第48話 残念勇者は幸せを噛みしめる
本日4話投稿予定(こちら3/4です)
朝七時半。
朝食はあまり摂らない派だったけど、最近は食べるようにしている。
朝、身支度を整えたらお隣さんに行くのだ。
ガチャッとノブを捻ればフリーパス。
この時間、美沙ちゃんは鍵を開けてくれている。
「おはようー」
「東村くん、おはよう」
美沙ちゃんと淳司くんは、すでに配膳の済んだテーブルにいた。
親子二人が住む1DKの部屋、そのダイニングで挨拶すると、美沙ちゃんが返事してくれる。
その様子を見ていた淳司くんが注意した。
「おかーさん、ひがしむらくんじゃなくてただゆきくんだよー?」
「そうだよ美沙ちゃん、やり直して?」
「ごめんなさい、なんか、慣れなくて⋯⋯おはよう、忠之、くん」
うむ。
俺が美沙ちゃんと呼んでいるのに、いつまでも東村くんだとよそよそしいので、忠之くんと呼んでもらう事にしたのだ。
このやり取りだけで、お腹が満たされるまである。
ちなみに、朝食と夕食は美沙ちゃんにご馳走になるので、俺が食費を出している。
美沙ちゃんは固辞しようとしたが、外食するより安上がりだからと説き伏せたのだ。
美沙ちゃんたちの向かいに座り、手を合わせた。
「いただきます!」
「いただきます」
「いただきまぁす!」
今日の朝食は塩鮭、卵焼き、味噌汁、おひたし、焼き海苔、ご飯。
あとは、美沙ちゃんお手製のふりかけが卓上に置かれている。
シンプルだが、これぞ朝食って感じ。
また、味噌汁が麦味噌というのもポイントが高い。
俺は麦味噌の味噌汁が好きなのだ。
都内じゃあまり出すところないからね、って、俺が知らないだけかもしれないが。
美沙ちゃんは料理が上手い。
しかも田舎が同じだからか、味付けも非常に俺好み。
俺の胃袋はとっくにワシ掴みされている。
味噌汁を一口啜る。
おお、今日の味噌汁はいりこ⋯⋯東京風に言えば煮干しだな、と、昆布の合わせ出汁だ。
だが、強い麦味噌にしてはスッキリとした味わい⋯⋯おそらく煮干しから、頭と内臓を外してから出汁を取っている。
そのひと手間が、雑味の無い出汁を生み出すのだ。
全く、朝食一つ取っても手抜きが無いぜ。
って、出汁については美沙ちゃんに以前聞いた受け売りだがな!
旨いねっていったら教えてくれたのだ。
しかもなんと!
この取り除かれた煮干しの頭と内臓は!
粉末状に加工され、お手製ふりかけに使用されているのだ!
無駄がない! つまり美沙ちゃんには隙がない!
しかもこれがまた旨いっ!
たぶん他になんかやべーモン入ってる!
三人で朝飯を食べていると、美沙ちゃんに質問された。
「忠之くん、今日の夜は⋯⋯どうする?」
おい、美沙。
それはもちろん、君を今日の夜も抱くよ。
しっかり愛し合おう。
た、忠之くん、違っ、ちょっと、な、何言ってるのよ、子供の前で(アセアセ)。
えっ? 違ったかい? でも俺は有言実行だから。
今夜も楽しみだぜ。
も、もう。
それに──確認しなくても、それはいつもの事でしょ! もう!
ふっ、可愛いやつめ。
と、脳内でオカズをもう一品追加しながら、ちゃんと質問に答える。
「あ、今晩はご馳走になろうかな」
「うん、わかった」
「ごめんね? 昨日は急に仕事の人と会わなきゃいけなくて⋯⋯食材無駄になった?」
まあ、出会い系でマッチングしたんだけど。
しかもすっぽかされたんだけど。
「ううん、大丈夫。豚肉は冷凍してあるから。無駄になってないよ」
ふっ、昨日のブタ、ここに出荷されておったか。
世の中ってのは上手く回ってるね。
「ごちそうさまでした!」
朝からご飯二杯食べちまったぜ。
元々は拙者ややデブの者だからな、気をつけないと。
まあ、太ったらスキル【超代謝】でダイエットすればええか。
食後にコーヒーを頂き、少しゆっくりする。
さて、これで朝八時十五分。
そろそろ行くか。
「あっちゃん、行こうか」
「うん!」
「いつもありがとう、忠之くん」
「大丈夫だって、ついでだから。あっちゃんも俺と一緒に行くの楽しいよねー?」
「うん、忠之おにーちゃん面白いから!」
「じゃあ美沙ちゃん、行ってきます」
「おかあさん、いってきます!」
「いってらっしゃい、忠之くん、お仕事頑張ってね」
ああ、その一言でお仕事頑張れる気がする。
淳司くんを連れ、幼稚園のバス乗り場へ。
「おはようございます」
「お、おはようございます!」
「おはようございます!」
同じく子供を連れてきているママさんと、挨拶を交わす。
バスが来るまでの時間、彼女たちと談笑する。
ふっふっふ、このコミュニティーから、女の人紹介して貰えるかもわからんからね。
淳司くん送迎イベントは欠かせないルーティンなのだ。
バスが到着し淳司くんが乗り込む前に、俺に聞いて来た。
「忠之おにいちゃん、今日は夜帰ってくるんだよね?」
「うん、そうだよ」
「じゃあ、ゲームしようね! あとおにいちゃんいた方がおかあさん嬉しそうだから、ぜったい帰って来てね!」
「うん、帰ってくるよ!」
「よかったー。じゃあねーバイバーイ」
ああ。
なんてイイコなんでしょう。
罪深きクソボケ鷹司が、その人生で行った唯一の善行、それが淳司くんをこの世に誕生させた事だろう。
まあ、もうそれも終わったから、アイツはこの世界から完全に用済み、お役御免だ。
まあ、アイツの股間はひとまずお役御免しとるわけだが。
「あの、東村さん⋯⋯もし良かったら、これ」
「はい?」
ママさんAから、何か包みを渡される。
「あの、クッキー焼いたんです。もし良かったら職場の皆さんと召し上がってください」
「うわー! マジですか! いただいちゃっていいんですか? 俺、女の人から手作りのお菓子貰うなんて初めてです、ありがとうございます!」
「またまたー。東村さんモテるくせに」
「全然ですよー。あ、今度皆さん一緒に食事でもしません? 俺に女性へのアプローチの仕方伝授でもしてください!」
ふっふっふ、俺の脱童貞活動には余念がないぜ。
愛想を振り撒きながらの雑談は適当に打ち切り、いざ仕事へ。
で、普段ならコッソリ転移で楽々出社する⋯⋯のだが。
今日は普通に駅へと向かう。
いやしかし。
何だこの生活ぅー! 幸せ過ぎるだろおおお!
美沙ちゃんと淳司くんとの半共同生活楽し過ぎワロタ。
マジで幸せ過ぎるだろ、あんな奥さん貰ってた奴。
しかも子供も地上に降りた天使だし。
それをバカな事やって手放した奴おるってマ?
愚か者過ぎるやろ。
などと考えながら、満員電車に揺られて会社の最寄り駅に到着。
「おっ、東村くんおはよう」
「課長、おはようございます!」
会社の入ってるビルの前で、上司と出会う。
最近はビルの死角、ほとんど人がいないスペースへと転移してたから、こういうのも少なくなったな。
そう、これが最近の、俺の幸せな日常なわけだが⋯⋯。
何で今日に限って電車通勤かと言えば、だ。
──なんか朝から、俺の事チラチラ見てるハエが二匹おるなぁー? と思ってさ。




