第二十話・あをの軌跡 後編(C)
夜、友人達と改めて会うことになっている。
そのとき、ヨモギはどんな顔をすればいいのだろう。
たった一人浮かない顔をしていていいのだろうか。それで誰かを祝福することができるのか。
そんなわけはない。
「どうしたの?」
迎えに来たフヂナがヨモギに聞く。
「なんかさ……お姉ちゃん、割れちゃいそうだよ?」
フヂナはヨモギが変わろうとしている気がした。今までにないほど強固な顔をしたヨモギに、フヂナは卵の殻を見たのだ。
なのに、フヂナにはまるで不安がなかった。よくはわからないが、絶対に大丈夫だという確信めいたものがあったのである。
海沿いの橋の近く、そうそう車の通らない、大きいばかりの道路が寂しい。後ろにある急に曲がりくねった道が、遠く、虹をかけるように空へと伸びていっていた。
フヂナはどうしても気になって、ヨモギの顔を覗き込む。
ふと風が吹いて、ヨモギの黒い髪が美しく舞った。横を何かが通り過ぎたのだろう。
そして、フヂナは、紫の瞳が通り過ぎたものを追いかけるのを見た。
「今の……」
「今の? わからなかったけど、なんだったの?」
ヨモギの横を通りすぎたもの。それはヨモギにもよく見えなかった。
しかし、視界の片隅、ほんのわずかな意識がそちらに向いて、はっとして振り返ったときには、もうそれはどこかへと行ってしまっていた。
だが、ヨモギの意識は、ぼんやりとだが、その姿を捉えていた。
純白の、馬のようなマシン。
灰色の仮面。
灰色のコート。
プロテクター。
腰から棚引く、長めの、尾のようなもの。
仮面に埋もれた黒いゴーグル。
そんなものが見えた気がした。
ありえないはずのもの。それはきっと、白昼夢。
「……なんでもないっ」
呆気にとられたような表情だが、ヨモギの声には喜色がかかっていた。
「なんでもないよっ! 行こっ!」
ついには顔までほころんで、ヨモギはフヂナの手を強くひいた。
―――
わたしは死にいくあの人を許すことができませんでした。
余生も誇りも、すべてを贖罪のために削り捨てた人を、ついに最後まで許すことができなかったのです。
わたしは鬼なのかもしれません。
いえ、なににしろ、わたしもまた、許されない人間なのはたしかなんです。
なぜなら、その許せない人を、許してはいけない人のことを、わたしは、今でも……
だから捨てようと思います。開放してあげようと思います。
あの人を、なにもかもから。
わたしは許されない者だから、けっしていい人なんかじゃないから、忘れてしまおうと、そう思うんです。
そうして、あの人が生きた時間を、あの人だけのものにしてあげようと、ただ、そう思うんです。




