第十六話・真実の色(C)
ファントム。開門計画の新たな目標。ゾ号作戦の成果。
現在、ダリア隊はファントムに関する結果を掌握していた。
作成はすでに軌道にのっている。急速に培養された形質は、用意された生体部品に鋳込まれて組織として形成、まとめられ、生物の体裁を整えていった。
「気候、時間とも問題なし」
「各データチェック……異常なし。全リセット」
「終末誘導はガイダンスユニットに設定完了」
ダリア隊の隊員が大量のファントムを運んでいる。
ファントムには自我はなく、命令された指示を遂行するだけの木偶人形である。
だが、目的意識だけでも十分にマインド能力は起こる。むしろ、自我がない分操り人形としての完成度は高いと言える。完全なる兵隊と呼べるかもしれない。
マインド能力の発揮した兵士。それは、指向性力場を生身で纏う戦史にない存在である。これを無尽蔵に生み出すことがすでに可能なのであった。
「ファントム、まだ生産しているのですか? これ以上は過剰かと」
朱塔はダリア隊を訪ねていた。彼らの出動は知らされていた情報よりもはるかに早かったのである。
なにかを隠している。
つい先日まで信頼を寄せていたディプロガーダーが、今ではこんなにも怪しく見える。
「意外に遅かったな、朱塔。いやなに、もう少し必要になったのでな」
「具体的にはどれぐらい必要なのです?」
「さあな。だが、もう少しだ。そうだな……ほんのあと数億だ」
「……なんと?」
「数億だよ。それぐらいが目安だな、だいたいで」
「なんの冗談ですか? あまりに非現実的な数ですが。なにに必要なのです」
「カンパニーは国に圧力をかけて軍まで動かさせている。全面的に対抗するためだよ」
「それでも億というのは異常でしょう。仮想として、戦略兵器でも使わせたいのですか」
「しばらく使いはせんさ。我々が使う開門計画の成果を見たいだろうからな。それが終わりになるとも知らないで」
「包囲網をしかれて突破されるだけです」
「生産を継続し続けるんだよ。戦線を維持して、少しずつ王都を蝕んでいく。それに我々のパワーを全部つぎ込んでいい。圧されるよりはるかにはやく生産は可能だ」
「……静町が孤立しているようです。それだけではありません。どの町も分断されています。私が暁町に来るのも一苦労でした。私の部下などは入ることさえできない。あれらの検問はなんです?」
「治安維持だ。反乱を起こされたくない」
「ファントムを使ってどう治安維持をしようと?」
「治安維持自体がファントムの実証実験をするまでの準備だよ、時間稼ぎだ。あの馬鹿馬鹿しい演説もな」
「あなたは細歩をただの怪物製造工場としか見ていないのか!」
「気づくのが、遅いなぁ……!」
「この堕落者奴!」
「なあ朱塔、ここは病原だ。カンパニーによって変質化した細胞だ。なのに、誰もそれに気づかない。我々はマーカーだ。担体だ。ここがどれだけ人々にとって悪いものか、我々が教えてやるのだ」
「……鉄さんの言うとおり、あなたは――」
「百戦鬼が何を貴様に語ったかは知らんが、想像はつく。そして、それが当たっていることもな。どうだ朱塔、貴様の美学に反するだろう?」
「その先に平和はありません……!」
「ないさ。生物に平和など不要なんだ。生きているのだからな」
「なに?」
「平和を求めるのは間違いではない。しかし、それほどまでに求めた平和の中で起こるのはなんだ? 腐敗や堕落ではないか。平和を謳いながら、まるでその価値をわかっていないんだ。そもそも意味を知ろうとしていない。わかるわけがない。そんなものは幻想なのだからな」
「さすがに鉄さんの元上司といったところですね! 生殺与奪を預けるのは信頼関係の現われだということをお忘れだ!」
「信頼関係だと? 付け入る隙でしかない。そんなものに頼る平穏に意味などあると思うか? ワシはないと思う。無意味だ。ないのと同じだ。だったら、いっそ滅ぶべきだ。誰かが平和を享受する一方で、その穴埋めに、他の誰かが血と臓物を垂れ流さなければならない。それなら、はじめから全員で殺しあっているべきなんだよ」
「怪物の発想だ!」
「家畜ならば食われる。人ならば戦う。ワシはすべての人間に、このどちらかを選ばさせるつもりだ」
嘉島の口がいやらしく歪む。
「世界を、混ぜ返す」




