第43話 範造と憲助
華山
「よう、1人懐柔したみてぇだな」
早朝、法助は空手部に赴けば華山を呼び出し報告をしに行く。
法助
「うん。ただめぼしい情報はなかったよ。日陰さんは確かに生徒会長と繋がっているけど、弱味を握られているだとか忠誠心がある訳じゃなくて、雲母を退部させるっていう利害の一致で協力してたみたいなんだ」
華山
「そうか。なら常磐を弓道部から退部させる代わりに何かしらの仕事を請け負ったりはしてなかったか?例えば問題児の行動を逐一報告しろだとか」
法助
「ああ、それなら森永さんって人の行動をチェックするように言いつけられてたみたい。森永さん自身は悪い様にはしないって言ってたらしいんだけど、結局雲母を退部させられなかったから森永さんと2人になった時に思い切った行動に出ちゃってね…」
華山
「思い切った行動?」
法助
「うん。森永さんを監禁して一緒に練炭自殺しようとしたんだ。何とか森永さんを解放して説得出来たんだけど、未だに昨日の出来事が信じられないよ。ナイフで暴れたり1人で自殺しようとしたんだ」
華山
「度し難いやつだな…。1度会って話す必要もありそうだ。しかしたった2日で物の見事にやってくれたぜ。よくやったな」
華山が褒めてくれれば少しむず痒かった。まさかこいつから褒められる日が来るとは。法助は頭をポリポリ掻く。
華山
「俺も何かしらの情報は掴んでる。だが下手に行動に移せばバレる可能性があるからな。ホースケは暫く大人しくしてろ。何かあったら俺から連絡するからよ」
法助
「ああ、よろしく頼むよ」
法助は校舎へ向かう。
華山
「さて。傀儡が空手部に居るはずなんだが、どうやってしっぽを掴むかな…」
華山範造は2年2組のいわゆる問題児だ。彼の性格を歪ませたのは兄の影響である。華山には5つ離れた兄がいる。既に家を出ているが、昔は弟の範造に躾と称して暴力を振るったり、理不尽に虐げられた。いつか兄に仕返しをする為に一生懸命空手に取り組んだが、未だそれは成らずその機会もまだない。兄は行方しれずなのだ。家を出てから音沙汰がない。
法助と出会ったのは中学1年の頃。クラスは違ったが廊下ですれ違う度に何か気に食わない雰囲気を感じ因縁を付けて呼び止めた。しかし法助はイヤホンを付けていたためそれに気付くことなく素通りしてしまう。その事に激昂し法助に対する執拗な虐めに発展してしまった。法助を見ていると昔の自分を思い出す。兄に虐げられ無力だった過去の自分を思い出してしまう。忌々しい。それはあまりにも理不尽で正当性に欠ける理由であるが、思春期の自分にはその歯止めが効かなかった。
1度手を出してしまってからは行動がエスカレートし、何度か教師からお呼びがかかった。その度に適当に対応し凌いでいた。バカバカしい。今の教師は手を上げることすら出来ない。家に連絡するだとか、反省文を書かせるだとかその程度だ。もちろん手を上げられればやり返すのだが、やり方が生ぬるい。はっきり言って時間の無駄なのだ。華山は自身の行動と周りの対応の相違に違和感を覚えていた。結果を出し暴力で支配すれば罰は与えられない。力さえあれば自分の思い通りになると確信していたのだ。
華山
「…よし、これくらいにしとくか」
華山は朝練を終えて校舎へ向かう。
1年の前半、それは唐突に起きた。男子生徒の1人が急に転校してしまったのだ。家庭の事情とは聞いていた。しかしクラスメイトの話を聞けばどうも違うらしい。現在は家から隣町の中学に通っているようだ。そいつは特に目立った行動をしていた訳でもなく、誰かを虐めていたといった事も無かったように思われる。自分には全く理由がわからなかった。
ある日の休み時間、女子生徒2人が常磐雲母に詰め寄った。お前が原因で男子生徒が転校させられてしまったと騒ぎ立てていた。常磐雲母。思えばその男子生徒とペアで学級委員になり、雑務を共にこなしていた。雲母本人は全くの無自覚だったようだが、その2人は詰るようにそう言い切っていた。男子生徒が転校させられた背景には何か別の原因があったのかもしれないが、数週間も立たずにその2人は転校させられた。雲母に対する執拗な嫌がらせを行ったからだ。そして桐邑深郁の姉、桐邑悠郁がその復讐を企てる。
「おい」
華山はいきなり男に声を掛けられる。両手を組んで壁にもたれかかっている。少し高圧的な態度で呼び止められた。怪訝に思いながら考える。制服が違う。ウチの生徒ではない。【そしてそこに居たことに全く気づかなかった。】
華山
「うん?」
「お前が華山範造か」
華山
「俺の事を知ってんのか。そういうあんたは誰なんだ」
他校の生徒が殴り込みに来たのか? 自分は空手のインターハイにも出ている。結果を残し、名も顔もしれている為、ありえない話ではない。まぁ珍しいことではあるが。
「水鳥法助」
華山
「…?」
何故法助の名前が出てきたのか。全く理解出来ない。頭に疑問符が浮かべば相手の発言を待つ。
「先日弟がボロボロにやられて家に帰ってきた。華山範造、お前は弟と同じクラスメイトだろう」
華山
「ああ、ホースケとは同じクラスメイトだ。災難だったな。ホースケは運が悪かったのさ。絡まれた相手が悪かったみたいだが?」
下手に生徒会長がやったと言って誰かが聞いていれば不味いため、そこはぼかす様に言う。
「…調べはついてる。お前、法助のクラスのいじめっ子だろ。知っているぞ」
華山
「あ? 確かにホースケを虐めてはいたがもうやってねぇ。それに法助をやったのは俺じゃねぇよ。人違いだ」
「…虐めていたことを認めたな?」
男はじっと華山を睨みつけ、組まれていた両手を解けば壁から離れて華山と距離を詰める。
華山
「お前はホースケの兄貴か…? その兄貴が報復に来たってわけか。くくく、弟想いのいい兄貴じゃねぇか」
華山はカバンを下ろせば構えをとる。
憲助
「法助はあんなふうにされても僕に何も言わなかった。昔からそうだ。あいつは自分一人で抱え込んでしまう」
華山
「ふーん。信用されてねぇんだな。別にいいじゃねぇか。兄弟なんてそんなもんだ。それに本人が言いたがらないなら、あんたが首を突っ込むことでもないだろ?」
憲助
「…僕は法助の相応しい兄になるよう努めた。しかし僕に世話を焼かれるのを本人は嫌がった。だからできるだけ干渉せぬよう、なるべく見守ってきたんだ。それなのにあんなに痛めつけられて帰ってきた法助を見た時の僕の気持ちが、お前には分かるか?」
華山
「チッ。分かるかよ。ダラダラいけしゃあしゃあと。前言撤回だ。やっぱりおめぇは情けねぇ兄貴だぜ」
華山は掌を返せば地面に唾を吐く。
憲助
「…だから僕は一方的な私怨でお前をしめる。弟にやったその報いを受ける覚悟は出来ているだろうな?」
憲助は猫背になり両手を前に構える。ボクシングのフォームである。
華山
「いちいち確認なんて要らねぇッ!授業が始まっちまう、さっさときやがれッ!」




