第八十九話 拉致
「きゃはははー、なおくん飲んでるー?」
……数少ないこのクラスの常識人が壊れた時、俺はどうすればいいんですか。
「三井君、あとは任せたよ」
ちょっと待て。
「……なぜこうタツミの人格が崩壊しているのか、話を聞かせてもらおうか」
「……お酒って怖いよねー」
「とりあえず酒は二十歳になってからしか飲んではいけない、そういう常識を知らなかったのか?」
「そんな形式的なもの……」
「形式的なものでも守らなかった報いを、なぜ俺が償うことに?」
「それは……そう、辰美ちゃんが呼んでたんだよ」
「今の間は?」
今言い訳を考えたとしか思えんのだが。
「それになんだ……この壊れたタツミの相手を、俺一人がするのは無理あるだろう」
「大丈夫。辰美ちゃんは三井君一人いればお腹いっぱいになるから」
わー、無責任な発言を堂々と言いやがりましたよ、この女子。その無責任さが今の状況を生み出したことを、まだ理解できやがりませんか。
「んもー、なおくんー、アキちゃんとばっかりお話しししてないでー、こっちに来てよー。きゃははははー」
……うん、最後の笑い方、あれはもうアウトだ。三重殺なみにアウトだ。……まあ期待してなかったけどね!
「ほらほらー、いいからこっちに座ってー」
そう言ってタツミは自分の横の席をバンバンと叩いた。……そこに座れと?酔っぱらいの酌を俺にしろと?
「嫌だ」
「はいどうぞー」
「石井てめえ!?」
「人身御供は旦那一人で十分だな」
「義人まで!?この裏切り者!」
「何言ってるのー?」
「だから仲間である俺を売って……お前たちには良心の呵責がないのか!?」
「旦那が女の子と一緒にいられる機会を与える……友達思いのいいやつだなあ、俺たち」
「現実から目を背けて、妄想で生きようとしてるお前らが何を言うか!?」
「む、旦那。それは違うぞ」
「……すまん、親しき仲にも礼儀ありだな。少し言いすぎた」
二次元で生きようとはしてないよな……趣味なだけで。感情が高ぶって悪いこと言ったな……。
「そうだよー。僕たちにとっての現実は二次元なんだからー」
「訂正箇所そこかよ!?」
駄目だこいつら。もはや矯正不可能なほどに毒されてやがる……!
「まあそんなわけでー」
「逝って来い、旦那」
「待ちやがれダメ人間二人ー!」
両脇を二人に抱えられ、タツミの席の横に縛り付けられた俺は、誰から見ても惨めだろうな……。もうヤダ、こんな扱い。