第五十六話 相応
「まあ綾乃(義人姉)、それくらいにしとけ。文化祭の出し物でそこまでの味を求めるのは酷だと思うぞ?」
「しかしこの愚弟の不始末だし、私が落とし前をつけんと」
「私にとってはそこそこ美味しかったし、値段相応かそれ以上の価値はあったんじゃないか?義人君泣いてるじゃない」
締めあげられて数分経つし、幼い頃から恐怖のみを植え付けられていたのだから仕方あるまい。よかった……うちの姉ちゃんは怒ってなくてよかった……!
「仕方ない。弘美(俺の姉)がそこまで言うなら許してやろう。……義人、次はないから覚悟しときな」
脅されてさらに怯える義人。同情くらいしかできないが、頑張れ。俺も頑張るから。
「それで、二人はどうしてここに?」
「OBが文化祭を訪れたらいかんのか」
なぜそんな喧嘩腰に!?温厚にいきましょうよ。
「うちのクラスに来たのは?」
「綾乃が執事喫茶に興味があってね。サービスはどうだった?」
「まあ及第点だな」
「……それはよかったです」
これでサービスも不満だったら、さらに魔人化していたのか。……助かった。
「そういえば辰美ちゃんに会ったよ。直樹と同じクラスなんだって?運命ってのはあるもんだね」
「そんな大げさな。偶然に偶然が重なっただけだろ」
「いやいや、いい子に育ってたじゃない。中身も外見も……ボリューム感たっぷりで」
ここにエロオヤジがいるんだが、通報したら警察は駆けつけてくれるだろうか。……できれば武術有段者の。
「しかしあれだね。あんな格好させて……直樹の趣味か?」
「なぜにそうなる!?」
クラスの出し物なのに、責任はすべて俺に転嫁されるのか!?
「そうだね、直樹はどちらかといえばセーラー服が好みだもんね」
「なぜ!?根も葉もないデマを流すな!」
「……はっ」
「鼻で笑われた!?」
まさか奴は……俺の秘密を握っているのか!?
「まあこの話は、後ほどうちでゆっくりとしようじゃないか……ぷっ」
堪え切れなくて噴き出した!?何を握られたんだ!?あれか!?それともあっちか!?
「ああ、健三さんに会ったらよろしく伝えといて。まともに仕事しろとも」
「伝えはするが、そりゃ無理だ」
あの健三さんがまともになったら天地が崩壊する。それくらいありえん。
「……旦那」
「どうした、義人?」
「お互い頑張ろうな……」
「……ああ」
今日帰ったらあれがいるわけだよな……。早く大学は後期日程を始めろ。頼むから。




