第六十四話 滅びゆく文明
いずれにしても、古代文明は滅びることとなる。現代においてその存在の痕跡がないのだから、そうなのだろう。
何故か?
話を聞く内に、その疑問がどんどん大きくなった今野。
永遠に栄え続けると思っていたベルダを含む、支配者たちは、圧政を強いてきた民たちの怒りを甘く見てきた。
支配者の厳しい統治に苦しむ民たちは、文明そのものの破壊を考えるようになった。
「どうして、文明の破壊なんだ?自分達の生活を支えるものだろう?君ら圧政の苦しみは理解できるが…」
支配からの解放のために、“文明の破壊”というのは、どうにも納得出来ない今野。
「ある者の言葉によって、それが民たちに浸透したのだ」
「ある者…?誰だ?」
ベルダは、周囲のビジョンを変えた。そこには、特権階級と思しき人物たちが、宴らしき場で楽しそうに食事や会話をしている様子だった。
その中にいた一人の若く美しい女性に、今野は一瞬、目を奪われた。
「…兵器を開発したのは、私や他の科学技術者ではあるが、もともとインダストクリュスタスの加工技術や使い方を確立したのは、昔の民たちだ」
地球に辿り着いた文明人、つまりはベルダたちよりも祖先にあたる者たちが、宇宙のどこに住んでいたのかは知る術はない。移住したという以前の記録は見つからなかったらしい。
しかし、地球移住の際に共に来たインダストクリュスタスの持つエネルギーのお陰で、人々は生活に困ることはなかったという。
“古代人の中の歴史”によれば、その昔、祖先たちが地球に来たことで、大きな環境破壊を招いたとのことだった。
「私も色々と調べたが、祖先がどうやって移住したのかは、解明出来なかった。しかし、我々の移住より以前に栄えていた生き物たちの殆どは、我々の祖先がこの星に到着した影響で、消滅したことは分かった」
“恐竜絶滅”のことだろうと、この話には今野は少し胸を躍らせた。推測ばかりで知り得ることのない恐竜絶滅説の真実に最も近い答えを聞いたからだ。
「そしてこの星は、君らの歴史で言う氷河期を長いこと迎えたが、我々の祖先はインダストクリュスタスのエネルギーのお陰で、死に絶えることはなかった」
太平洋上にあったとされる大陸は、インダストクリュスタスの暖かいエネルギーが届く範囲で少しずつ動植物が増え栄えたという。
「原始的な生活ではあったが、インダストクリュスタスの力は、祖先が生きるのに十分だった」
たが、流れる時間の中で、いつの頃からか、インダストクリュスタスの人工的な使い方を見つけ出す者が現れた。
その者を筆頭に、幾人かの者たちがインダストクリュスタスの加工職人として、生活の利便性を求めた使い方を探求するようになったという。
それが、“文明発展”の始まりだった。
それからの文明の進化はとてつもない速さだったという。
文明が進めば、人はルールを必要とする。そのルールの統制を図るために、最初はリーダーに相応しい者が周囲から選ばれるようになった。
選ばれた者も、最初は国としての管理統制や、運営と言ったことを、自分も含め民たちのために真剣に考え実行していった。
だが、一定の権力を持った者がその座に長くいる内、その者は立場を利用し、人々を差別、区別し、自分や、自分と親しい者に都合のいいことばかりをしていくようになっていったという。
今野はその話を聞き、どこの世界でも聞くような、現代の歴史と同じだと思った。
「我々は、生活や産業に利用してきたインダストクリュスタスを使った技術を、破壊兵器に転用した」
そもそも武器はあったという。
海陸での生き物を狩るという食糧確保のためと、人に害を与える生物から身を守るためにだ。
だが権力者たちは、人の命や、住む家を破壊するための兵器を開発し、逆らう者は容赦なく全て焼き払ったという。
「…そして民は思ったのだろう。インダストクリュスタスを使った、利便性を求め作り上げてきた技術では、本当の平和は得られぬと。その思いは、“抵抗勢力”を結成するに至った。だから私たちは支配力をより強化した」
ベルダたち支配者は、抵抗勢力を徹底的に潰し、民への見せしめにしたらしい。
そんな中、抵抗勢力側に、一人の科学技術者がついた。
「…“エゼル・プルカ”、美しい女性の科学技術者だ」
ベルダは相変わらずの無表情と感情のない口調だが、その言葉に何かあると今野は感じた。恐らく惹かれていたと。
「…彼女だな?」
今野が先程目を奪われた、ビジョンに映る女性を指差すと、ベルダは頷いた。
「何者だ?」
「我々の側にいた特権階級の中でも、王族として文明の中心にいたプルカ家の娘だ」
支配者たちの力を前に、対抗できる術を見つけ出すことはできなかった民。
エゼルはその民に力を貸すことにした。
その術として、文明の破壊を行うために、そして支配者を倒すために、新たに別な兵器を造っては意味がないという考えを浸透させた。
そして“真の人の力”で、自然との共存、かつてこの地球に移住してきた頃の生活に戻ろうという言葉を、民に広めたのだそうだ。
エゼルの美しさからなのか、民たちは一つとなり、その考え、言葉を、聞き入れたという。
「真の人の力とは何だ?」
「エゼルは“それ”を見つけたのだ……。その頃、地球は長い氷河期を終えようとしていた。ずっと姿を見せずにいた太陽が少しずつ光を射すようになってきた…。エゼルは言った。インダストクリュスタスはもう必要ないと…」
エゼルは、その時の科学技術者の中でも、特別な天才だったという。
それまで何かを動かすための原動力、つまり現代でいう電気や化石燃料のような役割を担ってきたインダストクリュスタスから、エネルギーを生み出している“聖なる光”のみを抽出することに成功した。
「聖なる光?」
「そうだ。私もインダストクリュスタスの研究はしていたが、そこまでのことを考えたことはなかった」
インダストクリュスタスの持つエネルギーは強い。間違えて人が取り込むと死んでしまう。
「ゴーレムのような強さを、人でも持てるものか、インダストクリュスタスを使った人体実験を何度か行ったが、無理だった」
しかしエゼルは知っていたという。
インダストクリュスタスの持つ原動力としての力はむしろ副産物であり、中にある光こそが、真の力だと。
抽出した聖なる光は、物理的な力とは異なる、不思議な性質を持っていた。エゼルはその光を利用し、ある物を開発したという。
「一体…どんな物なんだ?」
「“物”と呼んで良いのか分からないが…。本当に不思議な物を開発したよ、彼女は」
「何なんだ、それは?」
「シャドーメモリーズ…我々はそう呼んだ」
「シャドー…?」
「形のない膨大な情報を扱えるエネルギー体だ。私の記憶と意志をコピーしたスペスメモリアなど、シャドーメモリーズに比べればゴミだ」
シャドーメモリーズは、高い技術の文明の中にいた古代人から見ても、“神の領域”だったという。
物理的な力はないが、聖なる光にはあらゆる可能性があった。
中でも特質していたのは、クリスタルのままでは不可能だった、人間への取り込みが出来たこと。
人間がその光を取り込むことで、脳の使っていない部分の覚醒を可能とすることだった。エゼルはそのことを発見していた。
脳の覚醒は、未知の潜在能力の向上、または変異等を可能とし、人そのものを超人に変えた。
民は、兵器に頼らない“武器”として最強兵士を手に入れたのだった。
「シャドーメモリーズは、君の理解出来る言葉で言えばプログラムをすることで何にでも化けるのだ」
「プログラム?」
「あらゆる条件を書き込むことが出来、力の設定が出来るのだ。もはや科学や技術ではない…まさに神の領域だ。膨大な情報を入れることが出来ると言うのは、性質の一つに過ぎない」
エゼルは、シャドーメモリーズに古代文明の黒い歴史、そして権力者たちの所有する古代兵器とその技術を記録した。
そして、高い戦闘技術と、破壊兵器とそれらを扱う支配者の抹消”するように書き込みを行った。
「…想像出来なかった。そんな物で、我々が負けることになるとは。いや、文明が滅びるなどとは」
エゼルが、シャドーメモリーズに最後に書き込んだもの…。これが特に重要な、キーワードだった。
正義なき者に悪用されないよう、純粋な心の持ち主以外には書き込みも、取り込むことも不可能にしたのだ。
よって、ベルダたちがそれを奪っても自分達の力にすることは出来なかった。
そして新しい世を築くであろう若者たちにシャドーメモリーズは託されたのだった。抵抗勢力の若者たちは、それを取り込み最強兵士として覚醒したという。
「その若者たちの名を、我々は“シャドーウォリアー”と呼んだ」
シャドーウォリアーたちは世を再び自然の中に戻すため文明の破壊活動を行った。そして兵士たちは優秀にして最強を証明するかのように、古代文明はわずか数日で滅びた。
「す、数日!?本当に数日で滅んだのか?」
今野が驚きを見せると、ベルダは周囲のビジョンを変えた。揺れ動く地面、燃える街、転がる死体と、壊れた兵器。
そして緑の光を放つ“剣”を持った幾人かの若者たちが、通り過ぎて行くのが見えた。
「こ、この者たちが、シャドーウォリアーか」
「…しかし急な文明の破壊は、さらなる破壊を生み、技術に支えられたあらゆる物が不安定となり、エゼルや民の望み通りに文明は滅んだが、同時に古代人そのものの滅亡という結果を生んだのだ」
ベルダは、またビジョンを変えた。すると全てが光に包まれていく。
古代文明の痕跡が、現代において何も出てこないのは、インダストクリュスタスの暴走によるものだったのだ。
シャドウウォリアーたちは兵器の元になる全てのインダストクリュスタスを破壊した。
その反動で放出した莫大なエネルギーは、大陸そのものを消し去ったのだった…。




