第六十五話 労働
「忙しい
忙しいったら
忙しい よつを」
「ぼやいてる暇があったら働け」
義人、お前はいつから改名したんだ。センスのかけらもない句を詠むな。疲れがどっとたまるから。
「忙しければ死にたくもなるさ。人間だもの。 よつを」
後ろ向きすぎるだろ人間!気持ちはわからんでもないけど!でもさらにネガティブになるようなこと言うんじゃねえよ!
なんだかんだでクラスのほとんどが集まったものの、執事喫茶の忙しさは終了間際となってピークを迎えていた。その理由はこの看板にある。
<今なら執事と一緒に写真が撮れます!この文化祭の記念にぜひお立ち寄りください!>
……こんな時間を食う企画を、最後の最後に宣伝に使ったことが最大の原因だ。いくら人手が足りているとはいえ、ほぼ全員の客が写真を求めるため、店内の混雑は最高潮かつ混乱していた。どの客がいつ席に座ったのかもわからない有様で、お冷やを出すタイミングもつかめない。……石井ももっと前にこのイベントをすればいいものを……。
「ふう、疲れましたねえ。ねぎらいの意味も込めてお茶を一杯、くらいしてくれても罰は当たらないと思いますよ?」
「旦那!旦那も写真の方へいってくれ!給仕は俺が手伝うから!」
「マジでか!?」
写真に撮られるのは本当に嫌なんだが。
「そんなこと言ってる場合か!あと三十分乗り切るためだ!自己中になるな!」
「……了解」
簡単に言ってくれるな。俺が一緒に写るといって拒否されたらどうするよ?一生もののトラウマになるぞ。今さらまた一つ増えたところで大したことはない?ほっとけ。いや、同情してくれ。
「ぐっとらっくー、みついー」
気の抜ける応援、ありがとう石井。
「……気付かれないのは応えますねえ……。悪気はないんでしょうが。終わるまでひと眠りしますか」
「ZZZZZZZZ」
「「「健三さんうるさい!!!」」」
何か起こしていないと気がすまないんですかあなたは!いつもは静かに寝てるのに、今日に限って大きないびきをかくのは理由でもあるんですか!?
「疲れてるんだろ」
「それにしても限度があるだろ!?」
爆音かと思ったぞ!?一斉に客が振り向いたじゃねえか!
「旦那、気を取り直して写真へGO」
「……落ち着け、俺」
自分でいってりゃ世話はないな。
幸いにも、一緒に写るのを拒否されることはなかった。……心の底からホッとした……。嫌な思い出が増えなくてよかったよ……。