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其は微笑みの代価  作者: 千代田 定男
第三章 復讐者
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第二十話・あをの軌跡 後編(C)

 夜、友人達と改めて会うことになっている。

 そのとき、ヨモギはどんな顔をすればいいのだろう。

 たった一人浮かない顔をしていていいのだろうか。それで誰かを祝福することができるのか。

 そんなわけはない。

「どうしたの?」

 迎えに来たフヂナがヨモギに聞く。

「なんかさ……お姉ちゃん、割れちゃいそうだよ?」

 フヂナはヨモギが変わろうとしている気がした。今までにないほど強固な顔をしたヨモギに、フヂナは卵の殻を見たのだ。

 なのに、フヂナにはまるで不安がなかった。よくはわからないが、絶対に大丈夫だという確信めいたものがあったのである。

 海沿いの橋の近く、そうそう車の通らない、大きいばかりの道路が寂しい。後ろにある急に曲がりくねった道が、遠く、虹をかけるように空へと伸びていっていた。

 フヂナはどうしても気になって、ヨモギの顔を覗き込む。

 ふと風が吹いて、ヨモギの黒い髪が美しく舞った。横を何かが通り過ぎたのだろう。

 そして、フヂナは、紫の瞳が通り過ぎたものを追いかけるのを見た。

「今の……」

「今の? わからなかったけど、なんだったの?」

 ヨモギの横を通りすぎたもの。それはヨモギにもよく見えなかった。

 しかし、視界の片隅、ほんのわずかな意識がそちらに向いて、はっとして振り返ったときには、もうそれはどこかへと行ってしまっていた。

 だが、ヨモギの意識は、ぼんやりとだが、その姿を(とら)えていた。


 純白の、馬のようなマシン。

 灰色の仮面。

 灰色のコート。

 プロテクター。

 腰から棚引く、長めの、尾のようなもの。

 仮面に埋もれた黒いゴーグル。


 そんなものが見えた気がした。

 ありえないはずのもの。それはきっと、白昼夢。

「……なんでもないっ」

 呆気にとられたような表情だが、ヨモギの声には喜色がかかっていた。

「なんでもないよっ! 行こっ!」

 ついには顔までほころんで、ヨモギはフヂナの手を強くひいた。


―――


 わたしは死にいくあの人を許すことができませんでした。

 余生も誇りも、すべてを贖罪のために削り捨てた人を、ついに最後まで許すことができなかったのです。

 わたしは鬼なのかもしれません。

 いえ、なににしろ、わたしもまた、許されない人間なのはたしかなんです。

 なぜなら、その許せない人を、許してはいけない人のことを、わたしは、今でも……

 だから捨てようと思います。開放してあげようと思います。

 あの人を、なにもかもから。

 わたしは許されない者だから、けっしていい人なんかじゃないから、忘れてしまおうと、そう思うんです。

 そうして、あの人が生きた時間を、あの人だけのものにしてあげようと、ただ、そう思うんです。

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