第五十七話 敬意
「よくもまあこんなに……」
現在は昼飯時。そのため、予想通り数多くの客が来店している。中に入ることができる人数は限られているため、今では外で並んで待っている人までいる始末だ。商品の味も、義人の姉ちゃんに酷評された以外では全く文句を言われていない。むしろ「おいしかったです!」とか「ごちそうさま。おいしかったよ」などとお褒めの言葉を頂くくらい。あの料理やお菓子がとても美味しいと思った俺の舌も、異常ではなかったようでなによりだ。あの義人が作ったのだから俺としては当然なのだが、義人の姉ちゃんは義人以上に味覚が発達しているらしい。海原雄山かあの人は。至高のメニューでも食べていてください。
「いやー、混んでますねえ」
そう思うならいい席を陣取ってないで手伝うなりなんなりしてください。いや、健三さん相手に無理なお願いだとはわかっているんだけれども。それでも愚痴らずにはいられない。
「さあ、皆さん働くのです。この私のために」
少なくともあなたのためではありません。しいて言うなら自己満足のためですから。
「……あー、誰も構ってくれないって寂しいですね」
みんな健三さんに構っている余裕がないんです。察してください。
「あ、一句思いつきました」
……フリーダムですね。どういう思考回路ですか。
「安上がり 金のかわりに 手間かけて 値段つり上げ 客騙される」
「健三さん!営業妨害になりますからやめてください!」
事実であるのがまた嫌らしい。反論できないし。これは営業努力だよ?悪いことしてない、当然のことだよ?でも口に出したらいかんことってあるのです。
「調子に乗りんこ。ごめりんこ」
意味がわからないし反省の気持ちが見えない!
「お客様!安上がりと言っても、そこそこの品質のものを使用しております!ですから安心なさってください!」
明らかに客が不審の目だよ。疑ってるよ。無用なトラブルを引き起こさないでほしい。
「……健三さんも少しは自重してください……」
「何度飲んでもこの紅茶は美味しいですねえ」
反省してねえ!
「旦那、健三さんに構うな。手と足が止まってるぞ」
「……悪い」
突っ込む前に仕事を片付けないと。忙しくて目が回りそうなのに、健三さんがいるだけで場の空気が和む。……いい点でも悪い点でもあるがな。
「しかし、この部屋暑いですねえ。扇風機ありませんか扇風機」
あったら厨房に真っ先に入れます。健三さん専用機になどさせません。
「生徒がもっと教師を敬ってくれないものですかねえ」
そうしてほしいなら、まず健三さんが態度を改めてください。




