈夫よ。」


その気遣いは嬉しいが凄く恥ずかしくなって、メイは細い目をさらに細めて微笑んで見せた。


私が直接話さなくては。


なんとか目蓋の腫れを引かせ、レッスンのある部屋へと向かった。


「ご機嫌よう、ルーカス様。」


いつものようにドレスのスカートをちょんと持ち、メイは丁寧に挨拶をする。


「ご機嫌よう、メイ。大丈夫かい?」


優しい面持ちのルーカスが心配そうにメイの顔を覗く。


「大丈夫ですわ。お気になさらないでください。」


少し目が赤いものの、普段通りの笑顔を作ることができた。


「しかしながら、昨日の今日だろう。」


幼子のようにルーカスがメイを撫でようとするが、メイはスルリと躱すかのように一歩退いた。


「ふふ…子供扱いはよしてくださいまし。」


繕うかのように、メイは笑う。

花嫁修行にと、習い始めたピアノ。音楽に明るいとのことで、父の友人の伯爵の息子ルーカスに特別にならっていた。

けれど、それももう終わり。


「今日でレッスンを終わらせていただきたいの。」

「メイ…」


だって私には花嫁修行なんて必要ないもの。


3つ歳上で兄のように慕っていたルーカスに会える機会が減るのは寂しいが、意味のないことで時間を拘束してしまうのは、申し訳ない。


「今までありがとうございました、ルーカス様。」

「メイ、レッスンが無くとも会いに行くよ。その時はまた一緒にピアノを弾いてくれるかい?」

「もちろん。喜んで。」


いつもより早めに帰っていくルーカスを不精にも、部屋の中で見送った。いつもなら最後まで見送るのだが、メイにはこれが限界だった。

椅子に腰掛け、メイは涙を零す。


こうやって、一つ一つサヨナラをしていかなくてはならないのね。


ミシェルという婚約者を持った『メイ』という人間はもういない。

バロテリで笑ってください。

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