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SHADOW DETECTIVE  作者: 柳生 音松
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第二十話 専門外


1999.12.4 -SATURDAY-


  早朝。


 まだ薄暗い、東京駅近くの大通り。


 首都中心の駅といえど、早朝は嘘のように静まり返り、人気はない。


 近くに見えるコンビニの前に停車しているトラックから、ドライバーがおにぎりやらサンドイッチやらの入った籠を店内に運んでいる。


 早朝ならではの光景だ。



 これから一、二時間もすると多くの人が行き交う都会の光景に変わる。その道脇に、赤いポルシェが停車していた。


 エンジンはかけっぱなしで、車内と外気温との差でウインドウは曇っていた。


 後方から、少し年季の入った茶色のセドリックが近づき、停車した。


 ハザードが点滅すると、中から佐久間が出てきた。


 涼子も自分の車から降りた。顔を合わせると、微笑む二人。


「佐久間さん、すみません」


 佐久間は後部ドアを開けて、座席から布製の鞄を手渡した。合田の持ってたノートPCだ。


「いや、警部の目を盗んで持ち出すのドキドキしたぜ」


 いつもなら涼子が勝手に持ち出していたのだろうが、佐々木に睨まれては、証拠品片手にというわけにはいかない。そこで、涼子はノートPCの入った鞄を廊下の壊れたダクトの隙間に入れて置いたのだった。


 しばらくは現場保存で警察官が二十四時間体制で立っているので、あとから持ち出すにも、佐々木に報告されてしまう。もちろん、涼子が見張りの警察官を脅すという手もないこともないのだが、どちらも避けるために、佐久間に上手く持ち出してくれとお願いしたのだ。


「もし、あそこで俺と出会さなかったら、どうするつもりだったんで?」


「その時はその時でしたよ」


「そうかい。それが何かはわからんが、少なくとも、あんたの手にないと役に立たないってことなんだろうな」


「まぁ、そういうことです」


「何しても上手くやんなよ。佐々木は面倒だし、事件の真相も何だかヤバそうな臭いがするしな」


 そう言い、踵を返しながら手振った佐久間は、車に乗り込み、その場を去った。


 涼子は佐久間の車を見送ると、自分の車の助手席にノートPCの入った鞄を置いた。


「さて…」


 涼子が次に向かった先は、足立区西新井栄町。


 愛車のエンジンを蒸しながら、朝の空いている道をストレスなく走行させる。アクセルを踏み込み、回転速度上げると、ハンドルに伝わる力強い振動を感じた。


 昨夜は合田を助けに、ただ飛ばしただけだったが、今は久しぶりの愛車の感覚を少しだけ楽しんでいた。


 三十分ほど走り、到着したのは住宅街にある高級マンション。


 この一室に、六堂が裏社会に身を置いていた頃の仲間だったハッカー、木崎が住んでいた。


 エントランスで、木崎の部屋番号を入力する涼子。


 呼び出し音が鳴るがなかなか出ない。






 部屋では、ベッドで若い女と一緒に熟睡していた木崎がエントランスからの呼び出し音で叩き起こされていた。


 不規則な生活をしている彼は、寝る時間もいつも異なっており、強いて言えば“眠い時に寝る”ような生活をおくっている。


 舌打ちをし、布団を頭からかぶる木崎。このまま居留守を通そうと思い、全く出ようという気はない。


 だが、音はしつこく止まる気配はなかった。


「くそっ、誰だ」


 観念した木崎は、受話器を取った。


「はい、どちら?」


 露骨に不機嫌そうな声で尋ねると、モニターに見覚えのある顔と、そして聞き覚えのある声で返ってきた。


「おはよう。私だ、坂崎だよ」


 半目だった木崎は彼女の声を聞いて驚いた。


 エントランスのドアを開けるために布団から出た木崎は、ジーパンだけを履いていて、上半身は裸だった。


 脱ぎ捨ててあったチェックのウェスタンシャツの袖に腕を通し、エントランスのドアを開けた。


 涼子が部屋の前に来るまで、木崎は冷蔵庫からペットボトルのミネラルウォーターを取り出し、寝起きで乾いていた喉を潤し、洗面所でサッと顔を洗い、タオルで拭き取った。


 玄関のインターホンが鳴る。ドアを開けると、久しぶりに会う涼子の姿がそこにあった。


「悪いな、朝から」


 涼子は謝罪するが、木崎は気分悪そうな顔をした。


「来るなら来るで、前もって連絡くれ」


「頼れる人間がいなくてね、事件捜査の流れで来たんだ」


「…捜査って、ひょっとして引っ切り無しにテレビでやっている、セントホーク絡みか」


「そんなところだ」


「SAT二個小隊全滅ってマジ?」


 涼子は黙って頷くと、木崎は眉根を寄せながら笑った。


「すげえな、容疑者の殺し屋ってのもまた…『一人の殺し屋 vs SAT』!!まるで“レオン”だな」


「あれはSWATな」


「どっちでも同じだ。で、やっぱ“厄介なお話”を持って来たってことだよな?」


 木崎は少し愚直なところがあり、思ったことや感じたことをストレートに言う癖がある。


 涼子は苦笑しながら言った。


「露骨に嫌そうだな」


「そりゃまだ寝てたいんでね。それに最近は六堂への無料奉仕に労力使って疲れてんだ」


 木崎は庄司エンタープライズの江村について調べたことを言っている。


「じゃあ、私を追い返すか?」


 冗談っぽく涼子がそう言うと、木崎は口を曲げて、ため息をついた。


「六堂の師匠の頼みを断るわけねえだろって。それにあんたに…逆らえる力は俺にはねえ」


 木崎は涼子を部屋に招き入れた。


 部屋は散らかっていてゴチャゴチャしているが、そんなことは驚きはしない。


 機材に繋がっている配線に足を引っ掛けないよう気をつけるのも知っている。


 驚いたのは、散らかり具合より、ベッドで寝ている女だった。女というより、少女だ。


 制服のスカートが乱れて、生脚が露になっている高校生。見覚えのある制服だ。都内の高校だろう。


 素足でソックスは履いておらず、ブラウスのボタンが胸元まで外され、水色のブラが見えていた。


 少女は物音で起きたのか、薄目でこちらを見あげた。そして木崎に一言「……誰?」と尋ねた。


「“大事”な客だ。寝てていい」


 木崎が素っ気なくそう言うと、少女は寝返りをうって丸くなり、そのまま寝入った。


 丸くなったせいで、短いスカートから出たお尻に、ブラと同じ柄の下着が見えるた。


 涼子はそんな彼女に目をやりながら、ソファーの上に乗っている本を勝手にどかして座った。


「お前、まだ女子高生囲ってんの?」


 半分呆れた顔で涼子はそう言った。立場上は一応見過ごしてはならない状況だからだ。


 木崎は昔から高校生の女の子をナンパしては遊んでいる。おまけに女の子ウケのよいルックスをしていて“歳下キラー”ときている。


 彼のせいで何人の年頃の娘たちが、青春に傷をつくったのかは、本人も人数は記憶していない。


「馬鹿言え。あいつとはもう一年近く付き合ってる。最近は遊んでねえよ」


「…どうだかなぁ」


「いいんだ、ほっとけ。それより、頼みって何だ?」


 どかっとデスクの椅子に腰を掛け、煙草を口にくわえる木崎。


 涼子は、布製の鞄からノートPCを取り出し、テーブルに置いた。


「こいつは…」


 それを目にした木崎は驚いた。


「これを使って、“ミストネット”の個人保管庫に侵入してもらいたいんだが、お前できる?」


 涼子は単刀直入に用件を述べた。


 それを聞いた木崎は呆気に取られたような顔になり、火をつけようとしていた煙草を口から落とした。


「…冗談だろ」


「まぁ、その反応から察するに、多分聞き間違えてはいないと思うけど」


 涼子が真顔でそう言うと、木崎は肩をすくめて言い返した。


「それは“頼み事”の範囲に入らないぜ」


 『ミストネット』とは、いわゆるデジタルのインターネットとは全く異なるものだ。


 Magical powerspaceという、魔力で構成された異空間の俗称だ。その空間が物理的にあるのか、どのようなものなのかは、わかってはいない。


 ただ古来、魔力を通した情報を扱うアイテムといえば、水晶玉や鏡等だったが、そもそも近代になるにつれ、そういう道具の作り手もいなくなっていった。


 変わりゆく時代に対応するべく、ある大魔導士が築いたのが、この特殊なPCでアクセスするという方法…と、諸説あるが、その話が裏社会では一番多く聞く。


 謎も多く存在がよくわからないことから、ミストネットと誰かが呼ぶようになったらしかった。


 使用するには“ウィザードキー”と呼ばれる特殊なPCと、魔導師の使う魔法言語の知識が必要だった。


 水晶や鏡と違い、魔導師でなくても魔法言語を知っていれば、使える特徴があるが、ウィザードキーがこの世に何台存在しているか定かではない。


 少なくとも、木崎は都内でニ台しか見たことがなく、所有者も知っていた。これが三台目。


 ミストネット内にはユーザーの個人保管庫があり、そこに集めた大事な情報をしまうことが出来る。


 魔法の力で、保管庫は厳重にプロテクトされており、侵入しろと言われても通常のネットを介した方法とは訳が違う。


 木崎は改めて煙草を咥え、火をつけた。一呼吸置いて、煙を吐き出すと、呆れ顔で言った。


「あのな、ウィザードキーがありゃ何とかなるわけじゃあない。魔法やら魔術なんて俺の専門外だ」


 (やはりか)と思った涼子は、困った顔をした。


「ちなみに、このPCの元の持ち主は合田史智のだ」


「…合田?あの合田?」


 知り合いではないが、木崎も顔は知っている。


 合田が密輸や仲介などをこなすために、ミストネットを利用していたことを涼子も今回のことで知った。


 情報のエキスパートという点で言えば、合田が小物の割にそうであった理由がこれで判った。


「あいつがこれを…?魔導士でもないくせに、魔法言語を勉強してたのか。意外すぎる努力家だな」


 涼子は、合田のポケットに入っていた折られた紙切れを木崎に手渡した。


 紙切れを開いて見ると、魔法言語が記されていた。恐らくアクセスするためのパスワード。


「本当に魔法言語を使ってたんだな」


「そのようだ。ただ、努力は虚しく、合田は殺された。ついさっきな……」


「あらら…」


 涼子はソファーの背もたれに寄り掛かり、足を組んだ。そして首を後ろに倒して、真上を向いた。


「やっぱり無理だよなぁ…伊乃からも専門外だって言われてたんだよな」


 ため息をつきながら、涼子は真上を向いたまま、少し力の抜けた声で言った。


 そんな彼女に、木崎は更に呆れた顔をする。


「じゃ、何で来たんだよ」


「他に頼るツテもなくてね」


 木崎は煙草を咥えながら鼻で笑った。


「あんたさ、前々から思ってたけど、意外と“普通”だよな」


「ん?」


「“裏社会”でかなりヤバい存在って言われてる割にさ。数が少ない魔導士はともかく、俺の他に頼れる奴いないのか?」


 涼子は首を戻し、木崎の方向いた。


「…勘違いだな。私は、お前や、以前の伊乃のように、裏社会に身を置く者たちとは異なる。結果、裏社会に名が浸透してしまっただけでね」


 煙草の灰をデスクの上に置いてあったビールの空き缶に落とす木崎。


「何でもいいけどさ。まぁ、この件は…俺の知る人間で何とかできそうなのは、やっぱ、夕紀だろうなぁ…」

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